60 / 72
第六十一話 (ラルバ視点)
しおりを挟む
そういいながら、俺はセルリアに課した課題。
ラズベリアの目玉になる職人を見つけるという条件を思い出す。
それはそもそもの難易度でさえ高いものだ。
そしてそれ以上に絶対的にセルリアでは達成できない理由が存在した。
「あの女人禁制の職人たちは、絶対にセルリアを認めないだろうな」
それこそがセルリアが女性であるという点だった。
確かに、セルリアは優秀な人間である。
だが、絶対にラズベリアの職人たちが心を開くことはないだろう。
それはラズベリアの職人たちは誇り高く……何より、女人禁制という理由が女性を守るためであるが故に。
「そしていくらセルリアであれど、情報がなければどう動くこともできない」
そういいながら、俺は笑う。
「さて、失敗した時にセルリアはどういいわけするかな?」
実のところ、俺が罰で条件を用意しなかったのはこの条件をセルリアが受けると思ってなかったからと言うのもある。
しかしそれ以上に、俺が求めているのはセルリアが無様な姿をさらす事だった。
……そう、親父が賢い女などそんなものだと思えるように。
そして、賢い女が一番の醜態を晒すのは自身のプライドが傷つけられた時であることを俺は知っていた。
だから俺は罰の条件も出さずに、ただ高難易度な依頼を出したのだ。
それが一番俺の目的を果たせると考えて。
「さて、そろそろなんらかの動きはでている時だな」
そういいながら、俺は部下に送らせておいた報告の書類の束を手に取る。
「やけに量が多いな……? もしかしてもう癇癪でも起こしているのか? はてさて、どんな醜態を晒していることやら……」
そう言いながら、俺はまず最新の結果の進捗についてまとめられた書類に目を通す。
そこにかかれていたのは一切進んでいない進捗についての報告で、俺は思わず笑みを漏らす。
やはり、あのセルリアにも達成できなかったと。
「とりあえず、経緯を確認だな」
そう俺は古いものからどんどんと書類を読み込んでいく。
……俺の中の計算が狂いだしたのは、そのときからだった。
最初の一日だけは俺の想像通り、セルリアは門前払いを食らっていた。
二日目に関しても、ラズベリアの職人には強い反感を持たれている。
……しかし、三日目から話が変わっていた。
「は? ラズベリア職人の環境改善計画?」
突然出てきた単語に、俺は言葉を失う。
しかし、そこから出てきたのはまるで想像もしない単語だった。
当たり前だが、俺は大きな権限などセルリアに与えていない。
そんな状況でセルリアが動くにはラズベリアの職人たちの協力が必要不可欠だが、あの職人たちが女性に助力したのか?
「っ!」
一瞬呆然とした後、俺は書類をすべて引き出し、すべての書類に目を通す。
「あった!」
そして、なぜか丁寧に折り畳まれた計画書を見つけたのは十数秒も立たない時だった。
それに目を通した俺は、そこにかかれていた内容に絶句する。
「……くそ、何だこの詳細かつ、大がかりな計画書は」
そこに記されていたのは、十日で作ったなど信じられない丁寧な計画書だった。
「というかなにを考えている! これだけ大がかりな計画書を作って資金を使ったのならば、事前に許可を取るのが……」
ひらり、とその計画書の端から小さな紙が落ちたのはそのときだった。
その紙を目にした俺は、呆然と呟く。
「……これは資金願い?」
それは商会の資金を使う際に必要な書類。
しかし、それはこんなところに紛れさせて良いものではなかった。
本当に許可が下りてからではないと、資金が出されることはないのだから。
つまり、俺の許可がおりず資金を勝手に引き出すのは許されないことだ。
……それなら、それならセルリアの化けの皮をはがすことができる。
そう思いながらその書類に目を通し、最後にかかれた文字を見て俺は動きをとめることになった。
後払い希望、という端的な文字を。
それは、資金願いの書類を報告しない例外に当たる方法。
後払い故に資金が下りるとは限らないが、代わりに自由に動いても誰も文句を言えない抜け穴的方法。
想像を超えた展開に呆然とする俺に、その書類の後ろにかかれた伝言が目に入る。
──次期商会長はお忙しいと思ったので、こういう形で報告させていただきました。お礼は結構です!
