72 / 169
乾いた笑み (アルフォード視点)
しおりを挟む
「はっ? じゃないわよ」
呆然とする俺に、ソシリアは怒りが隠せない様子で口を開く。
「で、いつまでこんなことを続けるつもりなの?」
「いったい何の話なん……」
「いいから答えなさい」
ただならぬ様子のソシリアに気圧され、俺の視線が泳ぐ。
いったいなにが起きているのか、俺には理解できなかった。
ただ、そんな状態でも一つだけは俺も理解することができた。
……そう、ソシリアが激怒していることを。
最早、怒りを隠す様子もないソシリアは、ゆっくりと口を開く。
「もしかして楽しんでいるのかしら? 思わせぶりな態度で、サーシャリアを惑わすことを?」
ソシリアの言葉に反応するように、背後にいたメイド……おそらくマリアと呼ばれていた彼女がお盆を振り上げる。
おかしい、彼女は少し前まで俺に凄く低姿勢ではなかったか?
なにが起きれば、ここまで敵意を露わにする事態が訪れる?
混乱する俺に、目だけが笑っていない笑顔のまま、ソシリアは告げる。
「言っておくけど、本気でそのつもりだったら、三発は殴らせるわよ。セインに」
やばい、これは本気で殺すつもりだ。
決して、俺も体を鍛えていないわけじゃない。
いやむしろ、鍛えて多少なりともセインの強さが理解できるからこそ、俺は震えずにはいられなかった。
……しかしそう怯えつつも、俺は未だなぜこんなに怒りを露わにされているのか、理解できないままだった。
「……少し、待ってくれないか? 思わせぶりな態度、いったい何の話なんだ?」
「とぼけるつもり?」
「違う!」
思わず叫ぶと、疑わしそうな表情を浮かべつつも、ソシリアは押し黙る。
長いつきあいだけあり、俺が本気でそう叫んでいることが分かったのだろう。
しかし、マリアに通じることはなかった。
「……私はだまされませんよ! あんなサーシャリア様を弄ぶようなことをして……!」
「弄ぶ……? うん、ああ。そういうことか」
ようやく俺が、自分がなぜ責められているのか気づいたのは、その時だった。
そう、サーシャリアへのアタックが、弄んでいるように見えるのだと。
そのことに気づいたとき、俺は思わず笑っていた。
そんな俺を見て、マリアはその顔を険しいものに変える。
「やはり自覚があったのですね……!」
「いや、違うよ。ただ、とんでもない勘違いをしていると思って」
「勘違い、ですって!」
「ああ、当たり前だろう。……その言い方じゃ、まるでサーシャリアが俺を気にしているみたいじゃないか」
「……っ!」
その瞬間、初めてマリアの表情から怒りが消える。
しかし、それを気にすることなく俺は続けた。
「はは、サーシャリアに、この程度で意識してもらえるわけがないだろう?」
乾いた笑みが口から漏れる。
正直、あまり言いたくない話ではあるが、彼女にはいっておいた方がいいだろう。
そう、覚悟を決めて俺は告げる。
「──何せ俺は、婚約の手紙さえ無視されるほど、サーシャリアに意識されていないんだから」
呆然とする俺に、ソシリアは怒りが隠せない様子で口を開く。
「で、いつまでこんなことを続けるつもりなの?」
「いったい何の話なん……」
「いいから答えなさい」
ただならぬ様子のソシリアに気圧され、俺の視線が泳ぐ。
いったいなにが起きているのか、俺には理解できなかった。
ただ、そんな状態でも一つだけは俺も理解することができた。
……そう、ソシリアが激怒していることを。
最早、怒りを隠す様子もないソシリアは、ゆっくりと口を開く。
「もしかして楽しんでいるのかしら? 思わせぶりな態度で、サーシャリアを惑わすことを?」
ソシリアの言葉に反応するように、背後にいたメイド……おそらくマリアと呼ばれていた彼女がお盆を振り上げる。
おかしい、彼女は少し前まで俺に凄く低姿勢ではなかったか?
なにが起きれば、ここまで敵意を露わにする事態が訪れる?
混乱する俺に、目だけが笑っていない笑顔のまま、ソシリアは告げる。
「言っておくけど、本気でそのつもりだったら、三発は殴らせるわよ。セインに」
やばい、これは本気で殺すつもりだ。
決して、俺も体を鍛えていないわけじゃない。
いやむしろ、鍛えて多少なりともセインの強さが理解できるからこそ、俺は震えずにはいられなかった。
……しかしそう怯えつつも、俺は未だなぜこんなに怒りを露わにされているのか、理解できないままだった。
「……少し、待ってくれないか? 思わせぶりな態度、いったい何の話なんだ?」
「とぼけるつもり?」
「違う!」
思わず叫ぶと、疑わしそうな表情を浮かべつつも、ソシリアは押し黙る。
長いつきあいだけあり、俺が本気でそう叫んでいることが分かったのだろう。
しかし、マリアに通じることはなかった。
「……私はだまされませんよ! あんなサーシャリア様を弄ぶようなことをして……!」
「弄ぶ……? うん、ああ。そういうことか」
ようやく俺が、自分がなぜ責められているのか気づいたのは、その時だった。
そう、サーシャリアへのアタックが、弄んでいるように見えるのだと。
そのことに気づいたとき、俺は思わず笑っていた。
そんな俺を見て、マリアはその顔を険しいものに変える。
「やはり自覚があったのですね……!」
「いや、違うよ。ただ、とんでもない勘違いをしていると思って」
「勘違い、ですって!」
「ああ、当たり前だろう。……その言い方じゃ、まるでサーシャリアが俺を気にしているみたいじゃないか」
「……っ!」
その瞬間、初めてマリアの表情から怒りが消える。
しかし、それを気にすることなく俺は続けた。
「はは、サーシャリアに、この程度で意識してもらえるわけがないだろう?」
乾いた笑みが口から漏れる。
正直、あまり言いたくない話ではあるが、彼女にはいっておいた方がいいだろう。
そう、覚悟を決めて俺は告げる。
「──何せ俺は、婚約の手紙さえ無視されるほど、サーシャリアに意識されていないんだから」
0
お気に入りに追加
7,690
あなたにおすすめの小説

家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません
天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。
私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。
処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。
魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。

立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~
矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。
隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。
周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。
※設定はゆるいです。
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

妹の嘘の病により、私の人生は大きく狂わされましたが…漸く、幸せを掴む事が出来ました
coco
恋愛
病弱な妹の願いを叶える為、私の婚約者は私に別れを告げた。
そして彼は、妹の傍に寄り添う事にしたが…?

【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います
菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。
その隣には見知らぬ女性が立っていた。
二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。
両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。
メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。
数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。
彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。
※ハッピーエンド&純愛
他サイトでも掲載しております。

愚かな側妃と言われたので、我慢することをやめます
天宮有
恋愛
私アリザは平民から側妃となり、国王ルグドに利用されていた。
王妃のシェムを愛しているルグドは、私を酷使する。
影で城の人達から「愚かな側妃」と蔑まれていることを知り、全てがどうでもよくなっていた。
私は我慢することをやめてルグドを助けず、愚かな側妃として生きます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる