妹に全てを奪われた私は〜虐げられた才女が愛されることを知るまで〜

影茸

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彼女の目論見 (ソシリア視点)

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 困惑を隠せない様子で、部屋を出てきたドレスを身につけたサーシャリア。
 その姿を見ていた、私、ソシリアは内心ほくそ笑んだ。

 どうやら、私のねらい通りマリアはサーシャリアの懐に潜り込めたと考えて。

 会話を失敗したと感じるといつもサーシャリアは、「その、少しフォローをして欲しいんだけど」と、物憂げな顔で頼んでくる。
 それ故に、私は簡単にサーシャリアの態度の違いを察知できた。

「その、マリアって子のことについて、教えてもらえないかしら……」

 その私の考えを裏付けるように、近づいてきたサーシャリアがそんなことを尋ねてくる。
 今まで、私にフォローを頼むことはあれ、相手の人柄など聞いてきたこともないサーシャリアが、だ。
 そのことに内心喝采を上げながら……けれど、私はあえて冷たく告げる。

「それは自分で聞きなさい。そのために時間を作ったでしょう?」

「ええ……」

 見るからに嫌そうな顔で文句をいうサーシャリア。
 しかし私は、それに気づかぬ振りをして歩を進める。
 折角ここまでお膳立てしたのだ、サーシャリアには自分で信頼のできる人間の一人ぐらい作ってもらわないと困る。

 ……といっても、ここまでいけば大丈夫など、口が裂けても言えないが。

 私は思わず嘆息をつきそうになる。
 友人の贔屓目がないとは言わないが、サーシャリアは本当にすてきな人間だ。
 容姿に、能力、何より身内のためなら、必死に動いてくれるその人間性は、友人として誇らしい。
 そして、一度彼女に支えてもらった身として、本気でサーシャリアには感謝している。

 ……ただ、その反面なかなか人を信用できないという欠点が、サーシャリアにはあった。

 いや、それが欠点なのか私にも判断できていない。
 確かに今のように、誰かと仲良くして欲しい時には不都合だが、普段サーシャリアは、数少ない信頼できる人間に対して情が篤い。
 それを考えれば、長所といってもいいかもしれない。
 けれど、今回ばかりはそれが裏目に出ているといっていいだろう。
 もちろん、それはマリアのことではなく。

 ……侯爵令息カインにおいての話だ。

 今もなお、目覚めた後サーシャリアが語ってくれた時の涙が、私の記憶に鮮明に残っている。
 あそこまで取り乱したサーシャリアを私が見たのは初めてだった。
 どれだけ家族から虐げられても、サーシャリアが泣くところを私が見たことはなかった。
 歯を食いしばり、努力を重ねていた。
 そんなサーシャリアが取り乱した原因として考えられるのは一つ。

 カインという侯爵令息を本気でサーシャリアが信頼していたということ。
 それ故に、裏切られたことが何よりサーシャリアにとって衝撃だったのだと。

 ……その考えに至った瞬間、私は激しい怒りを感じる。
 それこそ、サーシャリアの前でみせた怒りさえ比にならないような。
 けれど静かに深呼吸して、私はその怒りを抑える。
 今は不用意に怒りを露わにして、サーシャリアを刺激したくはない。
 そのために先ほども何とか耐えたのに、ここでその意味をなくすわけにはいかない。
 今優先すべきは、サーシャリアを癒すことなのだから。
 だからこそ、私は改めて思う。

 サーシャリアには、何とかマリアに気を許して欲しいと。
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