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突然の癇癪 (カイン視点)
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更新時間ずれてしまい、申し訳ありません!
◇◇◇
それから数秒、俺は呆然としていた。
……だが、惚けている時間もないという切迫感が、俺に僅かばかりの休息も許しはしなかった。
「まさかこの程度のこと分からな……」
「ま、待ってくれ。ほかの理由は?」
俺は僅かでも希望を求め、震える声で伯爵家に問う。
「何のことです? カイン様もサーシャリアを早く見つけたいのでしょう?」
けれどその答えは、伯爵家当主の戸惑った表情という無情な物だった。
「そんな理由で、絶対に知られてはならないことを言ったのか? は、はは、本当に救いようがない……」
「カイン様?」
怪訝そうにこちらを見てくる伯爵家当主を無視し、俺は立ち上がる。
そして、一刻の猶予もないという焦燥感に駆られるまま、部屋を飛び出し──忙しく働く使用人達へと叫んだ。
「サーシャリア失踪を広めている者に、今すぐ連絡して伝えろ! これ以上状況が悪化する前に、失踪を広めるのをやめろと!」
使用人達は、呆気にとらえたようにこちらを見ている。
まさか、他家の人間に命令されるなど、考えてもいなかったのだろう。
それ故に、すぐに動けない。
そんな使用人へと、俺は続ける。
「おまえ達も分かっているだろう! こんなことをしても、状況が悪化するだけで、サーシャリアが戻ってくるはずもないことを!」
「な、何を勝手なことをしている!」
突然の俺の行動に呆然としていた伯爵家当主が動き出したのは、その時だった。
「ど、どうしたの、貴方?」
「……か、カイン様?」
騒ぎに反応し、伯爵家夫妻とアメリアまで現れるが、全てを無視し、伯爵家当主は俺を睨みつける。
「若造が何を勝手なことを! 人が必死に娘を捜そうとしているのが分からんか!」
その怒声に、アメリアが身をすくめるのが見える。
けれど、その程度の恫喝に気圧されるわけがなかった。
逆にふつふつと怒りが沸いてくる。
……散々勝手なことをした人間が、どの口で文句を言っていると。
しかし、サーシャリア不在の噂について止めさせるには、この男を説得しなければならないのだ。
何とか怒りを押さえ込んだ俺は、伯爵家当主へと告げる。
「冷静に考えてくれ。あんな状態のサーシャリアを保護した貴族が、素直に伯爵家に戻すわけ……」
「……何を言っている? サーシャリアは私の娘だぞ。保護すれば返すのが普通だろう?」
伯爵家当主は、心底意外そうにそう告げる。
……凍える夜に、その娘を追い出したことを覚えていないのか?
そう言いかけて、俺は自制する。
今の伯爵家当主の対応は明らかに過剰ではあるが、貴族令嬢の扱いは全て当主が決めるのも事実だ。
いくら戻るわけがないと言っても、伯爵家当主は認めないだろう。
故に、俺は別の切り口で、伯爵家当主を説得することにする。
「とにかく、サーシャリアの不在は隠したほうがいい。世間的に評価の高いサーシャリアが不在だと広まると、関係を断絶しようとする商会も……」
「そんなことがある訳がないだろう!」
感情的に、伯爵家当主が叫び始めたのはその瞬間だった。
◇◇◇
それから数秒、俺は呆然としていた。
……だが、惚けている時間もないという切迫感が、俺に僅かばかりの休息も許しはしなかった。
「まさかこの程度のこと分からな……」
「ま、待ってくれ。ほかの理由は?」
俺は僅かでも希望を求め、震える声で伯爵家に問う。
「何のことです? カイン様もサーシャリアを早く見つけたいのでしょう?」
けれどその答えは、伯爵家当主の戸惑った表情という無情な物だった。
「そんな理由で、絶対に知られてはならないことを言ったのか? は、はは、本当に救いようがない……」
「カイン様?」
怪訝そうにこちらを見てくる伯爵家当主を無視し、俺は立ち上がる。
そして、一刻の猶予もないという焦燥感に駆られるまま、部屋を飛び出し──忙しく働く使用人達へと叫んだ。
「サーシャリア失踪を広めている者に、今すぐ連絡して伝えろ! これ以上状況が悪化する前に、失踪を広めるのをやめろと!」
使用人達は、呆気にとらえたようにこちらを見ている。
まさか、他家の人間に命令されるなど、考えてもいなかったのだろう。
それ故に、すぐに動けない。
そんな使用人へと、俺は続ける。
「おまえ達も分かっているだろう! こんなことをしても、状況が悪化するだけで、サーシャリアが戻ってくるはずもないことを!」
「な、何を勝手なことをしている!」
突然の俺の行動に呆然としていた伯爵家当主が動き出したのは、その時だった。
「ど、どうしたの、貴方?」
「……か、カイン様?」
騒ぎに反応し、伯爵家夫妻とアメリアまで現れるが、全てを無視し、伯爵家当主は俺を睨みつける。
「若造が何を勝手なことを! 人が必死に娘を捜そうとしているのが分からんか!」
その怒声に、アメリアが身をすくめるのが見える。
けれど、その程度の恫喝に気圧されるわけがなかった。
逆にふつふつと怒りが沸いてくる。
……散々勝手なことをした人間が、どの口で文句を言っていると。
しかし、サーシャリア不在の噂について止めさせるには、この男を説得しなければならないのだ。
何とか怒りを押さえ込んだ俺は、伯爵家当主へと告げる。
「冷静に考えてくれ。あんな状態のサーシャリアを保護した貴族が、素直に伯爵家に戻すわけ……」
「……何を言っている? サーシャリアは私の娘だぞ。保護すれば返すのが普通だろう?」
伯爵家当主は、心底意外そうにそう告げる。
……凍える夜に、その娘を追い出したことを覚えていないのか?
そう言いかけて、俺は自制する。
今の伯爵家当主の対応は明らかに過剰ではあるが、貴族令嬢の扱いは全て当主が決めるのも事実だ。
いくら戻るわけがないと言っても、伯爵家当主は認めないだろう。
故に、俺は別の切り口で、伯爵家当主を説得することにする。
「とにかく、サーシャリアの不在は隠したほうがいい。世間的に評価の高いサーシャリアが不在だと広まると、関係を断絶しようとする商会も……」
「そんなことがある訳がないだろう!」
感情的に、伯爵家当主が叫び始めたのはその瞬間だった。
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