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第六十一話 (ラルバ視点)

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 そういいながら、俺はセルリアに課した課題。
 ラズベリアの目玉になる職人を見つけるという条件を思い出す。
 それはそもそもの難易度でさえ高いものだ。
 そしてそれ以上に絶対的にセルリアでは達成できない理由が存在した。

「あの女人禁制の職人たちは、絶対にセルリアを認めないだろうな」

 それこそがセルリアが女性であるという点だった。
 確かに、セルリアは優秀な人間である。
 だが、絶対にラズベリアの職人たちが心を開くことはないだろう。
 それはラズベリアの職人たちは誇り高く……何より、女人禁制という理由が女性を守るためであるが故に。

「そしていくらセルリアであれど、情報がなければどう動くこともできない」

 そういいながら、俺は笑う。

「さて、失敗した時にセルリアはどういいわけするかな?」

 実のところ、俺が罰で条件を用意しなかったのはこの条件をセルリアが受けると思ってなかったからと言うのもある。
 しかしそれ以上に、俺が求めているのはセルリアが無様な姿をさらす事だった。

 ……そう、親父が賢い女などそんなものだと思えるように。

 そして、賢い女が一番の醜態を晒すのは自身のプライドが傷つけられた時であることを俺は知っていた。
 だから俺は罰の条件も出さずに、ただ高難易度な依頼を出したのだ。
 それが一番俺の目的を果たせると考えて。

「さて、そろそろなんらかの動きはでている時だな」

 そういいながら、俺は部下に送らせておいた報告の書類の束を手に取る。

「やけに量が多いな……? もしかしてもう癇癪でも起こしているのか? はてさて、どんな醜態を晒していることやら……」

 そう言いながら、俺はまず最新の結果の進捗についてまとめられた書類に目を通す。
 そこにかかれていたのは一切進んでいない進捗についての報告で、俺は思わず笑みを漏らす。
 やはり、あのセルリアにも達成できなかったと。

「とりあえず、経緯を確認だな」

 そう俺は古いものからどんどんと書類を読み込んでいく。
 ……俺の中の計算が狂いだしたのは、そのときからだった。
 最初の一日だけは俺の想像通り、セルリアは門前払いを食らっていた。
 二日目に関しても、ラズベリアの職人には強い反感を持たれている。

 ……しかし、三日目から話が変わっていた。

「は? ラズベリア職人の環境改善計画?」

 突然出てきた単語に、俺は言葉を失う。
 しかし、そこから出てきたのはまるで想像もしない単語だった。
 当たり前だが、俺は大きな権限などセルリアに与えていない。
 そんな状況でセルリアが動くにはラズベリアの職人たちの協力が必要不可欠だが、あの職人たちが女性に助力したのか?

「っ!」

 一瞬呆然とした後、俺は書類をすべて引き出し、すべての書類に目を通す。

「あった!」

 そして、なぜか丁寧に折り畳まれた計画書を見つけたのは十数秒も立たない時だった。
 それに目を通した俺は、そこにかかれていた内容に絶句する。

「……くそ、何だこの詳細かつ、大がかりな計画書は」

 そこに記されていたのは、十日で作ったなど信じられない丁寧な計画書だった。

「というかなにを考えている! これだけ大がかりな計画書を作って資金を使ったのならば、事前に許可を取るのが……」

 ひらり、とその計画書の端から小さな紙が落ちたのはそのときだった。
 その紙を目にした俺は、呆然と呟く。

「……これは資金願い?」

 それは商会の資金を使う際に必要な書類。
 しかし、それはこんなところに紛れさせて良いものではなかった。
 本当に許可が下りてからではないと、資金が出されることはないのだから。
 つまり、俺の許可がおりず資金を勝手に引き出すのは許されないことだ。

 ……それなら、それならセルリアの化けの皮をはがすことができる。

 そう思いながらその書類に目を通し、最後にかかれた文字を見て俺は動きをとめることになった。

 後払い希望、という端的な文字を。

 それは、資金願いの書類を報告しない例外に当たる方法。
 後払い故に資金が下りるとは限らないが、代わりに自由に動いても誰も文句を言えない抜け穴的方法。
 想像を超えた展開に呆然とする俺に、その書類の後ろにかかれた伝言が目に入る。

 ──次期商会長はお忙しいと思ったので、こういう形で報告させていただきました。お礼は結構です!

 最後にハートマークの入ったその伝言を見て、俺はこちらを見下して笑うセルリアの笑顔を幻視する。

「あの女ぁ……!」

 その日、俺の額から青筋が消えることはなかった。



 ◇◇◇


 次回から、セルリア視点となります。
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