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第五十七話 (ネパール視点)

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「も、申し訳ありませんでした! ど、どうかお許しください!」

「わ、私たちもこんなことになるとは思わなかったのです!」

 そう言いながら、マイリアル伯爵家当主とマイリアル伯爵家夫人がその場で膝をついて頭を下げたのは直後の事だった。
 その中、私とエミリーだけは呆然と立ち尽くしていた。

「はあ。どの口で貴様等は賠償金など言っていたのだ?」

 そう告げる公爵家当主の言葉ににじむ呆れに、私は理解する。
 もう今から挽回する手はないと。

 ……いや、それはここに来た最初からの話か。

 そう、最初からすべて公爵閣下が計算していたのだとすれば、ここに来た時点で私達の挽回の芽は消えていたのだ。
 もうなにをしようが無駄でしかない。

 だったら、いっそ。

「……っ」

 ある考えが私の中に浮かんだのは、そのときだった。
 アズリックと、公爵閣下へと私は目をやる。
 ここの場所がそもそも仕組まれた場所と言うなら、あの二人はそもそも示し合わせているとしか思えない。
 そして、示し合わせてこんな芝居を打った理由があるとしたらそれは何か?

 ──それはセルリアのことしか考えられなかった。

 そう、二人はセルリアに責任がないという場所を作るためにこの場を作ったのだ。
 悪いのはすべて、私とマイリアル伯爵家当主。
 セルリアはただの被害者と。

 そして、私とマイリアル伯爵家当主を睨む商人達にそのことに気づいた様子はなかった。
 だとしたら、今私にできる最大の仕返しは……セルリア贔屓を指摘することだった。

 もちろん、それを信じるものはいないだろう。
 だが、疑念は残る。
 そして、公爵閣下を疎む人間に対してはつけ込む隙を与えることもできる。
 それで仕返しとしては十分ではないか?

「……貴様」

 私の雰囲気が変わったのを気づいたのか、公爵閣下目に鋭さが増す。
 とめられる前に私は口を開こうとして。

 ……やめた。

 代わりに、私はその場に膝をつき、頭を地面にすり付けた。

「申し開きのしようもございません。すべて私欲によって、私達が行いました」

「ね、ネパール!?」

 一切の言い訳もしない私に、マイリアル伯爵家が声を上げるのがわかる。
 だが、それを無視して私は続ける。

「ですが、どうか。私の実家だけは関係ありません……。彼らは未だセルリアが失踪したことさえ、ただの噂にすぎないと考えております。どうか、責任は私だけに……」

 その言葉に少し思案し、公爵閣下は告げた。

「……そのように手配しよう」

 それは貴族ネパール最後の瞬間だった。


 ◇◇◇


 次回から公爵家視点となります。
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