最後にハートマークの入ったその伝言を見て、俺はこちらを見下して笑うセルリアの笑顔を幻視する。
「あの女ぁ……!」
その日、俺の額から青筋が消えることはなかった。
◇◇◇
次回から、セルリア視点となります。
ラズベリアの目玉になる職人を見つけるという条件を思い出す。
それはそもそもの難易度でさえ高いものだ。
そしてそれ以上に絶対的にセルリアでは達成できない理由が存在した。
「あの女人禁制の職人たちは、絶対にセルリアを認めないだろうな」
それこそがセルリアが女性であるという点だった。
確かに、セルリアは優秀な人間である。
だが、絶対にラズベリアの職人たちが心を開くことはないだろう。
それはラズベリアの職人たちは誇り高く……何より、女人禁制という理由が女性を守るためであるが故に。
「そしていくらセルリアであれど、情報がなければどう動くこともできない」
そういいながら、俺は笑う。
「さて、失敗した時にセルリアはどういいわけするかな?」
実のところ、俺が罰で条件を用意しなかったのはこの条件をセルリアが受けると思ってなかったからと言うのもある。
しかしそれ以上に、俺が求めているのはセルリアが無様な姿をさらす事だった。
……そう、親父が賢い女などそんなものだと思えるように。
そして、賢い女が一番の醜態を晒すのは自身のプライドが傷つけられた時であることを俺は知っていた。
だから俺は罰の条件も出さずに、ただ高難易度な依頼を出したのだ。
それが一番俺の目的を果たせると考えて。
「さて、そろそろなんらかの動きはでている時だな」
そういいながら、俺は部下に送らせておいた報告の書類の束を手に取る。
「やけに量が多いな……? もしかしてもう癇癪でも起こしているのか? はてさて、どんな醜態を晒していることやら……」
そう言いながら、俺はまず最新の結果の進捗についてまとめられた書類に目を通す。
そこにかかれていたのは一切進んでいない進捗についての報告で、俺は思わず笑みを漏らす。
やはり、あのセルリアにも達成できなかったと。
「とりあえず、経緯を確認だな」
そう俺は古いものからどんどんと書類を読み込んでいく。
……俺の中の計算が狂いだしたのは、そのときからだった。
最初の一日だけは俺の想像通り、セルリアは門前払いを食らっていた。
二日目に関しても、ラズベリアの職人には強い反感を持たれている。
……しかし、三日目から話が変わっていた。
「は? ラズベリア職人の環境改善計画?」
突然出てきた単語に、俺は言葉を失う。
しかし、そこから出てきたのはまるで想像もしない単語だった。
当たり前だが、俺は大きな権限などセルリアに与えていない。
そんな状況でセルリアが動くにはラズベリアの職人たちの協力が必要不可欠だが、あの職人たちが女性に助力したのか?
「っ!」
一瞬呆然とした後、俺は書類をすべて引き出し、すべての書類に目を通す。
「あった!」
そして、なぜか丁寧に折り畳まれた計画書を見つけたのは十数秒も立たない時だった。
それに目を通した俺は、そこにかかれていた内容に絶句する。
「……くそ、何だこの詳細かつ、大がかりな計画書は」
そこに記されていたのは、十日で作ったなど信じられない丁寧な計画書だった。
「というかなにを考えている! これだけ大がかりな計画書を作って資金を使ったのならば、事前に許可を取るのが……」
ひらり、とその計画書の端から小さな紙が落ちたのはそのときだった。
その紙を目にした俺は、呆然と呟く。
「……これは資金願い?」
それは商会の資金を使う際に必要な書類。
しかし、それはこんなところに紛れさせて良いものではなかった。
本当に許可が下りてからではないと、資金が出されることはないのだから。
つまり、俺の許可がおりず資金を勝手に引き出すのは許されないことだ。
……それなら、それならセルリアの化けの皮をはがすことができる。
そう思いながらその書類に目を通し、最後にかかれた文字を見て俺は動きをとめることになった。
後払い希望、という端的な文字を。
それは、資金願いの書類を報告しない例外に当たる方法。
後払い故に資金が下りるとは限らないが、代わりに自由に動いても誰も文句を言えない抜け穴的方法。
想像を超えた展開に呆然とする俺に、その書類の後ろにかかれた伝言が目に入る。
──次期商会長はお忙しいと思ったので、こういう形で報告させていただきました。お礼は結構です!
最後にハートマークの入ったその伝言を見て、俺はこちらを見下して笑うセルリアの笑顔を幻視する。
「あの女ぁ……!」
その日、俺の額から青筋が消えることはなかった。
◇◇◇
次回から、セルリア視点となります。
35
お気に入りに追加
3,608
あなたにおすすめの小説
令嬢に転生してよかった!〜婚約者を取られても強く生きます。〜
三月べに
ファンタジー
令嬢に転生してよかった〜!!!
素朴な令嬢に婚約者である王子を取られたショックで学園を飛び出したが、前世の記憶を思い出す。
少女漫画や小説大好き人間だった前世。
転生先は、魔法溢れるファンタジーな世界だった。リディーは十分すぎるほど愛されて育ったことに喜ぶも、婚約破棄の事実を知った家族の反応と、貴族内の自分の立場の危うさを恐れる。
そして家出を決意。そのまま旅をしながら、冒険者になるリディーだったのだが?
