妹に全てを奪われた私は〜虐げられた才女が愛されることを知るまで〜

影茸

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逃した者は (ヴァリアス視点)

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 背筋に悪寒が走り、私の体が強ばる。
 しかし、父上はそんな私に気づいてもいない様子で告げる。

「伯爵家の連中は底なしの愚者よ。他人にすがるしか脳がなく、挙げ句の果てすがりついた相手までもを沈めていく。……底なしに沼のような深淵へとな」

 ……父上にさえ見抜けない策を考え、実行しようとしたカインが頭によぎる。
 おそらく、カインは何も大きなミスを犯していないだろう。
 だから、父上にも計画を推し進めることができて……全てを伯爵家が無為に返した。
 それを知るからこそ、俺は納得してしまう。

 底なしの愚者、その表現は確かにあの伯爵家を良く表現しているかも知れないと。

「だから、伯爵家とは関わらない。あれは、さわってはならぬ類の奴らだ」

「……でしたら、手紙はどうするのですか?」

 あの手紙に懇意にして欲しいと書けば、伯爵家と侯爵家が結びつくようにも感じる。
 伯爵家から距離を取るなら、手紙は出さない方がいいのだろうか。

「いや、出すさ。だが、それだがな」

 しかし、俺の予想と反して、父上はそう告げた。

「あの伯爵家はまもなく、自分が生み出した底なし沼に沈んでいく。それも盛大な自爆とともにな。その際、手紙だけの繋がりをなかったことにしても、文句を言う人間などいまい」

 ……つまり、父上はあくまで伯爵家と本当に手を結ぶつもりはないのだ。
 そう理解して、新しい疑問が私に生まれる。
 ならなぜ、父上は伯爵家と手を結ぶのだろうか?
 楽しげに、笑った父上が続けたのはその時だった。

「そして、その自爆に第三王子達が巻き込まれれば、おもしろいとは思わぬか?」

「……っ!」

 その言葉に私は全てを理解した。
 震える声で、私は尋ねる。

「……つまり、伯爵家を第三王子達にけしかけるということですか?」

「そうだ。懇意にして欲しいと言っておけば、伯爵家は何でも従うだろうからな」

 楽しげに……その目に浮かぶ憎悪の光を強めながら、父上は語る。

「もちろん、あの第三王子なら難なく裁けてもおかしくはない。だが、盛大な自爆に何ら影響を受けないなどあり得ないだろうよ。……特に、その身内が内部にいるのならばな」

 父上の策謀を聞いて、私はごくり、とのどを鳴らす。
 いったいこの人は、どれだけ策謀を張り巡らせているのだろうか。
 そして同時に私は憐れみを覚える。

 いくら黄金世代だ何だともてはやされていても、若年の第三王子達がこの老猾な人に勝てるわけがない。
 できても、逃げ回るのが関の山だろうと。

 ……全てはこの人怒りを買ったのが悪い、諦めるしかないのだろう。

 しかし、そう思う私はしらない。
 その父を上回る化け物がいること。
 そしてその化け物は、徐々に力を養っていることを。

 ──逃がしてはならなかった人間に逃げられたことを、まだ私はしらない。


 ◇◇◇

 次回から伯爵家視点が数話、そしてアメリア視点となった後に、サーシャリア方面の話に戻る予定です!
 よろしくお願いします!
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