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第五十三話 (ネパール視点)

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 その言葉を聞いた瞬間、私の思考はなぜか冷静だった。
 想像を超えた最悪の事態に、私の頭はただ冷静だった。

 ……アズリックならこの状況を知っていてもおかしくないな、と。

「──今回の件を引き起こしたのは、そこにいるマイリアル伯爵家当主様と、ネパール殿です」

 その言葉の後、響いたのはしん、とした沈黙だった。
 それもそうだろう。
 アズリックの言葉は、今までセルリアの責任を追及していた私達の醜悪さを露わにするものなのだから。

 ……今までのセルリアへの言葉があるからこそ、私たちへと視線が集中する。

 その視線の中、私は必死に言葉を探す。
 何かいいわけしなければならないと。
 けれど、なぜか頭が私の思い通りに動くことはなかった。

 かわりに私の頭を支配するのは、どうしてこんな状況になったのかという思考だった。
 現在の私達はまるで計算されているように窮地に追い込まれている。

 いや、実際に計算しているとしか考えられなかった。

 顔を上げると椅子に座って呆然と立ち尽くす私とマイリアル伯爵家当主を見る公爵閣下たちの姿が目に入る。
 その光景に、最初にこの部屋に入ってきた時、まるで裁判のように感じたことを思い出す。
 そう、その時点で私達がなにをしたか理解できていない訳がなかった。
 それなのに、公爵閣下は私達ではなくセルリアに責任があるように話を始めた。
 それは違和感しかない行動で……すべてが手遅れになった今私は理解する。

 ──これは私たちを断罪する正当性を探している以外考えられないと。

 後で私達の責任であることを明かし、責任を問う。
 セルリアにそれだけ言っていたなら、お前達はどうやって責任を取るのだと。

 その想像で固まった私を他所に、アズリックが口を開くのが見える。

「その状況の証拠もございます。実は……」

「だ、黙れ……!」

 マイリアル伯爵家当主が叫んだのはそのときだった。
 必死の形相で、マイリアル伯爵家当主はアズリックをにらみつける。

「貴様、恩も忘れて刃向かうつもりか……! どれだけ貴様等の商会に私が……」

 かつん、と誰かが机をたたいたのはそのときだった。
 決して力一杯たたいた訳ではない。
 それにもかかわらず、やけに響くその音に私は、裁判の時に使われる鐘を幻視する。
 この場にいるすべての人間の注目を集めてから、公爵閣下は口を開いた。

「貴殿には後に弁明の機会を与える。今は口を閉じよ」

「しかし……」

「これは提案ではない。命令だ」

 そういいながら、冷ややかな目で公爵閣下はマイリアル伯爵家当主を見つめる。

「──今、セルリアの責任をマイリアル伯爵家の責任にでもしたいか?」

 その言葉に、青白い顔のままマイリアル伯爵家当主が黙る。
 そんな光景を見ながら、私は理解する。

 ……今からが断罪の始まりだと。
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