妹に全てを奪われた私は〜虐げられた才女が愛されることを知るまで〜

影茸

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崩壊を止められるのは (アメリア視点)

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「どういうことだ、なぜ見つからない!」

 保管庫から響いてきた父の声。
 それを聞き、私は小さくため息をもらした。

「……やっと気づいたのね」

 父はしらないだろう。
 伯爵家の異常に気づいていなかったのは、父だけだということを。

 ……使用人はおろか、あの母でさえ伯爵家を取り巻く状況がおかしくなっていることに気づいていたのだから。

「いえ、この場合は気づかなかったお父様がおかしかったのかも知れないけど」

 何せ今、伯爵家の事業はほとんど停止しているのだ。
 お姉さまがいなくなろうとも、それで仕事がなくなる訳じゃない。
 そんな中、勝手に仕事を勝手に仕事を停止すれば、反感を買うのは当たり前だった。

 ……伯爵家の事業が信用で成り立っていたことを考えれば、契約を打ち切られるのも当然の話だ。

 カインと手を切る、その話に危機感を抱いて勉強したことで、私にもそれだけのことが理解できた。
 けれど、私はあくまで少しだけ理解できるようになっただけ。
 どうすればこの状況を打開できるのかなんて、さっぱり分からなかった。
 そしてそれは、おびえるだけの母も、今になって危機に気づいたような父も同じだろう。

 一体誰ならばこの状況を打開できる?

 ……私が廊下を横切る血のつながらない義弟の背中に気づいたのは、その時だった。
 その背中を追いかけて、私は呼び止める。

「……っ! マールス!」

 そう呼びかけながら、私は思う。
 なぜ、この義弟の存在を忘れていたのかと。

 実のところ、私がマールスの存在を忘れていたのには理由があった。
 というのも、マールスは最近ほとんど屋敷にいなかったのだ。
 そして、その理由が私の希望を更に煽る。

 ──もしかしたら、マールスは何か動いているのではないかと。

 マールスは決して馬鹿ではない。
 この状況の危険については良く理解しているだろう。
 この外出もただ遊んでいただけだとは思えない。
 とにかく、いつものように言いつけてマールスにこの問題を解決させよう。

 ……けれど、そう私が浮かれていられたのは僅かな時間だけだった。

「ああ、アメリア姉さんか。何のよう?」

「……っ!」

 振り返ったマールス。
 それを目にして、私は思わず固まる。

 一見、マールスはいつも通りだった。
 けれど、私は感じる。
 今のマールスはいつもと違うと。

 そして、その私の考えは正解だった。

「何のようかはしらないけど、できれば手短にお願いするね」

 私を冷ややかに見つめながら、マールスは淡々と告げる。

「僕は、サーシャリア姉様を冷遇していたアメリア姉さんとは、できるだけ話したくないから」

 ……瞬間、私はマールスの変貌に絶句することになった。
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