妹に全てを奪われた私は〜虐げられた才女が愛されることを知るまで〜

崩れ落ちる侍女 （伯爵家当主視点）

　その侍女の声が聞こえたとき、私は思わず笑みを浮かべていた。
　このタイミングで私の部屋を訪れてくるのは、私の行っていたことに何らかの成果が出たということだろう。

「入れ！」

　そう考えついた瞬間、私は反射的にそう叫んでいた。
　しかし、急く私の内心と対照的に、扉はなぜかゆっくりと開かれた。
　その速度に、内心何をしているのだといらだちを私は覚える。

「だ、旦那様」

　……しかし、その私の苛立ちは侍女の蒼白な表情を見た瞬間に消え去ることとなった。
　猛烈ないやな予感を、私は感じる。

「これを……」

　そんな私に、侍女は自身の手に持った手紙を手渡してきた。
　その手紙に記された名前は、私の想像していた商会の名前だった。
　数少ない、未だ伯爵家との交流を続けてくれた商会だ。
　しかし、今の私はそのことを喜ぶことはできなかった。
　おそるおそる私はその手紙開く。

　そして、目に飛び込んできたのは、伯爵家と縁を切りたいという旨が記された文面だった。

「……っ！　この、恩知らずが！」

　それを目にした瞬間、私は耐えきれずそう叫んでいた。
　そんな私に、さらにとどめを刺すように使用人は告げる。

「手紙を持ってきたものからの伝言で、もう連絡を取らないでほしいと……」

「なんだと……！」

　それは、通常貴族の方が立場が強いことを考えれば、最大の拒絶といってもいいだろう。
　それに私は、隠し切れぬ怒気を込めて吐き捨てる。

「金を融通してくれと言っただけで、この仕打ちだと？　一体どれだけふざ……」

「……は？」

　呆然とした、侍女の声が響いたのはそのときだった。
　蒼白な顔の侍女は茫然と私に問いかけてくる。

「……もしかして、この数少ない残ってくれた商会に、金を融通するよう頼んだのですか？」

「それがそうした？　そうだ、伯爵家を立て直す金をくれるように手紙をだしたのだ。今まで助けていたことを考えれば……」

「そんな、あり得ない！　この状況でそんな……」

　蒼白だった、顔をさらに白くして侍女は茫然と呟く。
　しかし、すぐに何かに気付いたように彼女は私へと目をやる。

「……旦那様。もう一つお聞きしてよろしいでしょうか」

「なんだ急に？　おかしな態度を取りよって」

「残った商会にも、お金を融通するような手紙を出したりしてませんよね？」

「何を言っている、そんなもの決まっているだろう」

「……失礼いたしました。そうですよね」

　とたん安堵が広がっていく侍女の顔を見ながら、私は告げる。

「送っているに決まっているだろう？　何、こんな恩知らずな商会も、そうはいまい。きちんと伯爵家を再建するための金は用意でき……」

「う、嘘……！　そんなこと……」

　侍女が茫然とその場に崩れ落ちたのはその瞬間だった。