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乾いた笑み (アルフォード視点)
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「はっ? じゃないわよ」
呆然とする俺に、ソシリアは怒りが隠せない様子で口を開く。
「で、いつまでこんなことを続けるつもりなの?」
「いったい何の話なん……」
「いいから答えなさい」
ただならぬ様子のソシリアに気圧され、俺の視線が泳ぐ。
いったいなにが起きているのか、俺には理解できなかった。
ただ、そんな状態でも一つだけは俺も理解することができた。
……そう、ソシリアが激怒していることを。
最早、怒りを隠す様子もないソシリアは、ゆっくりと口を開く。
「もしかして楽しんでいるのかしら? 思わせぶりな態度で、サーシャリアを惑わすことを?」
ソシリアの言葉に反応するように、背後にいたメイド……おそらくマリアと呼ばれていた彼女がお盆を振り上げる。
おかしい、彼女は少し前まで俺に凄く低姿勢ではなかったか?
なにが起きれば、ここまで敵意を露わにする事態が訪れる?
混乱する俺に、目だけが笑っていない笑顔のまま、ソシリアは告げる。
「言っておくけど、本気でそのつもりだったら、三発は殴らせるわよ。セインに」
やばい、これは本気で殺すつもりだ。
決して、俺も体を鍛えていないわけじゃない。
いやむしろ、鍛えて多少なりともセインの強さが理解できるからこそ、俺は震えずにはいられなかった。
……しかしそう怯えつつも、俺は未だなぜこんなに怒りを露わにされているのか、理解できないままだった。
「……少し、待ってくれないか? 思わせぶりな態度、いったい何の話なんだ?」
「とぼけるつもり?」
「違う!」
思わず叫ぶと、疑わしそうな表情を浮かべつつも、ソシリアは押し黙る。
長いつきあいだけあり、俺が本気でそう叫んでいることが分かったのだろう。
しかし、マリアに通じることはなかった。
「……私はだまされませんよ! あんなサーシャリア様を弄ぶようなことをして……!」
「弄ぶ……? うん、ああ。そういうことか」
ようやく俺が、自分がなぜ責められているのか気づいたのは、その時だった。
そう、サーシャリアへのアタックが、弄んでいるように見えるのだと。
そのことに気づいたとき、俺は思わず笑っていた。
そんな俺を見て、マリアはその顔を険しいものに変える。
「やはり自覚があったのですね……!」
「いや、違うよ。ただ、とんでもない勘違いをしていると思って」
「勘違い、ですって!」
「ああ、当たり前だろう。……その言い方じゃ、まるでサーシャリアが俺を気にしているみたいじゃないか」
「……っ!」
その瞬間、初めてマリアの表情から怒りが消える。
しかし、それを気にすることなく俺は続けた。
「はは、サーシャリアに、この程度で意識してもらえるわけがないだろう?」
乾いた笑みが口から漏れる。
正直、あまり言いたくない話ではあるが、彼女にはいっておいた方がいいだろう。
そう、覚悟を決めて俺は告げる。
「──何せ俺は、婚約の手紙さえ無視されるほど、サーシャリアに意識されていないんだから」
呆然とする俺に、ソシリアは怒りが隠せない様子で口を開く。
「で、いつまでこんなことを続けるつもりなの?」
「いったい何の話なん……」
「いいから答えなさい」
ただならぬ様子のソシリアに気圧され、俺の視線が泳ぐ。
いったいなにが起きているのか、俺には理解できなかった。
ただ、そんな状態でも一つだけは俺も理解することができた。
……そう、ソシリアが激怒していることを。
最早、怒りを隠す様子もないソシリアは、ゆっくりと口を開く。
「もしかして楽しんでいるのかしら? 思わせぶりな態度で、サーシャリアを惑わすことを?」
ソシリアの言葉に反応するように、背後にいたメイド……おそらくマリアと呼ばれていた彼女がお盆を振り上げる。
おかしい、彼女は少し前まで俺に凄く低姿勢ではなかったか?
なにが起きれば、ここまで敵意を露わにする事態が訪れる?
混乱する俺に、目だけが笑っていない笑顔のまま、ソシリアは告げる。
「言っておくけど、本気でそのつもりだったら、三発は殴らせるわよ。セインに」
やばい、これは本気で殺すつもりだ。
決して、俺も体を鍛えていないわけじゃない。
いやむしろ、鍛えて多少なりともセインの強さが理解できるからこそ、俺は震えずにはいられなかった。
……しかしそう怯えつつも、俺は未だなぜこんなに怒りを露わにされているのか、理解できないままだった。
「……少し、待ってくれないか? 思わせぶりな態度、いったい何の話なんだ?」
「とぼけるつもり?」
「違う!」
思わず叫ぶと、疑わしそうな表情を浮かべつつも、ソシリアは押し黙る。
長いつきあいだけあり、俺が本気でそう叫んでいることが分かったのだろう。
しかし、マリアに通じることはなかった。
「……私はだまされませんよ! あんなサーシャリア様を弄ぶようなことをして……!」
「弄ぶ……? うん、ああ。そういうことか」
ようやく俺が、自分がなぜ責められているのか気づいたのは、その時だった。
そう、サーシャリアへのアタックが、弄んでいるように見えるのだと。
そのことに気づいたとき、俺は思わず笑っていた。
そんな俺を見て、マリアはその顔を険しいものに変える。
「やはり自覚があったのですね……!」
「いや、違うよ。ただ、とんでもない勘違いをしていると思って」
「勘違い、ですって!」
「ああ、当たり前だろう。……その言い方じゃ、まるでサーシャリアが俺を気にしているみたいじゃないか」
「……っ!」
その瞬間、初めてマリアの表情から怒りが消える。
しかし、それを気にすることなく俺は続けた。
「はは、サーシャリアに、この程度で意識してもらえるわけがないだろう?」
乾いた笑みが口から漏れる。
正直、あまり言いたくない話ではあるが、彼女にはいっておいた方がいいだろう。
そう、覚悟を決めて俺は告げる。
「──何せ俺は、婚約の手紙さえ無視されるほど、サーシャリアに意識されていないんだから」
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