妹に全てを奪われた私は〜虐げられた才女が愛されることを知るまで〜

影茸

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俺の知る事実 (カイン視点)

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「嘘だろ、キルア?」

 そう俺がキルアへと告げた言葉は、情けないほど震えていた。
 だが、それを隠そうとする気力さえ、俺にには残っていなかった。
 そんな茫然自失の俺を見て、キルアは顔を歪める。

「……仕方、ないでしょう!」

 けれど、次の瞬間キルアが口にしたのは否定の言葉ではなかった。

「どれだけ貴方が私を厚遇してくれたとしても、私に未来はない! 貴方は侯爵家の異物でしかないのだから!」

 怒りに満ちた目で俺を睨みながら、キルアは続ける。

「家族の期待に応えねばならない私が、貴方についていけるわけがないんだ! ……せめて、貴方が娼婦の子供でなければ!」

 そんなキルアの叫びを聞きながら、俺は思う。
 一体今までに何度、そう罵られて来ただろうかと。

 娼婦の子供、汚らわしい生まれの平民上がり、一族の恥。

 そのたびに俺は泣きわめき、それでも立ち上がってきた。
 けれどそれは全て、母と……キルアがそばにいてくれたからこそだった。

 呆然とする俺を、ヴァリアスはあざ笑う。

「ようやく理解できたか、役立たず? いっておくが、キルアの行動は正論でしかないからな? 伯爵家の令嬢一人射止められないような無能、見限って当たり前だろうが!」

 ニタニタと、嫌みな笑みを深めながら、ヴァリアスは更に続ける。

「そもそも、侯爵家当主になれると考えていたのが間違えなんだよ! お前程度、女を誑かすしか能力のない人間が貴族の家を納めあれる訳ないだろうが。その女を誑かす能力にも陰りが出てきたとなれば、いよいよ救いようがねえなあ、カイン!」

 嘲りの言葉を浴びせられながら、徐々に俺は理解していく。
 自分は全てを失ったことを。
 ……そもそも、何も自分にはなかったことを。

 そう悟って──俺は笑った。

「最初から約束を守る気がなかった……当主にする気などなかったくせに良くほざくな、ヴァリアス」

 瞬間、ヴァリアスの表情から嘲りが消えた。
 代わりにその顔に浮かぶのは驚愕。

 ……まさか、あれを知っているのかと言いたげな表情。

 普段なら、呼び捨てを許さないだろうヴァリアスが、それを指摘できないほど動揺していた。
 その表情に、俺は思わず笑いを漏らす。
 俺に隠し通せたと思いこんでいるその浅慮が、あまりにもおかしくて仕方ない。

「なあ、お父様に伝えてくれよ」

 その勘違いを正すために、笑いながら俺は教えてやることにする。
 そう、俺が何に気づいていたかを。

「俺ごとサーシャリアを、憎き生徒会メンバーを潰す計画が失敗して残念でしたね、とな」

 ◇◇◇

 励みになる感想ありがとうございます!
 まだ少し、カイン視点は続きますので、楽しんで頂だければ!
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