妹に全てを奪われた私は〜虐げられた才女が愛されることを知るまで〜

影茸

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我慢の限界 (カイン視点)

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「確かに聞いたことはあるが、そんなもの噂に決まっている! あれは出来損ないの娘だぞ!」

 感情的に叫ぶ伯爵家当主。
 ……俺が真の意味で、サーシャリアの苦しみを知ったのはその時だった。
 今までも、伯爵家の環境についてサーシャリアから話は聞いていた。
 だが、本当に頑なに自分しか考えない伯爵家当主の姿を見て、俺は知る。
 自分は、サーシャリアを理解したような気にしかなっていなかったことを。

 ……サーシャリアが長年耐えてきたものは、こんなものだったのか。
 しかし、そんな考えをすぐに俺は頭から消す。
 今は利用してきた相手に同情している場合ではない、とにかく何とか伯爵家当主を説得しなければならない。

「だが、実際に事業を始めたのも、黄金の生徒会メンバーとして名が知れているのも、サーシャリアだ」

「……っ!」

 淡々と事実を告げると、伯爵家当主は押し黙る。
 その横から見える、伯爵家夫妻もアメリアも憎々しげな目をこちらに向けているが、それを無視して俺は続ける。

「つまり、サーシャリアがいなければ事業も、黄金の生徒会メンバーとしての名声もなくなる。そうなれば、商会も離れていっておかしくない」

 それは感情論では反論できない事実の羅列。
 どれだけ気に食わなかろうと、それだけで覆せるものではない。

 少しの間、伯爵家の人間は言葉を発しなかった。
 それに、俺はようやく説得できたと、安堵の息をもらす。

 ……しかし、それは大きな勘違いだった。

「確かによく考えてみれば、サーシャリアを生んだのも、育てたのも私だ。少しくらい優秀であってもおかしくはない!」

 不気味に笑いながら、ぶつぶつと伯爵家当主は続ける。

「だが、私の方が優秀なのは分かりきっている! そんな私をおいて自分ばかり有名になろうとすることに、サーシャリアには恥はないのか……! いや、そうだ。サーシャリアが戻ってきてすぐに、サーシャリアに私の方が優秀だと宣言させればいい! 早く見つけないとならないのに、悠長に隠して捜しておれるか!」

 ……伯爵家当主が心配しているのは、自分の名誉だけ。
 そのことに気づいて俺が諦めたのとーー限界を迎えたのは同時だった。

「これで私の評価も……なっ! 何を……!」

 未だ何事かを呟いていた伯爵家当主の胸ぐらを掴み、こちらへと引き寄せる。
 そして、先ほどの伯爵家当主の怒りが霞むほどの怒気を露わに、俺は告げた。

「いい加減黙れ。──子供は、親のための道具じゃねぇんだよ」
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