妹に全てを奪われた私は〜虐げられた才女が愛されることを知るまで〜

影茸

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行動の理由 (マールス視点)

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 屋敷の玄関へと走っていきながら、俺の口元に浮かんでいたのは隠しきれない笑みだった。
 一体どれだけこの時を待ち望んでいたか、そう考えるほどに心が沸き立つ。

 走る途中、伯爵家に残った僅かな侍女達と鉢合わせするが、信じられないといった表情を浮かべるだけでだれも俺を捕まえようとする人間はいなかった。
 それを見ながら、俺はさらに笑みを深める。
 これこそ、今まで無抵抗であった甲斐があったと。
 伯爵家の人間は想像もしていないだろう。
 俺がずっと無抵抗だったのは、全てこの時のため。

 ──いずれ第三王子の手の者が調査にやってくると俺が想像していたなんて。

 伯爵家は明らかに破滅の道を暴走している。
 そのことに、俺はサーシャリアがきえた瞬間には理解していた。
 それは、あのカインがいてもなお、拭いされない失態。
 その上、伯爵家はカインと手を切った。
 それをみれば、誰だって分かる。
 
 伯爵家の破滅が遠くないことなど。

 むしろ、今まで第三王子が手の者を調査に出していないのが不思議なことを伯爵家はしてきていた。
 そして、伯爵家の身内である以上、その破滅に巻き込まれるのは避けられないことだろう。
 だから、俺はすぐに手を打った。

 俺はサーシャリアの味方だった、そう装うことで。

 そして、その作戦は八割は成功しつつあった。
 俺は今や、明らかに虐待されているとしか見えない状況だ。
 また、サーシャリアが虐待されていたことを知っている貴族も多い。
 そんな状況で、俺がサーシャリアへの虐待を第三王子に伝えればどうなるか。

 ──誰もが俺を、サーシャリアを庇って虐待されたと想像してくれるだろう。

 その瞬間、俺は晴れて正義の味方だ。
 誰も俺が伯爵家側に人間なんて考えない。
 伯爵家の人間がいくら俺を責めたところで信じる人間などいなくなる。
 そんな思いを胸に、俺は屋敷の玄関へとたどり着く。

「アルフォード様、お話があります!」

 そして、一切の躊躇なくそう叫ぶ。
 伯爵家当主が、信じられないような顔で俺をみて固まった。
 その後すぐに、いやな予感を感じたのか俺の方へと手を伸ばすが、一瞬の硬直は致命的だった。
 俺は伯爵家当主の手が届く前に、玄関の扉を開け放つ。

 次の瞬間、玄関の扉が開いていき、そして徐々にその奥から長身の男性の姿が露わになった。

「……随分な出迎えだな」


 ◇◇◇

 更新遅れてしまい申し訳ありません!
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