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厄介事 (カイン視点)
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「……は?」
一瞬、俺は夫妻の告げた言葉の意味が飲み込めなかった。
かつて、サーシャリアを婚約破棄する前に夫妻と話し合ったことが思い出される。
その時、俺はサーシャリアを第二夫人として迎えるために、ことを大きくしないでくれと頼んでいた。
全ては、伯爵家と侯爵家の繋がりを強化するための婚姻だとして、婚約破棄を内々にするために。
そのために、俺は何度も夫妻に念を押していた。
……それ故に、婚約破棄から数日も経っていないにもかかわらず、広めたという夫妻の言葉が信じられなかった。
しかも、王都は流行の発信の地で、噂が広まりやすく、サーシャリアの人気も高い。
そんな地で、婚約破棄を広めた?
一体何を考えているのか、欠片も理解できない。
「……全ては、サーシャリアが生意気も婚約破棄に納得しなかったからです!」
「そうですわ。サーシャリアが悪いのです。その対処に、私達は婚約破棄を広めただけで……」
あまりのことに呆然とする俺に、夫妻が重ねる言い訳にもならない言葉。
それに思わず。
何故、婚約破棄を広めることが対処になるのか?
婚約破棄を広めるなとあれだけ言ったのに、まだ理解できていなかったのか?
よりにもよって、なぜ王都で広めた?
そもそも、第二夫人にする予定なら、婚約破棄に納得しないのがいいのに、なぜ納得させようとした?
等の疑問が、喉元までせり上がってくる。
だが、何とか怒鳴りつけたい衝動を耐え、俺は告げる。
「……理由は今はいい。王都で広まっているならば、早く行動を起こさないと。父が文句を言う前に、行動を起こした方がいい」
「わ、分かりました!」
俺が必死に激情を抑えていることがわかったのか、伯爵家当主は慌てて立ち上がる。
そして誰かを呼ぼうとして、今まで黙っていたアメリアが口を開いのはその時だった。
「あら、もういっそお姉様のことなんか諦めればいいのに」
「アメリア! 今は黙っていなさい」
「いいえ、お母様。ここは教えてあげたほうがいいと思うの」
「アメリア、やめろ!」
当主夫妻の悲鳴にも似た制止。
けれど、それを振り切ってアメリアは俺に笑いかけた。
「カイン様、もうお姉様は諦めた方がいいと思うわ」
……その言葉だけで、俺は大体のことを察することができた。
聞きたくないと、反射的にアメリアを拒絶しそうになる。
けれど、そんな訳にはいかず、俺は重い口を開く。
「……どういう、ことだ?」
「お姉様は、もうカイン様の元に戻らないに決まっているのだから」
夫妻の顔は、もはや青を通り越して白くなっている。
しかし、そんなこと一切気にせずアメリアは楽しげに告げた。
「お母様とお父様がお姉様に、カイン様と私の不貞を教えている場面。それを私見てしまったんですもの」
アメリアから告げられた最悪の知らせ。
それを暫し目を閉じて消化した俺は、ゆっくりと夫妻の方へと向き直る。
「……聞かせてくれ」
必死に怒りを抑えたが、隠しきれない激情が声を震わす。
それに気づきつつも、もう俺には今この場所で手を出さないよう抑える以上のことはできなかった。
「アメリアを婚約者に迎える代わりに、サーシャリアに不貞に関して告げない。……それが契約の内容だと思っていたが、俺の勘違いなのか?」
一瞬、俺は夫妻の告げた言葉の意味が飲み込めなかった。
かつて、サーシャリアを婚約破棄する前に夫妻と話し合ったことが思い出される。
その時、俺はサーシャリアを第二夫人として迎えるために、ことを大きくしないでくれと頼んでいた。
全ては、伯爵家と侯爵家の繋がりを強化するための婚姻だとして、婚約破棄を内々にするために。
そのために、俺は何度も夫妻に念を押していた。
……それ故に、婚約破棄から数日も経っていないにもかかわらず、広めたという夫妻の言葉が信じられなかった。
しかも、王都は流行の発信の地で、噂が広まりやすく、サーシャリアの人気も高い。
そんな地で、婚約破棄を広めた?
一体何を考えているのか、欠片も理解できない。
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「そうですわ。サーシャリアが悪いのです。その対処に、私達は婚約破棄を広めただけで……」
あまりのことに呆然とする俺に、夫妻が重ねる言い訳にもならない言葉。
それに思わず。
何故、婚約破棄を広めることが対処になるのか?
婚約破棄を広めるなとあれだけ言ったのに、まだ理解できていなかったのか?
よりにもよって、なぜ王都で広めた?
そもそも、第二夫人にする予定なら、婚約破棄に納得しないのがいいのに、なぜ納得させようとした?
等の疑問が、喉元までせり上がってくる。
だが、何とか怒鳴りつけたい衝動を耐え、俺は告げる。
「……理由は今はいい。王都で広まっているならば、早く行動を起こさないと。父が文句を言う前に、行動を起こした方がいい」
「わ、分かりました!」
俺が必死に激情を抑えていることがわかったのか、伯爵家当主は慌てて立ち上がる。
そして誰かを呼ぼうとして、今まで黙っていたアメリアが口を開いのはその時だった。
「あら、もういっそお姉様のことなんか諦めればいいのに」
「アメリア! 今は黙っていなさい」
「いいえ、お母様。ここは教えてあげたほうがいいと思うの」
「アメリア、やめろ!」
当主夫妻の悲鳴にも似た制止。
けれど、それを振り切ってアメリアは俺に笑いかけた。
「カイン様、もうお姉様は諦めた方がいいと思うわ」
……その言葉だけで、俺は大体のことを察することができた。
聞きたくないと、反射的にアメリアを拒絶しそうになる。
けれど、そんな訳にはいかず、俺は重い口を開く。
「……どういう、ことだ?」
「お姉様は、もうカイン様の元に戻らないに決まっているのだから」
夫妻の顔は、もはや青を通り越して白くなっている。
しかし、そんなこと一切気にせずアメリアは楽しげに告げた。
「お母様とお父様がお姉様に、カイン様と私の不貞を教えている場面。それを私見てしまったんですもの」
アメリアから告げられた最悪の知らせ。
それを暫し目を閉じて消化した俺は、ゆっくりと夫妻の方へと向き直る。
「……聞かせてくれ」
必死に怒りを抑えたが、隠しきれない激情が声を震わす。
それに気づきつつも、もう俺には今この場所で手を出さないよう抑える以上のことはできなかった。
「アメリアを婚約者に迎える代わりに、サーシャリアに不貞に関して告げない。……それが契約の内容だと思っていたが、俺の勘違いなのか?」
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