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手札 (カイン視点)
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「……ま、まさか突然来られるとは。カイン様、一体、どういたしましたか?」
別室に従者を控えさせ、客室に入った俺を迎えるカルベスト伯爵家当主。
その顔には焦燥が浮かんでいた。
明らかに不審な態度に、俺は嫌な予感を覚える。
確かに俺は、伯爵家当主夫妻が帰ってきたのを見計らい、連絡をせず押しかけるようにやってきた。
だが、それを考慮しても夫妻の態度は妙な焦燥を感じられた。
そこまで考えて、俺は無駄なことだと考えるのを辞める。
……夫妻の焦燥の理由など、分かりきっているのだから。
おそらく、俺との契約を破ろうとしているのだと。
そう、アメリアを第二夫人にするという契約を
それだけは絶対に許すわけにはいかない。
そう判断した俺は、何とか不安を笑みの下に隠し、口を開いた。
「突然の訪問申し訳ない。だが、以前した話を詰める必要があると思ってな。そう、サーシャリアを第二夫人にする話について」
その瞬間、分かりやすく夫妻の顔が歪む。
「そ、そんな急に言ってこられましても……」
「私達も疲れてまして……」
ありきたりな言葉で、時間を伸ばそうとする夫妻に俺は苛立ちを覚える。
そもそも、第二夫人についての話は前々から決まっていた話だった。
こんなことならば、婚約破棄の際に第二夫人について切り出すよう話を進めていればよかったかもしれない。
今さらながら俺は、自分は好んでアメリアと婚約した訳ではないと示すため、その場で第二夫人について切り出すことを避けた自分の判断を後悔する。
……商会の内通者がいなければ、このまま伯爵家が契約を白紙にしようとしているのにも気づかず、手遅れになっていたかもしれない。
けれど、まだ遅いわけではない。
そう判断した俺は、できれば切りたくなかった自分の手札を切ることを決意する。
「あら、カイン様!」
できれば聞きたくなかったその声が響いたのは、その瞬間だった。
それは夫妻でも想像していなかったことなのか、顔を青くして彼らは立ち上がる。
「さ、下がりなさい、アメリア!」
「今私達は、大事な話をしているのよ!」
「いいじゃない、お父様、お母様。私達は婚約者なのだから!」
しかし、その制止を聞くことなく、アメリアは俺にすり寄ってくる。
その際、俺が顔をしかめなかったのは奇跡だった。
この女に近寄られる度、毎回俺は思わざるを得ない。
……どうして、あんな初歩的な騙し討ちに引っかかってしまったのかと。
かつて、使用人の姿をしていたアメリアを侍女と思い込み、俺は手を出した。
サーシャリアを落とすにあたって、いつものように内通者を作ろうとしたのだ。
そして、甘やかされ頼めばなんでも教えてくれるアメリアは、内通者としては最適だった。
……あの噂の性悪の伯爵令嬢であることを除けば。
俺の隣へと、許可もなく座ったアメリアは自分の腕を自然と絡めようとしてくる。
それを避けた俺は、今までの苛立ちもこめ、冷淡に吐き捨てた。
「君の姉上のことで忙しい。後にしてくれないか?」
「……っ!」
避けられたことと、自分の意識する姉を使って逃げられたことに、アメリアの顔が屈辱に染まる。
だが、アメリアはその顔に挑発的な表情をうかべ、口を開いた。
「あら、つれないこと。姉上よりも、私との会話の方が楽しくってよ」
「すまないが興味がない」
アメリアの誘いを、俺はそちらもみずに断る。
頭の軽い男ならば誘われたかもしれないが、今の俺にはなんの効果もない。
それよりも重要なことが目の前にあるのだから。
それ故に、アメリアが来る前に切ろうとしていた手札をきることにした。
「それよりも悪いが忙しいんだ。──君の姉上を迎えないと、私の侯爵家次期当主の座が揺らぎかねないのでね」
