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その下は (カイン視点)

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 突然の廃嫡の知らせ、それに俺は言葉を失う。
 決して、この事態が予想できていなかった訳ではない。
 ただ、失脚させるための理由づくりのために時間が必要なはずで、まだ猶予は残されていると俺は考えていた。
 そんな俺を楽しそうにニタニタと見つめながら、ヴァリアスは告げる。

「当たり前だろう? ──お前は伯爵家令嬢を虐めて失踪させたのだから」

「……っ!」

 その言葉で俺は理解する。

 ……伯爵家が、俺にサーシャリア失踪の罪を着せたと。

「そんなことをしでかしておいて、由緒正しい侯爵家の一員と認められるわけがないのは分かるだろう? 汚れたの生まれのお前でもな」

 更に続くヴァリアスの言葉を聞きながら、思わず唇をかみしめる。
 なぜこれが、伯爵家を追いつめるだけの行為だと理解できないのか。
 俺に罪をかぶせても、サーシャリアは戻らない。
 それどころか、サーシャリアを見つけられる人間がいなくなることをどうして理解しない?

 ……と、怒りを増しつつも、俺はまだ全てが終わったわけでないと必死に頭を回す。

 確かに、伯爵家が裏切るなど、俺はまるで想定していなかった。
 けれど、いずれこんな状況がくることを知って、俺は対策をしていた。
 冷静に立ち回れば、まだ状況を打開する可能性はゼロではない。

 ……ただ、その前に合る人物の安否を確かめておく必要があった。

「分かった、認める。俺の負けだと。抵抗する気もない。……だから、キルアは解放してくれないか?」

「……は?」

 その瞬間、ヴァリアスが浮かべたのは、呆気にとられたような表情だった。
 それを嘲りだと感じた俺は一瞬怒りを抱……徐々に笑みに変わりだしたヴァリアスの表情に、困惑することになった。

「は、ははは! これはお笑いだな! あのどんな人間も信じてこなかったお前が、よりによってあいつを信じていたとはな!」

「……何の、ことだ?」

 そう尋ねつつも、俺は冷静に判断する。
 これは、俺とキルアを仲違いさせようとする策略だと。

 この状況で、何でそんなことをする?

 冷静な思考が、そう囁くのから目をそらし、俺はそう思いこもうとする。
 ……しかし、そんな現実逃避さえ、ヴァリアスは許さなかった。

「おい、証拠を突きつけてやれ」

「はい。ヴァリアス様」

 衛兵の一人が、ヴァリアスの言葉に反応して前に踏み出す。
 そしてその衛兵……聞き覚えのある声をした彼は、顔を隠していた頬当てを取る。

「キル、ア?」

 そして、その下から現れた見慣れた顔に、俺は呆然と立ち尽くす。
 そんな俺へと、無表情のキルアは告げた。

「申し訳ありません、カイン様。これでお別れです」
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