妹に全てを奪われた私は〜虐げられた才女が愛されることを知るまで〜

影茸

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手遅れ (伯爵家当主視点)

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 まるで想像もしていなかった手紙に、一瞬私は動揺し、けれど直ぐに顔をゆがめて吐き捨てた。

「紛らわしい……。一体どうして、こんなタイミングに手紙を送ってくるのだ。伯爵家がどんなタイミングかも分からぬのか」

 私は、自分の手にある契約している商会から来た手紙を隅にやる。
 今は、こんな手紙に時間を取られる訳には行かないのだ。
 そして、その下から新しい手紙を手に取る。

「……っ! これもか!」

 しかし、新しく手に取った手紙も、すでに契約したものしかなかった。

「気も使えん平民が」

 そう文句を言いながら、私は次々と手紙の宛名を確認する。

「くそ! こんな時にややこしい!」

 けれど、その全てが見覚えのある宛先だった
 今のも爆発しそうな苛立ちを溜めながら、私は一枚の手紙を破く。

「この忙しいときに一体何のよう……なっ!」

 その途中で、手紙を開いた私の言葉は中断した。
 信じられず私は、もう一度その手紙を読み直す。
 だが、その内容が変化することはなかった。

「は、伯爵家と手を切りたいだと? ふざけるな!」

 次の瞬間、私はその言葉と共に手紙を投げ捨てた。

「サーシャリアがいないから、手を切るだと? 愚か者が! 伯爵家が侯爵家と結んだことも知らずに!」

 そう私は息を荒げて罵る。
 頭を下げて、契約して欲しいと言われても、もう結ばないと思いながら。

「本当に忌々しい。それでこの商会からの手紙は……っ!」

 ……私に怒鳴る余裕があったのは、その時までだった。

 二枚目に開いてみた手紙にも、かかれていた伯爵家との契約を切りたいという言葉。
 それを目にした瞬間、その手紙を私は投げ捨てていた。
 そして、震える手で契約している商会から送られてきた手紙を開いていく。

「そん、な」

 ──そして、その全てが契約を打ちきる旨だと確認した私は、呆然と立ちすくむことになった。

 頭の中に、かつてカインが言っていた言葉が蘇る。
 サーシャリアがいなくなれば、伯爵家と結ぶ商会などいなくなるという。

「いや、まだだ。既存の商会が契約を打ち切ったとしても、新しく商会と契約を結べれば!」

 そう言って、私は手紙の山から新しい商会を探し始める。

「……どういうことだ、なぜ見つからない!」

 けれど、それからどれだけ捜しても私が契約しようとする商会を見つけることはなかった。

 その時になって、私は知る。
 カインの言葉は的確だったことを。

 ……けれど、その時にしっても全てが手遅れだった。


 ◇◇◇

 次回からアメリア視点となり、それからサーシャリア視点に戻ります。
 そして辺境伯に関してなのですが、あくまで非公式なので伯爵位(力は侯爵家以上)という感じのイメージでお願いします!
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