◇◇◇
この度、タグを「屑家族」→「屑家族(デバフ)」に変更しました。この先の展開をお楽しみください。
別室に従者を控えさせ、客室に入った俺を迎えるカルベスト伯爵家当主。
その顔には焦燥が浮かんでいた。
明らかに不審な態度に、俺は嫌な予感を覚える。
確かに俺は、伯爵家当主夫妻が帰ってきたのを見計らい、連絡をせず押しかけるようにやってきた。
だが、それを考慮しても夫妻の態度は妙な焦燥を感じられた。
そこまで考えて、俺は無駄なことだと考えるのを辞める。
……夫妻の焦燥の理由など、分かりきっているのだから。
おそらく、俺との契約を破ろうとしているのだと。
そう、アメリアを第二夫人にするという契約を
それだけは絶対に許すわけにはいかない。
そう判断した俺は、何とか不安を笑みの下に隠し、口を開いた。
「突然の訪問申し訳ない。だが、以前した話を詰める必要があると思ってな。そう、サーシャリアを第二夫人にする話について」
その瞬間、分かりやすく夫妻の顔が歪む。
「そ、そんな急に言ってこられましても……」
「私達も疲れてまして……」
ありきたりな言葉で、時間を伸ばそうとする夫妻に俺は苛立ちを覚える。
そもそも、第二夫人についての話は前々から決まっていた話だった。
こんなことならば、婚約破棄の際に第二夫人について切り出すよう話を進めていればよかったかもしれない。
今さらながら俺は、自分は好んでアメリアと婚約した訳ではないと示すため、その場で第二夫人について切り出すことを避けた自分の判断を後悔する。
……商会の内通者がいなければ、このまま伯爵家が契約を白紙にしようとしているのにも気づかず、手遅れになっていたかもしれない。
けれど、まだ遅いわけではない。
そう判断した俺は、できれば切りたくなかった自分の手札を切ることを決意する。
「あら、カイン様!」
できれば聞きたくなかったその声が響いたのは、その瞬間だった。
それは夫妻でも想像していなかったことなのか、顔を青くして彼らは立ち上がる。
「さ、下がりなさい、アメリア!」
「今私達は、大事な話をしているのよ!」
「いいじゃない、お父様、お母様。私達は婚約者なのだから!」
しかし、その制止を聞くことなく、アメリアは俺にすり寄ってくる。
その際、俺が顔をしかめなかったのは奇跡だった。
この女に近寄られる度、毎回俺は思わざるを得ない。
……どうして、あんな初歩的な騙し討ちに引っかかってしまったのかと。
かつて、使用人の姿をしていたアメリアを侍女と思い込み、俺は手を出した。
サーシャリアを落とすにあたって、いつものように内通者を作ろうとしたのだ。
そして、甘やかされ頼めばなんでも教えてくれるアメリアは、内通者としては最適だった。
……あの噂の性悪の伯爵令嬢であることを除けば。
俺の隣へと、許可もなく座ったアメリアは自分の腕を自然と絡めようとしてくる。
それを避けた俺は、今までの苛立ちもこめ、冷淡に吐き捨てた。
「君の姉上のことで忙しい。後にしてくれないか?」
「……っ!」
避けられたことと、自分の意識する姉を使って逃げられたことに、アメリアの顔が屈辱に染まる。
だが、アメリアはその顔に挑発的な表情をうかべ、口を開いた。
「あら、つれないこと。姉上よりも、私との会話の方が楽しくってよ」
「すまないが興味がない」
アメリアの誘いを、俺はそちらもみずに断る。
頭の軽い男ならば誘われたかもしれないが、今の俺にはなんの効果もない。
それよりも重要なことが目の前にあるのだから。
それ故に、アメリアが来る前に切ろうとしていた手札をきることにした。
「それよりも悪いが忙しいんだ。──君の姉上を迎えないと、私の侯爵家次期当主の座が揺らぎかねないのでね」
◇◇◇
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