【連載再開しました! 二章 冒険編。】
酷い扱いを受けていたと気付いたので黙って家を出たら、家族が大変なことになったみたいです
柚木ゆず
恋愛
――わたしは、家族に尽くすために生まれてきた存在――。
子爵家の次女ベネディクトは幼い頃から家族にそう思い込まされていて、父と母と姉の幸せのために身を削る日々を送っていました。
ですがひょんなことからベネディクトは『思い込まれている』と気付き、こんな場所に居てはいけないとコッソリお屋敷を去りました。
それによって、ベネディクトは幸せな人生を歩み始めることになり――反対に3人は、不幸に満ちた人生を歩み始めることとなるのでした。
【本編完結】捨ててくれて、大変助かりました。
ぽんぽこ狸
恋愛
アイリスは、突然、婚約破棄を言い渡され混乱していた。
父と母を同時に失い、葬儀も終えてまだほんの数日しかたっていないというのに、双子の妹ナタリアと、婚約者のアルフィーは婚約破棄をしてこの屋敷から出ていくことを要求してきた。
そしてナタリアはアルフィーと婚約をしてこのクランプトン伯爵家を継ぐらしい。
だからその代わりにナタリアの婚約者であった血濡れの公爵のところへアイリスが嫁に行けと迫ってくる。
しかし、アイリスの気持ちはひどく複雑だった。なんせ、ナタリアは知らないがクランプトン伯爵家はアルフィーに逆らえないとんでもない理由があるからだった。
本編完結、いいね、お気に入りありがとうございます。ちょっとだけその後を更新しました。
放置された公爵令嬢が幸せになるまで
こうじ
ファンタジー
アイネス・カンラダは物心ついた時から家族に放置されていた。両親の顔も知らないし兄や妹がいる事は知っているが顔も話した事もない。ずっと離れで暮らし自分の事は自分でやっている。そんな日々を過ごしていた彼女が幸せになる話。
酒の席での戯言ですのよ。
ぽんぽこ狸
恋愛
成人前の令嬢であるリディアは、婚約者であるオーウェンの部屋から聞こえてくる自分の悪口にただ耳を澄ませていた。
何度もやめてほしいと言っていて、両親にも訴えているのに彼らは総じて酒の席での戯言だから流せばいいと口にする。
そんな彼らに、リディアは成人を迎えた日の晩餐会で、仕返しをするのだった。
公爵家の家族ができました。〜記憶を失くした少女は新たな場所で幸せに過ごす〜
月
ファンタジー
記憶を失くしたフィーは、怪我をして国境沿いの森で倒れていたところをウィスタリア公爵に助けてもらい保護される。
けれど、公爵家の次女フィーリアの大切なワンピースを意図せず着てしまい、双子のアルヴァートとリティシアを傷付けてしまう。
ウィスタリア公爵夫妻には五人の子どもがいたが、次女のフィーリアは病気で亡くなってしまっていたのだ。
大切なワンピースを着てしまったこと、フィーリアの愛称フィーと公爵夫妻から呼ばれたことなどから双子との確執ができてしまった。
子どもたちに受け入れられないまま王都にある本邸へと戻ることになってしまったフィーに、そのこじれた関係のせいでとある出来事が起きてしまう。
素性もわからないフィーに優しくしてくれるウィスタリア公爵夫妻と、心を開き始めた子どもたちにどこか後ろめたい気持ちを抱いてしまう。
それは夢の中で見た、フィーと同じ輝くような金色の髪をした男の子のことが気になっていたからだった。
夢の中で見た、金色の花びらが舞う花畑。
ペンダントの金に彫刻された花と水色の魔石。
自分のことをフィーと呼んだ、夢の中の男の子。
フィーにとって、それらは記憶を取り戻す唯一の手がかりだった。
夢で会った、金色の髪をした男の子との関係。
新たに出会う、友人たち。
再会した、大切な人。
そして成長するにつれ周りで起き始めた不可解なこと。
フィーはどのように公爵家で過ごしていくのか。
★記憶を失くした代わりに前世を思い出した、ちょっとだけ感情豊かな少女が新たな家族の優しさに触れ、信頼できる友人に出会い、助け合い、そして忘れていた大切なものを取り戻そうとするお話です。
※前世の記憶がありますが、転生のお話ではありません。
※一話あたり二千文字前後となります。
無能と呼ばれ、婚約破棄されたのでこの国を出ていこうと思います
由香
恋愛
家族に無能と呼ばれ、しまいには妹に婚約者をとられ、婚約破棄された…
私はその時、決意した。
もう我慢できないので国を出ていこうと思います!
━━実は無能ではなく、国にとっては欠かせない存在だったノエル
ノエルを失った国はこれから一体どうなっていくのでしょう…
少し変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる