42 / 72
第四十二話 (エミリー視点)
しおりを挟む
「どうしてこんなことになったの?」
そんな私の言葉が漏れたのは、自身の部屋でのことだった。
今もなお、私の心には姉であるセルリアが出て行った時のことをよく覚えている。
ようやく私を見てくれるようになる、そんな希望が私の胸にはあったのだから。
……そのはずだったのに。
下から、何かものが割れる音が響いてくる。
それに、私は反射的に耳を押さえていた。
甲高い鼓膜を引き裂くようなその音に対して、その行為が無駄なことは分かっている。
気休めでしかないと理解しながらも、私は必死にその音を遠ざけようと必死になる。
セルリアがいなくなって今でちょうど十日。
……その間に、マイリアル伯爵家の状況は信じれないくらい変わっていた。
セルリアが逃げ出した。
その噂がたったのはいつからだったか。
それから一気に伯爵家を取り巻く状況は悪化していった。
まず、貿易をしていた商会や貴族が離れていった。
それはお抱えであるアズリック商会も含めて。
今や、マイリアル伯爵家とアズリック商会の力関係は完全に逆転していた。
たったの十日でのこの状況に、マイリアル伯爵家からは人が逃げ出す始末。
「くそ! 使用人ごときが逃げ出しよって……!」
下から響いてくるのは、癇癪を起こした父の怒声。
必死に耳を抑えても父の叫び声を防ぐことはできなかった。
ベッドの上で、私は必死に祈る。
どうにか、今日は私に怒りを向けることがありませんように、と。
「エミリー!」
だが、その祈りが聞き届けられることはなかった。
乱雑な動きで、私の部屋の扉が開かれる。
そして姿を現したのは、私をにらみつける父と母の姿だった。
「なにをのんきにしている! お前のせいでセルリアはこの家から出て至ったのだぞ!」
「そうよ! 貴女が余計な嫉妬心でネパールに手を出すから……!」
そうヒステリックに叫ぶ両親を私は呆然とした目で見つめる。
もう、感情はわくことはない。
ただ、かつて両親に言われた言葉だけが頭の中を巡る。
──お前がネパールの婚約者であればよかったのに。
──本当に! そうなれば、あんな大きな顔することもないでしょうに!
──そうだ! お前がネパールの婚約者になればいいんじゃないか!
それはかつて、私がネパールを誘惑する前にした会話。
今思えば、あのときから私は気づいていたのだ。
両親は私など見ていない。
セルリアしか見ていないのだと。
だからセルリアがいなくなれば、私はそうずっと心の奥底で思っていた。
そうすれば、私を見てくれるはずだと。
「つまらない嫉妬で、全てを台無しにしよって!」
「全ては貴女のせいよ!」
……それが勘違いだと私が気づいたのは、全てが手遅れになったときだった。
そんな私の言葉が漏れたのは、自身の部屋でのことだった。
今もなお、私の心には姉であるセルリアが出て行った時のことをよく覚えている。
ようやく私を見てくれるようになる、そんな希望が私の胸にはあったのだから。
……そのはずだったのに。
下から、何かものが割れる音が響いてくる。
それに、私は反射的に耳を押さえていた。
甲高い鼓膜を引き裂くようなその音に対して、その行為が無駄なことは分かっている。
気休めでしかないと理解しながらも、私は必死にその音を遠ざけようと必死になる。
セルリアがいなくなって今でちょうど十日。
……その間に、マイリアル伯爵家の状況は信じれないくらい変わっていた。
セルリアが逃げ出した。
その噂がたったのはいつからだったか。
それから一気に伯爵家を取り巻く状況は悪化していった。
まず、貿易をしていた商会や貴族が離れていった。
それはお抱えであるアズリック商会も含めて。
今や、マイリアル伯爵家とアズリック商会の力関係は完全に逆転していた。
たったの十日でのこの状況に、マイリアル伯爵家からは人が逃げ出す始末。
「くそ! 使用人ごときが逃げ出しよって……!」
下から響いてくるのは、癇癪を起こした父の怒声。
必死に耳を抑えても父の叫び声を防ぐことはできなかった。
ベッドの上で、私は必死に祈る。
どうにか、今日は私に怒りを向けることがありませんように、と。
「エミリー!」
だが、その祈りが聞き届けられることはなかった。
乱雑な動きで、私の部屋の扉が開かれる。
そして姿を現したのは、私をにらみつける父と母の姿だった。
「なにをのんきにしている! お前のせいでセルリアはこの家から出て至ったのだぞ!」
「そうよ! 貴女が余計な嫉妬心でネパールに手を出すから……!」
そうヒステリックに叫ぶ両親を私は呆然とした目で見つめる。
もう、感情はわくことはない。
ただ、かつて両親に言われた言葉だけが頭の中を巡る。
──お前がネパールの婚約者であればよかったのに。
──本当に! そうなれば、あんな大きな顔することもないでしょうに!
