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辺境伯の手先 (伯爵家当主視点)
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そのことを思い出して、私は更に小さく笑いを漏らす。
「辺境泊の手下が随分粋がるものだな」
けれど、もう私には第三王子を恐れる気持ちはなかった。
──第三王子は、辺境泊に押し上げられただけの愚物です。
第三王子について警告した次に、使者が教えてくれた言葉を思い出しながら、私は思う。
本当に自分は、何を第三王子達を恐れていたのかと。
あのサーシャリアを持ち上げて有能だと宣伝する、王子が優秀な訳ないではないか。
「楽器を弾くことしかできない無能を気にして、サーシャリアの言うことを聞いていた自分が恥ずかしい」
そう言いながら、私は決める。
サーシャリアが戻ってきたら、何の遠慮もなしにこき使ってやろうと。
「どれだけ自分の考えなしの行動が人に迷惑をかけたのか、親として教えてやらねば、な」
まず、もう二度とこんなことをしないように躾をしなければならないだろう。
その後に、私の指示通り事業を運営させよう。
サーシャリアの後釜の商人を追い出したことで、今事業はほとんど停止している。
それを動かす為にも、サーシャリアは必要だ。
その際サーシャリアがまた、「辺境泊に見つかれば、辺境貿易がなくなる」など言い訳してくれば、侯爵家の手紙を見せればいい。
いくら辺境泊と言われていようが、相手は所詮伯爵位。
侯爵家と懇意にする私たちに刃向かえるわけがないのだ。
少しぐらいの不正で文句など言えまい。
そして、全てが整ってから、まだ第三王子がうるさいようならば潰せばいい。
辺境泊の手先となって動くことしかできない第三王子など、私の相手ではない。
「ふふ、ふはははは!」
完璧なこの先に、私は思わず笑いを漏らす。
これからは自分の時代だという確信が、私にはあった。
ふと、手紙を見に行こうかと私が思い至ったのは、その時だった。
サーシャリアが去ってから数日、まだ何か連絡が来たとは使用人から知らされていない。
けれど、そろそろサーシャリアが見つかったと連絡が来てもおかしくないタイミングだ。
……それにもしかしたら、新しく伯爵家と結びたいと商人がやって来ているかもしれない。
まだ侯爵家と伯爵家が結ぶとしっている人間は少ないだろうが、可能性はゼロではない。
「そうだな、聡い商人であれば私の有能さに気づいてもおかしくないものだ」
そう言いながら、私は口元を緩ませる。
商人たちに賞賛される自分の姿を思い描いて。
「……それにしても、今まで使用人から連絡がないのは少しおかしくはないか?」
あることに私が気づいたのは、そんな時だった。
しかし、今から自分が見に行くのだし考える必要はないかと判断した私は、意気揚々と歩き出した。
「辺境泊の手下が随分粋がるものだな」
けれど、もう私には第三王子を恐れる気持ちはなかった。
──第三王子は、辺境泊に押し上げられただけの愚物です。
第三王子について警告した次に、使者が教えてくれた言葉を思い出しながら、私は思う。
本当に自分は、何を第三王子達を恐れていたのかと。
あのサーシャリアを持ち上げて有能だと宣伝する、王子が優秀な訳ないではないか。
「楽器を弾くことしかできない無能を気にして、サーシャリアの言うことを聞いていた自分が恥ずかしい」
そう言いながら、私は決める。
サーシャリアが戻ってきたら、何の遠慮もなしにこき使ってやろうと。
「どれだけ自分の考えなしの行動が人に迷惑をかけたのか、親として教えてやらねば、な」
まず、もう二度とこんなことをしないように躾をしなければならないだろう。
その後に、私の指示通り事業を運営させよう。
サーシャリアの後釜の商人を追い出したことで、今事業はほとんど停止している。
それを動かす為にも、サーシャリアは必要だ。
その際サーシャリアがまた、「辺境泊に見つかれば、辺境貿易がなくなる」など言い訳してくれば、侯爵家の手紙を見せればいい。
いくら辺境泊と言われていようが、相手は所詮伯爵位。
侯爵家と懇意にする私たちに刃向かえるわけがないのだ。
少しぐらいの不正で文句など言えまい。
そして、全てが整ってから、まだ第三王子がうるさいようならば潰せばいい。
辺境泊の手先となって動くことしかできない第三王子など、私の相手ではない。
「ふふ、ふはははは!」
完璧なこの先に、私は思わず笑いを漏らす。
これからは自分の時代だという確信が、私にはあった。
ふと、手紙を見に行こうかと私が思い至ったのは、その時だった。
サーシャリアが去ってから数日、まだ何か連絡が来たとは使用人から知らされていない。
けれど、そろそろサーシャリアが見つかったと連絡が来てもおかしくないタイミングだ。
……それにもしかしたら、新しく伯爵家と結びたいと商人がやって来ているかもしれない。
まだ侯爵家と伯爵家が結ぶとしっている人間は少ないだろうが、可能性はゼロではない。
「そうだな、聡い商人であれば私の有能さに気づいてもおかしくないものだ」
そう言いながら、私は口元を緩ませる。
商人たちに賞賛される自分の姿を思い描いて。
「……それにしても、今まで使用人から連絡がないのは少しおかしくはないか?」
あることに私が気づいたのは、そんな時だった。
しかし、今から自分が見に行くのだし考える必要はないかと判断した私は、意気揚々と歩き出した。
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