妹に全てを奪われた私は〜虐げられた才女が愛されることを知るまで〜

影茸

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婚約の理由 (ソシリア視点)

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 食事が終わると、サーシャリアは顔を真っ赤にした状態で、いそいそと食堂を後にしていく。
 それに罪悪感を覚えて、私は小さく嘆息を漏らす。
 そして、その原因となった人間へと、問いかけた。

「それで、どうするの?」

「……なんのことだ」

 このごに及んで、見苦しくとぼけるアルフォード。
 だが、逃がすわけがなかった。

「可愛そうなくらいサーシャリアにアッタクしておいて、今さら誤魔化せるとでも? 私たちの婚約についてに決まっているじゃない」

 アルフォードは気まずげに顔を逸らすが、それを無視して私は続ける。

「それで、私たちの婚約が偽物だと、いつサーシャリアに教えるの?」

 そう、実のところ私とアルフォードの婚約は、婚約の申し込みを避けるための隠れ蓑でしかなかった。
 ……というのも、サーシャリアの婚約を知ってもなお、アルフォードはサーシャリアのことが諦められなかったのだ。
 だが、音楽の天才として国民にまで絶大な人気を持つ、アルフォードと夫婦になりたい人間は多い。
 私とアルフォードの婚姻は、それを避けるための契約婚姻だった。

 そうである以上、今も続ける理由が私には分からなかった。

「もう婚姻を解消して、サーシャリアに偽造を明かしていいんじゃないの? このままじゃ、サーシャリアにも避けられるわよ?」

「いや、まだ解消はしない」

 しかし、アルフォードがその言葉に頷くことはなかった。

「婚約は続ける。そうすれば、下心に気づかないサーシャリアに存分にアピールできる。そこから、好感度があがったのを見て……」

「せこいわね」

「……っ!」

 私の言葉に、自覚があったらしいアルフォードの表情に気まずさが浮かぶ。
 そもそも、そんなことをするまでもなく、サーシャリアは間違いなく、アルフォードに好意を持っているだろう。
 むしろ、婚約者がいる上でのアピールは好感度が下がる未来しか見えない。
 けれど、私がそう言う前に、アルフォードは続けた。

「……それでも、俺はもうサーシャリアを諦められない」

 かつてを思い出したのか、その表情に苦痛を滲ませながら、アルフォードは続ける。

「せめて、どうしてあんな振られ方をしたのか、原因が知りたい。それからじゃないと、俺は動かない」

 その言葉に、私は何も言えなかった。
 あのとき、自分が振られたと理解した瞬間のアルフォードの表情を覚えているから。

 ……そして、その点について私もおかしいと感じていた。

 私の記憶が間違っていなければ、サーシャリアは学生の頃からアルフォードに思いを寄せているように見えた。
 なのになぜ、あんな振り方をしたのか。

 一つ、どの答えの想像を頭に抱きながら、私は思う。
 婚姻について明かすのは、その答えを確かめてからでも、いいだろうと。

「……分かったわ。その話は後にしましょう。色々と言っておかないと行けない話があるし、ね」

 何よりも優先すべきこともあるのだから。
 そう考えた私は、アルフォードへと話し始める。

「今朝、サーシャリアから追い出されるまでの経緯を聞いたのだけど……」
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