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計算された無礼 (マールス視点)
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露わになった第三王子、その姿を初めて目にし俺は茫然と固まることになった。
噂に聞く第三王子、どんな人物だろうと想像はしていた。
けれど、実際目の前にし、その威圧を全身にうけ、俺は自身の考えがどれだけ甘かったのかを理解する。
……そんな相手に対し、不敬なことをしてしまったという事実に、俺の背中に嫌な汗が流れる。
しかし、そう俺が逡巡していたのは僅かな間だけだった。
王族相手の不敬も前からの計算の上だと自分に言い聞かせ、俺はなんとか平静を取りもどす。
そして、その場へと俺はひざまずいた。
「王族の尊きお方に不敬を働いてしまい、謝罪だけで許されるものではないと重々承知しております! しかし、どうしてもお耳に入れたいことがあり、無礼を承知でこの場に参らせていただきました」
そこで一度言葉を切り、俺は告げる。
第三王子に一番響くはずの言葉を。
「サーシャリア姉様についてです」
「……っ!」
瞬間背後の人間、伯爵家当主が息を飲んだのが伝わってくる。
どうやら、伯爵家当主は今になってようやく気付いたのだろう。
一体俺が、今から何を訴えようとしているのか。
俺はサーシャリアの迫害について、告発しようとしているのだと。
俯いた顔が見えないのをいいことに、俺は笑みを浮かべる。
こんな想像もしていなかった大チャンスを逃す気など、俺には微塵もなかった。
ここで第三王子に対して自分がサーシャリアを助けようとしていたと思わせることさえできれば、成功はほとんど決まったようなものだ。
唯一、サーシャリアが見つかって俺のことを告発するようなことがあれば厄介だが、それは後からどんな手段を使っても……そこまで考え、俺はある以上に気づいた。
おかしい、俺がひざまずいてからすでに数十秒はたっている。
なのに、第三王子は一言も口にする気配がなかった。
その異常に、俺は不敬だとわかりながら、思わず顔を上げてしまう。
「……ひっ!」
自分を見下ろす第三王子、アルフォードの害虫を見下ろすような表情。
それを目にして、俺は瞬時に理解することになった。
第三王子は全てを理解している、と。
アルフォードの目に浮かぶ冷ややかな光は、俺の工作を見破っているとしか思えないものだった。
恐らく俺が何を望んでこんな行動をしたのか、そしてこの格好まで計算であることを、アルフォードは理解しているだろう。
そのことに気付いた瞬間、俺の頭にあったのは危機感だった。
この場にいてはならない、そんな危機感のまま俺はこの場を去ろうとして……その時既に手遅れだった。
「どこにいく?」
「っ!」
その美しい外見からは想像できない力で、第三王子は俺の肩をつかんでいたのだから。
「ここまで無礼を働いておいて、逃げられると思っていたのか?」
噂に聞く第三王子、どんな人物だろうと想像はしていた。
けれど、実際目の前にし、その威圧を全身にうけ、俺は自身の考えがどれだけ甘かったのかを理解する。
……そんな相手に対し、不敬なことをしてしまったという事実に、俺の背中に嫌な汗が流れる。
しかし、そう俺が逡巡していたのは僅かな間だけだった。
王族相手の不敬も前からの計算の上だと自分に言い聞かせ、俺はなんとか平静を取りもどす。
そして、その場へと俺はひざまずいた。
「王族の尊きお方に不敬を働いてしまい、謝罪だけで許されるものではないと重々承知しております! しかし、どうしてもお耳に入れたいことがあり、無礼を承知でこの場に参らせていただきました」
そこで一度言葉を切り、俺は告げる。
第三王子に一番響くはずの言葉を。
「サーシャリア姉様についてです」
「……っ!」
瞬間背後の人間、伯爵家当主が息を飲んだのが伝わってくる。
どうやら、伯爵家当主は今になってようやく気付いたのだろう。
一体俺が、今から何を訴えようとしているのか。
俺はサーシャリアの迫害について、告発しようとしているのだと。
俯いた顔が見えないのをいいことに、俺は笑みを浮かべる。
こんな想像もしていなかった大チャンスを逃す気など、俺には微塵もなかった。
ここで第三王子に対して自分がサーシャリアを助けようとしていたと思わせることさえできれば、成功はほとんど決まったようなものだ。
唯一、サーシャリアが見つかって俺のことを告発するようなことがあれば厄介だが、それは後からどんな手段を使っても……そこまで考え、俺はある以上に気づいた。
おかしい、俺がひざまずいてからすでに数十秒はたっている。
なのに、第三王子は一言も口にする気配がなかった。
その異常に、俺は不敬だとわかりながら、思わず顔を上げてしまう。
「……ひっ!」
自分を見下ろす第三王子、アルフォードの害虫を見下ろすような表情。
それを目にして、俺は瞬時に理解することになった。
第三王子は全てを理解している、と。
アルフォードの目に浮かぶ冷ややかな光は、俺の工作を見破っているとしか思えないものだった。
恐らく俺が何を望んでこんな行動をしたのか、そしてこの格好まで計算であることを、アルフォードは理解しているだろう。
そのことに気付いた瞬間、俺の頭にあったのは危機感だった。
この場にいてはならない、そんな危機感のまま俺はこの場を去ろうとして……その時既に手遅れだった。
「どこにいく?」
「っ!」
その美しい外見からは想像できない力で、第三王子は俺の肩をつかんでいたのだから。
「ここまで無礼を働いておいて、逃げられると思っていたのか?」
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