妹に全てを奪われた私は〜虐げられた才女が愛されることを知るまで〜

影茸

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頑なの理由 (ソシリア視点)

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 アルフォードとの偽造婚約を知るものは多数居るのに対し、私とセインが恋人であることを知る人間はほとんどいない。
 知っているのは、サーシャリアを除いた生徒会メンバーだけだ。
 そして、そうして秘密が守られている理由こそが、私とセインの間で取り決められた合図だった。

 特定のワードを言わない限り、敵対的。
 決めた場所に来たら、合いたいという合図。

 事細かに決めた合図を守ることで、私とセインの関係は徹底的に隠されてきた。
 腹心の部下でさえ、私達の関係など知らない。

 そして、その合図について決め、頑なに譲らなかったのがセインだった。

 今まで私は、そのことについて疑問を覚えていた。

「……いいだろ。そんなこと」

 けれど、乱雑に吐き捨てつつも……その赤くなった顔を隠し切れていないセインを見て、私は悟る。

 常に頑なにセインが譲らなかった理由。
 それは全て、私を思ってが故だったと。

 そのことに気づいた瞬間、私の胸にはセインに対する愛しさがあふれていた。
 少し悩み、けれど私は衝動にあらがうことを止めて、セインに抱きついた。

「お、おい?」

 セインが困惑したような声を上げるが、私は無視して抱きしめる腕に力を込める。
 普段、二人とも忙しくて、ほとんどふれ合えていない。
 だから今日くらいは、これくらい許されて良いはずだ。

 胸に、愛おしさと幸福感を感じながら、私はセインに囁く。

「馬鹿ね、セイン。この私がどうでもいい男のために、自分の名誉を傷つける訳ないでしょ」

「……ソシリア」

「貴方はただ、私に振り向いてもらえたことを喜んでいればいいの。だから余計なことなんて考えず、今よりももっと身分ーー胸を張って婚約できる立場まで上ってきなさいよ」

 そう言うと、セインは無言で私を抱きしめる。
 幸福感に浸るよう、その逞しい胸板に額を押しつけながら、私は思う。

 ……この幸福をくれたサーシャリアには絶対に報いねばならないと。

 そして、顔を上げた私は、セインに頼もうとしていたことを告げる。
 それを聞き、セインは顔に驚きを浮かべる。

「……それは、本当にいいのか?」

「ええ。アルフォードとサーシャリア。どちらを優先するかなんて、分かり切っているじゃない。……特に、今のアルフォードじゃ話し合いもできないしね」

「……ああ、そうだな。それに、それを告げるなら、確かに俺が適任だ」

 私の言葉に頷き、そしてセインは宣言する。

「俺がアルフォードとサーシャリアを恋人にしてやるよ」


 ◇◇◇

 次回から、サーシャリア視点に戻ります!
 よろしくお願いいたします!
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