──そうだ! お前がネパールの婚約者になればいいんじゃないか!
それはかつて、私がネパールを誘惑する前にした会話。
今思えば、あのときから私は気づいていたのだ。
両親は私など見ていない。
セルリアしか見ていないのだと。
だからセルリアがいなくなれば、私はそうずっと心の奥底で思っていた。
そうすれば、私を見てくれるはずだと。
「つまらない嫉妬で、全てを台無しにしよって!」
「全ては貴女のせいよ!」
……それが勘違いだと私が気づいたのは、全てが手遅れになったときだった。
28
お気に入りに追加
3,608
あなたにおすすめの小説
嘘を囁いた唇にキスをした。それが最後の会話だった。
わたあめ
恋愛
ジェレマイア公爵家のヒルトンとアールマイト伯爵家のキャメルはお互い17の頃に婚約を誓た。しかし、それは3年後にヒルトンの威勢の良い声と共に破棄されることとなる。
「お前が私のお父様を殺したんだろう!」
身に覚えがない罪に問われ、キャメルは何が何だか分からぬまま、隣国のエセルター領へと亡命することとなった。しかし、そこは異様な国で...?
※拙文です。ご容赦ください。
※この物語はフィクションです。
※作者のご都合主義アリ
※三章からは恋愛色強めで書いていきます。
裏切りのその後 〜現実を目の当たりにした令嬢の行動〜
AliceJoker
恋愛
卒業パーティの夜
私はちょっと外の空気を吸おうとベランダに出た。
だがベランダに出た途端、私は見てはいけない物を見てしまった。
そう、私の婚約者と親友が愛を囁いて抱き合ってるとこを…
____________________________________________________
ゆるふわ(?)設定です。
浮気ものの話を自分なりにアレンジしたものです!
2つのエンドがあります。
本格的なざまぁは他視点からです。
*別視点読まなくても大丈夫です!本編とエンドは繋がってます!
*別視点はざまぁ専用です!
小説家になろうにも掲載しています。
HOT14位 (2020.09.16)
HOT1位 (2020.09.17-18)
恋愛1位(2020.09.17 - 20)
【完結】私がいる意味はあるのかな? ~三姉妹の中で本当にハズレなのは私~
紺青
恋愛
私、リリアンはスコールズ伯爵家の末っ子。美しく優秀な一番上の姉、優しくて賢い二番目の姉の次に生まれた。お姉さま二人はとっても優秀なのに、私はお母さまのお腹に賢さを置いて来てしまったのか、脳みそは空っぽだってお母様さまにいつも言われている。あなたの良さは可愛いその外見だけねって。
できる事とできない事の凸凹が大きい故に生きづらさを感じて、悩みながらも、無邪気に力強く成長していく少女の成長と恋の物語。
☆「私はいてもいなくても同じなのですね」のスピンオフ。ヒロインのマルティナの妹のリリアンのお話です。このお話だけでもわかるようになっています。
☆なろうに掲載している「私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~」の本編、番外編をもとに加筆、修正したものです。
☆一章にヒーローは登場しますが恋愛成分はゼロです。主に幼少期のリリアンの成長記。恋愛は二章からです。
※児童虐待表現(暴力、性的)がガッツリではないけど、ありますので苦手な方はお気をつけください。
※ざまぁ成分は少な目。因果応報程度です。
とある婚約破棄の顛末
瀬織董李
ファンタジー
男爵令嬢に入れあげ生徒会の仕事を疎かにした挙げ句、婚約者の公爵令嬢に婚約破棄を告げた王太子。
あっさりと受け入れられて拍子抜けするが、それには理由があった。
まあ、なおざりにされたら心は離れるよね。
私のことが大嫌いらしい婚約者に婚約破棄を告げてみた結果。
夢風 月
恋愛
カルディア王国公爵家令嬢シャルロットには7歳の時から婚約者がいたが、何故かその相手である第二王子から酷く嫌われていた。
