妹に全てを奪われた私は〜虐げられた才女が愛されることを知るまで〜

影茸

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口下手

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 私が振り返ると、そこには見るからに緊張した様子のマリアがいた。
 その目には私に対する申し訳なさと……それ以上の憧れが浮かんでいる。
 それを目にし、私は小さく溜息を漏らす。
 実のところ、こういった視線を向けられるのは私にとって初めてではなかった。
 というのも、黄金の生徒会の名前はそれだけ大きいのだ。
 私にさえ、サインを求める子が現れるほどに。

 けれど、こうして押し掛けられるのが、私は好きではなかった。

 そんな内心を隠し、私はできるだけ意識して告げる。

「気にしてないわ。仕事さえきちんとしてくれれば」

「……っ!」

 ああ、やはりだめだった。
 歪んでいくマリアの表情を目にしながら、私は悟る。
 やはりまた、私は嫌われしまったのだろうと。

 ……自分は、人に好かれにくい人間だと知ったのは一体いつのことだっただろうか。

 アメリアが他の人に好かれるのと対照的に、私は他の人から距離を取られる人間だった。
 その原因が自分の口調にあることに、私はすぐに気づいた。
 どうやら、自分の口調はきつく感じやすいものだと。

 だが、それを直すことは私にはできなかった。
 どうすればそれを直せるのか、私には分からなかったのだ。

「その、申し訳ありません」

 だから今も、私が怒っていると勘違いして顔を俯かせるマリアに何を言えばいいのか、私には分からなかった。
 いつも、私はこうだ。
 せっかく私なんかと話そうときてくれても、最終的には相手を混乱させてしまうだけ。

 そして、そんな事態に直面する度に知るのだ。
 ……可愛げのない、そう告げる両親の言葉がどれだけ正しかったのか。

 ──黄金の生徒会? そんな言葉でいい気になるなよ、サーシャリア。お前はただ、偶然その場にいただけの人間だ。

 ──そうよ。へんな勘違いは貴女のためにはならないわ。貴女はどうしようもない人間で、王子様の情けを受けているだけなのよ。

「……っ!」

 そんなことを考えてしまったからか、私は思い出したくもない両親の言葉を思い出してしまう。

 すぐに頭から振り払うが、憂鬱な気分が消えることはなかった。
 その気分のまま、私は考える。
 この子のためにも、ソシリアに言って専属をはずしてもらった方がいいかもしれないと。
 私の専属など、この子にとってもよくはないだろう。

「でも、私頑張りますので、どうかよろしくお願いします!」

 ──マリアが勢いよく頭を下げたのは、そんな時だった。

 思いもよらぬ行動に固まる私へと、マリアはさらに続ける。

「私、きちんとサーシャリア様に恩返しできるよう、精一杯やらせていただきますから!」

 恩返し? まるで想像もつかぬ言葉に私は内心、驚きを隠せない。
 だが、見るからに気合いの入ったマリアがそんな私に気づくことはない。

「さあ、このドレスを着せますね! ええ、私に任せてください!」

「そ、その、お手柔らかに頼むわね……」

 内心の疑問を何とか押し殺し、私はそう告げる。
 色々と聞きたくはあったが、押し返して聞けるだけの気力は私にはなかった。
 ただ、と私はふと思う。

 ソシリアに専属を外してもらう必要はないかも知れない、と。

 ……それが私とマリアの初めての出会いだった。


 ◇◇◇

 次回二話ほど、ソシリア視点入ります!
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