妹に全てを奪われた私は〜虐げられた才女が愛されることを知るまで〜

影茸

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独断の理由 (マルク視点)

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「……サーシャリに休む時間を与えるためには、伯爵家が厄介。けれど、伯爵家を潰せば、サーシャリアが受け入れられるかわからない」

 現状を羅列していきながら、俺の口元に苦い笑みが浮かぶ。
 改めて考えると、現状はあまりにも厄介なものだった。
 表情を曇らせたリーリアが俺の言葉に頷いて続ける。

「最悪、サーシャリアに黙って実行する手もなくはないけど、それは間違いなくサーシャリアに不信感を抱かせるでしょうし……」

「ああ、その通りだ」

 暗い表情で頷くアルフォード。
 それを目にしながら、俺は思わずにはいられなかった。

 ……こんな問題に、アルフォードは一人で悩み続けていたのかと。

 この問題に対してとれる手段は三つ。
 一つ目は、伯爵家を放置すること。
 しかし、その場合はいずれサーシャリアの生活を伯爵家が脅かしてくることは想像に難くない。

 二つ目は、サーシャリアに言って伯爵家を潰すこと。
 しかし、その場合同意を得られても、サーシャリアには大きな傷を残すことになるだろう。

 三つ目は、サーシャリアに隠して伯爵家に対処することだ。
 その場合は、サーシャリアが休む時間を確保することができる。
 しかし、その後いつまでも伯爵家のことを隠し通すことはできないだろう。
 ……そして、判明したときには生徒会メンバーとサーシャリアの間には大きな溝ができるだろう。

 どれも無視できない欠点を抱えたその三つの対処法を頭で比べ、俺は思う。
 こんなことを悩んでいたのなら、アルフォードが独断気味になるのも仕方ないことだと。
 俺と同じく思い詰めた表情で、リーリアが尋ねる。

「……アルフォード、本当に伯爵家を潰すの?」

「ああ。どれも問題だが、伯爵家をの起こした場合の方が、一番危険だからな」

「そう、だな」

 ……俺はアルフォードの言葉に同意する。
 そう、それが一番問題だということには、アルフォードの話を聞いたことで俺も気付いていた。

「そして、次点に避けたいのはサーシャリアに伯爵家のことを教えることだ。今のサーシャリアには負担が大きすぎるし、不安を感じやすくなっている今、どういう風に受け取るかわからない」

 ……もちろん、次に避けた方がいいことも。
 今はサーシャリアから刺激を避けねばならず、そのために一番よい方法が、三つ目の対処であること。
 そのことに、実のところ俺たちは気付いていた。
 ただ、サーシャリアとの間に溝を作る勇気がなかっただけで。

 ……それでも、今は覚悟を決めないといけないかもしれない。
 そう、俺は覚悟を決めようとして。

「とはいえ、三つ目も決して最高の作戦じゃない。いずれサーシャリアが傷つくのはよくはない」

「……え?」

「なっ!」

 その前に、アルフォードが口を開いた。
 その言葉をまるで想像していなかった俺とリーリアは思わず、絶句する。
 しかし、アルフォードはその俺たちの反応など気にせず告げる。

「それを解決する方法があるとしたら、聞きたいか?」

「……っ!」

 瞬間、俺とリーリアの顔に喜色が浮かぶ。
 自分たちにはまるで想像していなかった良策を思いついたのかと、そう思って。

「まあ、解決というか被害をへらすだけなんだがな」

「いいから、いえよ!」

「もったいぶらないで!」

 そんな俺たちに答えるよう……ぎこちない笑みを浮かべてアルフォードは告げる。

「簡単な話だ。──伯爵家を潰したのが、一人の独断だとすればいい」

「……は?」

 その瞬間俺は、アルフォードの独断の本当の理由を知った。
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