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第六十五話

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 たどり着いてすぐ、私達を迎えたのは歓声だった。

「おお、帰ってきたか!」

「氷か!」

 そう各々口々に告げながら、こっちにやってくる。
 その姿はどことなく以前より元気に見えて、私は思わず笑みを漏らす。
 
 そこには、私に対して警戒心を露わにいていた頃の姿は想像できない。
 それを見ながら私は思う。
 やはりここでの関係は少しづつ縮まっていると。
 そう判断して、私は口を開いた。

「……少し、いいかしら?」

「ん?」

 私の声に反応し、何人もの職人がこちらを見る。
 その目には一切の警戒も宿っていなかった。
 それを見ながら、私は改めて思う。
 ……これなら、作業場の話を出しても大丈夫なのではないかと。

「実は少しお願いがあるの」

「お願い? それは言っていた職人を捜すことに関係する話か?」

「ええ、そうなの」

 そういいながら、私は改めて話を聞いてくれている職人の目を見る。
 彼の名前はアラン。
 職人の中でも一番穏やかな気質をした人間だった。
 一番最初に私を受け入れてくれたのも、彼が最初だ。
 彼ならば、そんな思いを抱きながら私は口を開く。

「実は一度、作業場の中を見せてほしいの」

 ……嫌な沈黙が広がったのは、その時だった。
 想像もしない展開に、私は呆然と立ち尽くす。
 確かに、少しは空気が悪くなるかもしれないと私も思っていた。
 しかし、この異様な空気を作られるなど私は思っていなかった。
 呆然とする私を見ながら、アランは口を開く。

「……なあ、セルリア。安易に口にしていいことかどうかの判断もあんたにはできないのか?」

「っ!」

 それは私が想像もしない言葉だった。
 アランにそんなことを言われると思わず、固まる私にアランは続ける。

「確かに俺達は知っている。あんたは尊敬できる人間だ。恩だってある」

 そういいながら、アランの目には怒りはなかった。
 代わりにあるのは、悲しみだった。

「それでも、あんたならわかってくれていただろう? 俺達には譲れない誇りがあることを」

「……それは」

 そういいながら、私は気づく。
 自分がどれだけ安易な発言をしていたかどうかを。
 しかし、その後悔はもう遅かった。

「悪いが、あんたを作業場に入れる訳には行かない。あんたのような服装では絶対に作業場には入れる訳にはいかない」

 淡々としたアランの言葉に私は今気づく。
 自分と職人たちの格好の違い。

 ……そう、それも私ならもっと気づけたはずのものだった。

 呆然とする私に、アランが口を開く。

「……いや、こんなことを言うつもりはなかったんだ。お願いだ、今日だけは帰ってくれないか?」

 その言葉に、私は何の反抗もすることはできなかった……。


 ◇◇◇

 次回からダイン視点となります。
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