妹に全てを奪われた私は〜虐げられた才女が愛されることを知るまで〜

影茸

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捨て駒 (ソシリア視点)

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「……それほどに緊急性があることか?」

「ええ」

 そう尋ねてきたアルフォードに、私は即答する。
 実際、緊急で知らせておくべき話であるのは事実だ。
 その私の言葉を聞いて、渋々といった様子でアルフォードは私の方へと向き直る。
 ……その態度にアルフォードからの、早く伯爵家に向かう準備に取りかかりたいという言外の主張を感じ、私は思わず苦笑してしまいそうになる。

 だが、私はあえてその内心を表情の奥に隠し、口を開いた。

「侯爵家についての話よ。前に、カインが侯爵家から失踪したことに関しては話したわよね」

「……ああ、サーシャリアの扱いについてカインに問いつめたところ、逃げ出した。そう侯爵家が弁明していた件だな」

 そう話すアルフォードの顔には、不快感が浮かんでいる。
 それも仕方ないだろう。
 現在の侯爵家は、次期当主とされていたカインを厳罰に処したことにいおり、サーシャリアの失踪には一切関係ない立場と思われている。
 実際にサーシャリアから聞いた限りでは、それを嘘と談じることはできない。
 とはいえ私も、この鮮やかに切り捨てる態度には、なにかを裏があるかのような不快感を感じていた。

 ……そして、今の私はその予感が正しかったことを知っていた。

「その件についてちょっと違和感を感じて調べてみてみたのだけど……想像以上に侯爵家の闇は深かったようなの」

「侯爵家の闇……?」

 そう怪訝そうに問い返すアルフォードにうなづき、私は先ほどマルクから聞いた話を告げる。

「侯爵家は辺境を食い物にしていた闇商会と手を組んでいたみたいなの」

「……っ!」

 瞬間、アルフォードの反応は劇的だった。
 滅多に見せないほどに、その表情を変える。

「証拠や確証は?」

「ないわ。ただ、その情報を知らせてくれた人間は信頼できる人よ。……そして、それならこのごろの侯爵家の羽振りの悪さも納得できる」

「……そうか。侯爵家がおとなしくなり始めたのは、辺境貿易が始まってからか」

 私の言葉を聞いて、アルフォードは得心が言ったように頷く。
 そう、まだ私の情報の裏付けはとれていない。
 けれど、その情報を裏付けるような出来事が起こっているのだ。

 ……ただ、一つのことをのぞいて。

 リーリアが遠慮がちに口を開いたのは、そのときだった。

「……少しいいかしら、それならなぜ侯爵家はサーシャリアなんかに婚約の申し込みをしたの?」

 リーリアは不可解さを隠そうともしないまま、続ける。

「その話が本当なら、辺境貿易を作ったサーシャリアは侯爵家にとって憎き存在でしょう? なのになぜ、そんな憎き存在なんかに婚約を……それも次期当主との婚約を申し込んだの?」

 そう、それは当初私も疑問だった。
 けれど、その疑問の答えを調べるのには、そこまでの労力は必要はしなかった。

「……違うわ、カインを次期当主にする気なんてなかったのよ」

「どうして、そんな確信が」

「カインは、娼婦との間にできた不義の子だからよ」

「……っ!」

 瞬間、リーリアが言葉を失う。
 そして、私の言葉を引き継ぐように、、アルフォードが口を開いた。

「なるほど、元々捨て駒だったのか。道理で、すぐにカインを切り捨てた訳だ」

 感情の伺えない、冷ややかな表情を浮かべ、アルフォードは告げる。

「カインとの婚姻は、サーシャリアをはめるための罠か」


 ◇◇◇

 突然で申し訳ありません、少し確認しつつ更新したく、更新頻度を一日おきとさせて頂こうと思います。
 話の展開はきちんと決まっておりますので、何とかそこまで書ききれるようにさせて頂きます!
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