顔を合わせれば睨まれ、嫌味を言われ、周囲の貴族達からは哀れみの目を向けられる日々。
我慢の限界を迎えたシャルロットは、両親と国王を脅……説得して、自分たちの婚約を解消させた。
そしてパーティーにて、いつものように冷たい態度をとる婚約者にこう言い放つ。
「私と殿下の婚約は解消されました。今までありがとうございました!」
そうして笑顔でパーティー会場を後にしたシャルロットだったが……次の日から何故か婚約を解消したはずのキースが家に押しかけてくるようになった。
「なんで今更元婚約者の私に会いに来るんですか!?」
「……好きだからだ」
「……はい?」
いろんな意味でたくましい公爵令嬢と、不器用すぎる王子との恋物語──。
※タグをよくご確認ください※
【本編完結】魔力無し令嬢ルルティーナの幸せ辺境生活
花房いちご
恋愛
あらすじ
「この魔力無しのクズが!」
ルルティーナ・アンブローズはポーション職人です。
治癒魔法の名家であるアンブローズ侯爵家の次女でしたが、魔力が無いために産まれた時から虐待され、ポーション職人になることを強要されました。
特に激しい暴力を振るうのは、長女のララベーラです。ララベーラは治癒魔法の使い手ですが、非常に残酷な性格をしています。
魔力無しのルルティーナを見下し、ポーションを治癒魔法に劣ると馬鹿にしていました。
悲惨な環境にいたルルティーナですが、全ては自分が魔力無しだからと耐えていました。
誰のことも恨まず、一生懸命ポーションを作り続けました。
「薬の女神様にお祈り申し上げます。どうか、このポーションを飲む方を少しでも癒せますように」
そんなある日。ルルティーナは、ララベーラの代わりに辺境に行くよう命じられます。
それは、辺境騎士団団長アドリアン・ベルダール伯爵。通称「惨殺伯爵」からの要請でした。
ルルティーナは、魔獣から国を守ってくれている辺境騎士団のために旅立ちます。
そして、人生が大きく変わるのでした。
あらすじ、タイトルは途中で変えるかもしれません。女性に対する差別的な表現や、暴力的な描写があるためR15にしています。
2024/03/01。13話くらいまでの登場人物紹介更新しました。
(本編完結・番外編更新中)あの時、私は死にました。だからもう私のことは忘れてください。
水無月あん
恋愛
本編完結済み。
6/5 他の登場人物視点での番外編を始めました。よろしくお願いします。
王太子の婚約者である、公爵令嬢のクリスティーヌ・アンガス。両親は私には厳しく、妹を溺愛している。王宮では厳しい王太子妃教育。そんな暮らしに耐えられたのは、愛する婚約者、ムルダー王太子様のため。なのに、異世界の聖女が来たら婚約解消だなんて…。
私のお話の中では、少しシリアスモードです。いつもながら、ゆるゆるっとした設定なので、お気軽に楽しんでいただければ幸いです。本編は3話で完結。よろしくお願いいたします。
※お気に入り登録、エール、感想もありがとうございます! 大変励みになります!
有能婚約者を捨てた王子は、幼馴染との真実の愛に目覚めたらしい
マルローネ
恋愛
サンマルト王国の王子殿下のフリックは公爵令嬢のエリザに婚約破棄を言い渡した。
理由は幼馴染との「真実の愛」に目覚めたからだ。
エリザの言い分は一切聞いてもらえず、彼に誠心誠意尽くしてきた彼女は悲しんでしまう。
フリックは幼馴染のシャーリーと婚約をすることになるが、彼は今まで、どれだけエリザにサポートしてもらっていたのかを思い知ることになってしまう。一人でなんでもこなせる自信を持っていたが、地の底に落ちてしまうのだった。
一方、エリザはフリックを完璧にサポートし、その態度に感銘を受けていた第一王子殿下に求婚されることになり……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる