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彼の価値 (ソシリア視点)
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実のところ、確かにセインは偽造婚約に無関係ではなかった。
というのも、偽造婚約の発端それは私とセインが婚約稼ぎまでの時間稼ぎなのだから。
そう、多くの人が勘違いしているが、契約婚姻はアルフォードから申し込まれたものではない。
私から、アルフォードに提案したものなのだ。
現在、私とセインが恋人であることは公にはなっていない。
その理由は、セインと私の身分差だった。
公爵令嬢であり、今や父をしのぐと言われる私に対し、当初セインは近衛に成り立て。
その時すでに影の候補ではあったが、手柄もなにも持たない状態だった。
とはいえ、それも時間があれば大した問題にはならなかっただろう。
……しかし、そこまで待つのを周囲は許してくれなかった。
自分で言うのも何だが、私は美人の部類に入る。
その上、持つ権力は王家に継ぐとも言われている。
そんな人間が、誰とも婚約しない状態でいれる訳がなかった。
だか私は、アルフォードに持ちかけて契約結婚を交わしたのだ。
理由は二人とも同じ。
いらぬ縁談を避けるために。
それが、私とアルフォードが交わした婚約の理由。
確かに、その契約とセインは無関係などではない。
……ただ、だからといってこの婚姻がセインのせいだとは、私はみじんも考えていなかった。
だから、私は首を捻りながらセインに問いかける。
「どうして? これは三人の契約よ。誰が悪いわけでもない」
そう問いかけると、なぜかセインはばつが悪そうに顔を背ける。
そして、小さめの声で呟いた。
「……俺がもっと早くこの地位までこれていれば、おまえの名前を汚すことなんてなかった」
まるで想像もしていなかった発言に、私は思わず固まる。
そんな私に、更にセインは続ける。
「アルフォードと婚約破棄すれば、令嬢であるお前の名前の方が大きく傷つく。……それなのに、俺はただ見ていることしかできなかった」
そう語るセインの顔に浮かぶのは、心からの後悔だった。
本気でセインは私の名前が傷つくことを恐れている。
……そのことを理解して、私は思わず笑っていた。
「ふ、ふふ。まさか、そんなことを気にしていたなんて」
「……うるせえ。好きな女に負担をかけて悔いない男なんていねぇよ」
私の反応に、セインは拗ねたように顔を逸らす。
……ふと、あることに私が気づいたのはその時だった。
セインの方を見ると、彼は頑なにこちらを見ようとしない。
その態度は、暗にこれ以上何も聞くな、と言外に主張していたが、それを無視して私は口を開いた。
「それじゃ、頑なに付き合っていることを隠しているのも、私の名誉のためなの?」
というのも、偽造婚約の発端それは私とセインが婚約稼ぎまでの時間稼ぎなのだから。
そう、多くの人が勘違いしているが、契約婚姻はアルフォードから申し込まれたものではない。
私から、アルフォードに提案したものなのだ。
現在、私とセインが恋人であることは公にはなっていない。
その理由は、セインと私の身分差だった。
公爵令嬢であり、今や父をしのぐと言われる私に対し、当初セインは近衛に成り立て。
その時すでに影の候補ではあったが、手柄もなにも持たない状態だった。
とはいえ、それも時間があれば大した問題にはならなかっただろう。
……しかし、そこまで待つのを周囲は許してくれなかった。
自分で言うのも何だが、私は美人の部類に入る。
その上、持つ権力は王家に継ぐとも言われている。
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だか私は、アルフォードに持ちかけて契約結婚を交わしたのだ。
理由は二人とも同じ。
いらぬ縁談を避けるために。
それが、私とアルフォードが交わした婚約の理由。
確かに、その契約とセインは無関係などではない。
……ただ、だからといってこの婚姻がセインのせいだとは、私はみじんも考えていなかった。
だから、私は首を捻りながらセインに問いかける。
「どうして? これは三人の契約よ。誰が悪いわけでもない」
そう問いかけると、なぜかセインはばつが悪そうに顔を背ける。
そして、小さめの声で呟いた。
「……俺がもっと早くこの地位までこれていれば、おまえの名前を汚すことなんてなかった」
まるで想像もしていなかった発言に、私は思わず固まる。
そんな私に、更にセインは続ける。
「アルフォードと婚約破棄すれば、令嬢であるお前の名前の方が大きく傷つく。……それなのに、俺はただ見ていることしかできなかった」
そう語るセインの顔に浮かぶのは、心からの後悔だった。
本気でセインは私の名前が傷つくことを恐れている。
……そのことを理解して、私は思わず笑っていた。
「ふ、ふふ。まさか、そんなことを気にしていたなんて」
「……うるせえ。好きな女に負担をかけて悔いない男なんていねぇよ」
私の反応に、セインは拗ねたように顔を逸らす。
……ふと、あることに私が気づいたのはその時だった。
セインの方を見ると、彼は頑なにこちらを見ようとしない。
その態度は、暗にこれ以上何も聞くな、と言外に主張していたが、それを無視して私は口を開いた。
「それじゃ、頑なに付き合っていることを隠しているのも、私の名誉のためなの?」
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