妹に全てを奪われた私は〜虐げられた才女が愛されることを知るまで〜

影茸

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思い出すのは

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 それから、私は反射的にその場から走り出していた。
 先程まで感じていた身体を貫くような寒ささえ、私の意識の中にはなかった。
 裸足で、一心不乱に走る私の姿を目にした人々が、何事かを言っているのが分かるが、それさえどうでもよかった。

 ただ、どうしようもない惨めさと、悲しさで胸の中は一杯だった。
 それらから逃げるように、私は走る。
 しかし、どれだけ必死に走っても無駄だった。

 ……全て、自分の一方通行でしかなかったのだ。

 必死に目をそらそうとしても、その考えから目をそらすことはできなかった。
 今までの、カインとの日々が私の頭に蘇る。

 初めてであった時、私の味方となって家族から守ってくれたカイン。
 両親と妹の態度に耐えかねた時、優しく話を聞いてくれたカイン。

 そして、私に思いを伝えてくれたカイン。

 ──その全てが、私の幻想でしかなかったのだ。

 今まで私は、カインの存在があったからこそ、必死に伯爵家で頑張ってこられた。
 いつか、お父様もお母様も私を見てくれると、前に進んでいられた。

 だから、カインという支えがなくなった今、私が崩れるのは早かった。
 一体どこまで走ったか、永遠にも続くとも感じた私の逃避は、足をもつらせたことで終了した。

「……っ!」

 派手に転んだ衝撃に、私は苦悶の声を漏らす。
 けれど、私が転んだ痛みを感じることはなかった。
 それ以上に、身体が冷たくて……私は消耗していた。

「はぁ、はぁ、」

 荒い息を着きながら、私は何とか上体を起こす。
 しかし、もう私に立ち上がる気力など存在しなかった。
 呆然と、真っ暗な道を見つめる。

「そっか、ここは……」

 今さらながら、自分がどこに向かっていたのかに気づいたのは、その瞬間だった。
 二年前まで、何度も馬車で通っていたその道を見ながら、私は呟く。

 無意識のうちに、自分が行こうとしていたその先を。

「学園に続く道だ……」

 その瞬間、私の頭の中に学園での記憶が溢れ出した。

 学園、それは貴族の子息や子女を集め、教育を施す機関だ。
 そこで過ごした日々、それは私にとってかけがえのない記憶だった。

 当時、貧乏伯爵家の出だった私は多くの人に嘲られたし、きつい性格からも、多くの人に反感を買った。
 それに、一年遅れで入ってきたアメリアとの間にも、様々なことがあった。
 それでも、そんな辛い記憶も薄れる程の出会いが、その学園にはあった。

「生徒会のみんな、どうしているかな……?」

 私を含めた六名の生徒会の面々。
 その瞬間、彼らのことが私の脳裏に蘇る。
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