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第五十話 (ネパール視点)
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目の前のその景色を見て、私は理解する。
直前で気づいた違和感、それは正しかったことを。
ここにいるのは、救いの主ではない。
罠にかかった獲物をなぶる悪魔達なのだと。
「……なんだここは」
後ろから、呆然とした声が響く。
そちらに目をやると、そこにいたのは呆然と円卓の机を見るマイリアル伯爵家当主だった。
いや、違う。
マイリアル伯爵家当主の視線の先にいたのは公爵閣下ではなかった。
商人の衣服に身を包んだ大柄な男、それを見ながらマイリアル伯爵家当主は告げる。
「なぜ貴様がそこにいる? ──アズリック!」
「……っ」
その言葉を聞いた瞬間、私も気づく。
そこに座っていたのは、マイリアル伯爵家お抱えの商人であるアズリックであることに。
さらに私は気づいてしまう。
円卓に座っているのは、すべて商人であることに。
正確には、アズリック含めその誰もが高名な商人だった。
それを見ながら、私はマイリアル伯爵家当主と同じ言葉を告げる。
「何だこれは」
……まるで、裁判ではないか。
そんな言葉が私の胸にあふれ出す。
そして私は、その言葉が間違っていないことを理解していた。
何せ、もうここで私にできることなどあり得ないのだから。
なにも想定せず、この場に来てしまった時点ですべてがおしまいなのだ。
少し前、セバスチャンに言われた言葉が私の頭に蘇る。
──貴方方の末路はもう決まっているのだから。
その意味が今になって私には理解できていた。
すなわち、私たちは最初からこの場所につれてこられるように仕組まれていたことを。
ただ、それをまだ理解できていない人間がいた。
「どういうことだ!」
「そうよ! 私はマイリアル伯爵家夫人よ」
マイリアル伯爵家当主に、先ほどまでおとなしくしていた夫人までもが騒ぎ出す。
「そもそも、私たちはセルリアを探すために呼ばれただけのはずで……」
「ああ、それは本当だ。後でその話もじっくり聞かせて頂こう」
騒ぐマイリアル伯爵家当主に、公爵閣下は穏やかに頷く。
……しかし、その目はあざけりを隠そうともしていなかった。
「だが、その前にやることがあってな。──我が家の貿易を頓挫させた責任の所在を明らかにするというな」
「っ!」
マイリアル伯爵家の人間の顔色が変わったのはそのときだった。
そのマイリアル伯爵家に偏屈という噂が信じられぬほど朗らかに笑いながら、公爵閣下は告げる。
「おっと、手紙にかいていなかったか? すまぬな、老体故要件を伝え忘れていたらしい。また詫びは改めてさせて頂く」
この場に、第三者がいれば公爵家の言葉を疑いもしないだろう。
それほどに朗らかに笑う公爵家当主。
だからこそ、私もマイリアル伯爵家当主も青ざめた顔で立ち尽くすことしかできなかった。
「だが、今は協力して欲しい。……できないとは言わないだろう?」
そう告げる公爵閣下の背中、私は地獄の獄卒を幻視する。
間違っても、目の前の人間に心を許すべきでなかったことを今になって私は理科する。
……しかし、もうすべてが手遅れだった。
直前で気づいた違和感、それは正しかったことを。
ここにいるのは、救いの主ではない。
罠にかかった獲物をなぶる悪魔達なのだと。
「……なんだここは」
後ろから、呆然とした声が響く。
そちらに目をやると、そこにいたのは呆然と円卓の机を見るマイリアル伯爵家当主だった。
いや、違う。
マイリアル伯爵家当主の視線の先にいたのは公爵閣下ではなかった。
商人の衣服に身を包んだ大柄な男、それを見ながらマイリアル伯爵家当主は告げる。
「なぜ貴様がそこにいる? ──アズリック!」
「……っ」
その言葉を聞いた瞬間、私も気づく。
そこに座っていたのは、マイリアル伯爵家お抱えの商人であるアズリックであることに。
さらに私は気づいてしまう。
円卓に座っているのは、すべて商人であることに。
正確には、アズリック含めその誰もが高名な商人だった。
それを見ながら、私はマイリアル伯爵家当主と同じ言葉を告げる。
「何だこれは」
……まるで、裁判ではないか。
そんな言葉が私の胸にあふれ出す。
そして私は、その言葉が間違っていないことを理解していた。
何せ、もうここで私にできることなどあり得ないのだから。
なにも想定せず、この場に来てしまった時点ですべてがおしまいなのだ。
少し前、セバスチャンに言われた言葉が私の頭に蘇る。
──貴方方の末路はもう決まっているのだから。
その意味が今になって私には理解できていた。
すなわち、私たちは最初からこの場所につれてこられるように仕組まれていたことを。
ただ、それをまだ理解できていない人間がいた。
「どういうことだ!」
「そうよ! 私はマイリアル伯爵家夫人よ」
マイリアル伯爵家当主に、先ほどまでおとなしくしていた夫人までもが騒ぎ出す。
「そもそも、私たちはセルリアを探すために呼ばれただけのはずで……」
「ああ、それは本当だ。後でその話もじっくり聞かせて頂こう」
騒ぐマイリアル伯爵家当主に、公爵閣下は穏やかに頷く。
……しかし、その目はあざけりを隠そうともしていなかった。
「だが、その前にやることがあってな。──我が家の貿易を頓挫させた責任の所在を明らかにするというな」
「っ!」
マイリアル伯爵家の人間の顔色が変わったのはそのときだった。
そのマイリアル伯爵家に偏屈という噂が信じられぬほど朗らかに笑いながら、公爵閣下は告げる。
「おっと、手紙にかいていなかったか? すまぬな、老体故要件を伝え忘れていたらしい。また詫びは改めてさせて頂く」
この場に、第三者がいれば公爵家の言葉を疑いもしないだろう。
それほどに朗らかに笑う公爵家当主。
だからこそ、私もマイリアル伯爵家当主も青ざめた顔で立ち尽くすことしかできなかった。
「だが、今は協力して欲しい。……できないとは言わないだろう?」
そう告げる公爵閣下の背中、私は地獄の獄卒を幻視する。
間違っても、目の前の人間に心を許すべきでなかったことを今になって私は理科する。
……しかし、もうすべてが手遅れだった。
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