妹に全てを奪われた私は〜虐げられた才女が愛されることを知るまで〜

影茸

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想像もせぬ光景 (マリア視点)

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 一国の王子に、書類を読む為だけに音楽を演奏させている光景。
 まるで想像もしない状況に、私はただ呆然と立ち尽くすことしかできない。

 ……一体なにがあれば、こんな状態になるのか?

 アルフォード様の暴走を知っているが故に、逆に私はそう思わずには居られない。
 あれだけサーシャリア様に意識してもらうと言っていて、なぜこんなことになっているのか。
 私には、どうしても目の前の光景と恋愛をつなげることができなかった。
 というか、そもそもなぜアルフォード様が執事服なんかを身につけているのかも分からない。

「……は?」

 どうしようもない動揺が、二回目になる困惑の声として私の口から漏れる。

「えっと、そのマリアこれはね……」

 その時になって、サーシャリア様がなにか言おうと口を開くが、その途中で口を閉じる。
 その顔には、色濃く葛藤が浮かんでいて、どう説明しようか必死に悩んでいることが伝わってくる。

「その、アルフォードが私の世話をしてくれるって……」

「ああ。今日はよろしく頼む、マリア」

「……いや、ちょっと待ってください」

 演奏を中断し、そう朗らかに告げてきたアルフォード様に、私は頭を抱える。
 駄目だ、本当に状況が理解できない。

「簡単に説明したほうがいいか?」

「……はい」

 アルフォード様の申し出に、私は頷く。
 しかし、それは大きな間違いだった。

「昨日言ったように、きちんと動こうと思って──今日限りだが、サーシャリアの世話をすることにした」

「……は?」

 瞬間、私の脳裏を更に多くの疑問が埋め尽くしていく。
 その疑問の渦にさらされながら、ようやく私は気づいた。

 ……暴走中のアルフォード様から、まともに話を聞こうとしたのが間違いだったと。

 アルフォード様は、未だ私の状態に気づかず口を開く。

「そうだ、役割分担に関しても話をすすめておかないとな。サーシャリアの身の回りに関しては、俺には手を出せないが、料理や音楽に……」

「少し、黙っていてください」

 笑顔で、アルフォード様の言葉をシャットダウンした私は、不安げにこちらを見ているサーシャリア様の方に向き直る。

「ごめんなさい。私、止められなくて」

「いえ、大丈夫です。ただ、少しアルフォード様とお話しさせていただいてもいいですか?」

「え、ええ」

 どこか困惑気味に、それでもサーシャリア様が頷いたのを確認して、私はアルフォード様の方に向き直る。
 そして、告げる。

「少し、事情を聞かせてください(表に出ろ)」

 ……アルフォード様がその言葉に抵抗することはなかった。
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