妹に全てを奪われた私は〜虐げられた才女が愛されることを知るまで〜

影茸

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必要なもの (マルク視点)

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 アルフォードが去ってからしばらく、部屋の中俺もリーリアもなにも言葉を発せなかった。
 けれど、二人と理解していた。
 ……このまま黙っている訳にはいかないと。

「マルク、どうしよう」

 そして、口を拓いたリーリアの声は、隠しようがないほどに震えていた。
 普段は冷静そのものなリーリアの声に含まれた、隠しきれない動揺。
 それが何より雄弁に、リーリアの動揺を物語っていた。
 ……この状態では、リーリアに冷静な判断はできないだろう。

 優しすぎるが故に、大切な仲間になるかあると、とたんに冷静さを欠いてしまう。
 そんなリーリアの唯一の欠点を知っているが故に、俺はそのことを理解する。
 そしてこんな時は、普段リーリアの知識に頼ってばかりの自分の出番であることを俺は理解していた。
 こういう時、俺は勘が冴える時がある。
 そしてその勘は詳細な状況を俺に教えてくれていた。

 ただ、そうして理解した状況は決してよいものではなかった。

「……とにかく今は、アルフォードの言う通り、伯爵家に対処するしかないだろうよ」

「っ!」

「あいつは確かに今、暴走している。でも、言っていることが間違っていないことはリーリアも理解しているだろう? 伯爵家だけは、確かに今のうちに何とかしておいた方がいい」

 俺がそういうと、リーリアは顔を俯かせる。
 けれど、それは納得したが故の行動ではなかった。

「……でも、アルフォードとソシリアをそのままにしておいていいの?」

「多分、ソシリアはもう大丈夫だ」

「え?」

 一瞬、俺の言葉にリーリアの顔に驚愕が浮かぶ。
 しかし、その疑問に答えることなく俺は告げる。

「問題なのは、他の人間。アルフォードと……サーシャリアだ」

「サーシャリア……?」

「ああ、サーシャリアもアルフォードも根本は変わらないんだよ」

 顔を歪めながら、俺は吐き捨てる。

「どっちもお互いを大切に思っていて……その十分の一さえも、自分を受け入れられないからすれ違っている。お互いの勘違いをたださないと、二人ともすれ違ったままだ」

 俺の言葉に、リーリアは顔を俯かせる。

「……でも、あんな目に遭ったサーシャリアにさらに負担をかける訳には」

 そのリーリアの言葉に、サーシャリアには余計な負担をかけず、すませたいとという内心を理解し、俺は僅かに顔をしかめた。
 ……それこそが、大きな勘違いだと俺は理解していたから。
 その気遣いこそが大きな誤りで、それがここまで大きなすれ違いを生んだのだ。

「リーリアも分かっているんだろう? サーシャリアの為と無闇に遠ざけるのが正解じゃないと」

「……でも、サーシャリアはあんなに気付いていて!」

「ああそうだ。だが、サーシャリアに必要なのはは、真綿でくるむような優しい気遣いじゃない」

 心配と不安で揺れるリーリアの目をまっすぐ見抜きながら、俺は断言する。

「たとえ、本人が拒絶して信じられなかったとしても──信じられるまで俺たちはそばにいると伝え続けることだ」

「……っ!」

 リーリアの表情が変わったのは、その瞬間だった。
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