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第四十二話 (エミリー視点)

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「どうしてこんなことになったの?」

 そんな私の言葉が漏れたのは、自身の部屋でのことだった。
 今もなお、私の心には姉であるセルリアが出て行った時のことをよく覚えている。
 ようやく私を見てくれるようになる、そんな希望が私の胸にはあったのだから。

 ……そのはずだったのに。

 下から、何かものが割れる音が響いてくる。
 それに、私は反射的に耳を押さえていた。
 甲高い鼓膜を引き裂くようなその音に対して、その行為が無駄なことは分かっている。
 気休めでしかないと理解しながらも、私は必死にその音を遠ざけようと必死になる。
 セルリアがいなくなって今でちょうど十日。

 ……その間に、マイリアル伯爵家の状況は信じれないくらい変わっていた。

 セルリアが逃げ出した。
 その噂がたったのはいつからだったか。
 それから一気に伯爵家を取り巻く状況は悪化していった。
 まず、貿易をしていた商会や貴族が離れていった。
 それはお抱えであるアズリック商会も含めて。
 今や、マイリアル伯爵家とアズリック商会の力関係は完全に逆転していた。
 たったの十日でのこの状況に、マイリアル伯爵家からは人が逃げ出す始末。

「くそ! 使用人ごときが逃げ出しよって……!」

 下から響いてくるのは、癇癪を起こした父の怒声。
 必死に耳を抑えても父の叫び声を防ぐことはできなかった。
 ベッドの上で、私は必死に祈る。
 どうにか、今日は私に怒りを向けることがありませんように、と。

「エミリー!」

 だが、その祈りが聞き届けられることはなかった。
 乱雑な動きで、私の部屋の扉が開かれる。
 そして姿を現したのは、私をにらみつける父と母の姿だった。

「なにをのんきにしている! お前のせいでセルリアはこの家から出て至ったのだぞ!」

「そうよ! 貴女が余計な嫉妬心でネパールに手を出すから……!」

 そうヒステリックに叫ぶ両親を私は呆然とした目で見つめる。
 もう、感情はわくことはない。
 ただ、かつて両親に言われた言葉だけが頭の中を巡る。

 ──お前がネパールの婚約者であればよかったのに。

 ──本当に! そうなれば、あんな大きな顔することもないでしょうに!

 ──そうだ! お前がネパールの婚約者になればいいんじゃないか!

 それはかつて、私がネパールを誘惑する前にした会話。
 今思えば、あのときから私は気づいていたのだ。
 両親は私など見ていない。
 セルリアしか見ていないのだと。
 だからセルリアがいなくなれば、私はそうずっと心の奥底で思っていた。
 そうすれば、私を見てくれるはずだと。

「つまらない嫉妬で、全てを台無しにしよって!」

「全ては貴女のせいよ!」

 ……それが勘違いだと私が気づいたのは、全てが手遅れになったときだった。
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