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第四十八話 (ネパール視点)
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「ではこちらに」
そう告げると、セバスチャンは私達を案内して歩き出す。
そのすぐ後ろについて行きながら私は理解していた。
確かに今私は、首の皮一枚で最悪の事態は避けた。
……しかし逆に言えば、私達は首の皮で何とかつながっている状態でしかなかった。
先ほどのセバスチャンの笑みは私の頭にはっきりと残っている。
あの笑みは間違いなく、マイリアル伯爵家当主が侍女に折檻を働こうとしたのに気づいているだろう。
幸いにも、その決定的な状況が起こる前にセバスチャンは現れた。
だから、指摘はされていない。
しかし、されていないだけで心証は最悪の可能性があるのだ。
そう理解して、私は改めて決意する。
マイリアル伯爵家当主にはこれ以上粗相を起こさせる訳には行かない、と。
幸い今はセバスチャンがいる。
ここから公爵閣下に会っている時はおとなしいだろう。
がちがちに固まったマイリアル伯爵家当主の姿に、私はそう判断する。
だどすれば問題は面会が終わった後だった。
面会でマイリアル伯爵家当主が機嫌よく面会が終わればまだいい。
しかし、少しでも不満が残る結果で面会が終われば……。
そう考えて、私は唇をかむ。
その時までに対策を考えて置かないとと。
「苦労されてますな」
「……っ」
突然前からそんな声が響いたのはそのときだった。
それに、私は驚愕を隠せず顔を上げる。
するとそこにいたのは、私を同情的な目で見るセバスチャンの姿だった。
想像もしない言葉に、私の思考が止まる。
しかし、気にすることなくセバスチャンは続ける。
「ああいう手の人間の扱いにくさはよく理解しておりますので。……特に気を使わないといけない立場にいるときのややこしさも」
そう告げるセバスチャンに、私はようやく理解する。
この人は、自分のことを気遣ってくれているのだと。
今までの苦労などが一気に胸にあふれ出したのは、その瞬間だった。
そんな私を優しい笑みを浮かべながら、セバスチャンは口を開く。
「貴方はよくやっている」
その言葉に、今度こそ私の目が潤む。
この立場を理解してくれる人が、こんなところにいたのかと。
あふれ出した私の感情を理解しているというように、軽くセバスチャンは私の肩をたたく。
言葉はなくても、それで十分だった。
そんなセバスチャンに、私はなんとか言葉を告げる。
「先ほどは本当に申し訳ありませんでした」
「気にしなくて大丈夫です」
にっこりと変わらない笑顔を浮かべながら、セバスチャンは告げる。
「なにがあろうが、貴方方の末路は最初から決まっているのだから」
……私が違和感を感じたのはそのときだった。
その違和感を探るように、私はセバスチャンへと目を向ける。
「私達の判断はもう終わっておりますので」
そして、その笑顔が先ほどと同じ──目が笑っていない笑顔だと気づいたのはそのときだった。
「ところでセルリア嬢の苦労の程を、少しでも理解できましたかな?」
そう告げると、セバスチャンは私達を案内して歩き出す。
そのすぐ後ろについて行きながら私は理解していた。
確かに今私は、首の皮一枚で最悪の事態は避けた。
……しかし逆に言えば、私達は首の皮で何とかつながっている状態でしかなかった。
先ほどのセバスチャンの笑みは私の頭にはっきりと残っている。
あの笑みは間違いなく、マイリアル伯爵家当主が侍女に折檻を働こうとしたのに気づいているだろう。
幸いにも、その決定的な状況が起こる前にセバスチャンは現れた。
だから、指摘はされていない。
しかし、されていないだけで心証は最悪の可能性があるのだ。
そう理解して、私は改めて決意する。
マイリアル伯爵家当主にはこれ以上粗相を起こさせる訳には行かない、と。
幸い今はセバスチャンがいる。
ここから公爵閣下に会っている時はおとなしいだろう。
がちがちに固まったマイリアル伯爵家当主の姿に、私はそう判断する。
だどすれば問題は面会が終わった後だった。
面会でマイリアル伯爵家当主が機嫌よく面会が終わればまだいい。
しかし、少しでも不満が残る結果で面会が終われば……。
そう考えて、私は唇をかむ。
その時までに対策を考えて置かないとと。
「苦労されてますな」
「……っ」
突然前からそんな声が響いたのはそのときだった。
それに、私は驚愕を隠せず顔を上げる。
するとそこにいたのは、私を同情的な目で見るセバスチャンの姿だった。
想像もしない言葉に、私の思考が止まる。
しかし、気にすることなくセバスチャンは続ける。
「ああいう手の人間の扱いにくさはよく理解しておりますので。……特に気を使わないといけない立場にいるときのややこしさも」
そう告げるセバスチャンに、私はようやく理解する。
この人は、自分のことを気遣ってくれているのだと。
今までの苦労などが一気に胸にあふれ出したのは、その瞬間だった。
そんな私を優しい笑みを浮かべながら、セバスチャンは口を開く。
「貴方はよくやっている」
その言葉に、今度こそ私の目が潤む。
この立場を理解してくれる人が、こんなところにいたのかと。
あふれ出した私の感情を理解しているというように、軽くセバスチャンは私の肩をたたく。
言葉はなくても、それで十分だった。
そんなセバスチャンに、私はなんとか言葉を告げる。
「先ほどは本当に申し訳ありませんでした」
「気にしなくて大丈夫です」
にっこりと変わらない笑顔を浮かべながら、セバスチャンは告げる。
「なにがあろうが、貴方方の末路は最初から決まっているのだから」
……私が違和感を感じたのはそのときだった。
その違和感を探るように、私はセバスチャンへと目を向ける。
「私達の判断はもう終わっておりますので」
そして、その笑顔が先ほどと同じ──目が笑っていない笑顔だと気づいたのはそのときだった。
「ところでセルリア嬢の苦労の程を、少しでも理解できましたかな?」
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