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第二十三話 (公爵家当主視点)
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「……何なんだ、この状況は」
怒りで手紙を持つ手が震える。
その手紙はアズリック商会のもの。
「セルリアの婚約が破棄されただと?」
その中身を見て儂、公爵家当主カイザード・マインザリッドは叫ぶ。
「すぐに馬車を用意しろ、セルリアは儂が保護する!」
そう言いながら、儂は椅子から立ち上がる。
そして準備をしようとして、その声が響いたのはその時だった。
「おやめ下さい。それはあの方、セルリア様を不幸にするだけです」
声の方向へと顔を向けると、そこにいたのは執事服を身につけた初老の男、公爵家家宰セバスチャンだった。
セバスチャンは儂を冷ややかな目で見つめながら告げる。
「今公爵家内部にセルリア様を取り込む危険性についてカイザード様もよく理解しているでしょう? アズリック殿の手紙にもそのことは記されていたはずです」
そのセバスチャンの言葉に、儂は黙る。
確かにセバスチャンの言った通りだった。
手紙ではアズリックは何度もセルリアには手を出さないようにとかかれていた上、公爵家が手を出す危険性は言われなくても理解できている。
それでも感情が納得しなかった。
「だが、このマイリアル伯爵家とネパールの増長を許していいと思っているのか?」
感情を露わに、儂はセバスチャンを睨みつける。
公爵家当主、カイザード・マインザリッド。
その名前が世間でどう呼ばれているか、儂は理解していた。
偏屈な成金貴族。
けれど、貿易の才能は天下一。
気にいられれば、その恩恵は計り知れない。
その全てが儂の立場を見ただけのもの。
儂という本人を見る人間はいはしなかった。
そう、儂の家族のように。
けれど、セルリアだけは違った。
「……儂の貿易についての話を嬉々として聞いてくれたのはあの娘だけだったのだぞ」
儂がこれまでの人生をかけて打ち込んできた貿易に関する知識。
それは年若い娘にはおもしろくない話だったはずだろう。
けれど、セルリアは数時間にも及ぶその話を喜んで聞いてくれた。
他の貴族には成金として蔑まれ、息子にさえ理解してもらえなかった話を。
セルリアは儂にとって、孫のような存在だった。
「そんなセルリアがこんな目に遭っているというのに、儂に指をくわえて見ていろと言うのか!」
「……復讐より、セルリア様の保護優先ですか」
「当たり前だ。マイリアル伯爵家などの小物、後でどうにでもできるし、報いは受けさせる。しかし、その前の話だ」
その私の言葉に、セバスチャンは笑みを浮かべた。
「その姿勢には我が主ながら敬服いたします。──ただ、だからこそ優先順位を間違えるべきではないかと」
「優先順位……」
「はい。セルリア様なら何があっても自力で対処される方です。それより、他の貴族がそれを邪魔しようとすることが一番の懸念です」
そのセバスチャンの言葉に、儂はとっさに怒鳴りかける。
それでセルリアが酷い目に遭っていたら、どうするのだと。
しかし、儂は目を閉じて深々と息を吐いた。
そのうちに、その感情的になっていたのが落ち着いてくるのがわかる。
「……分かった儂がやるべき事はマイリアル伯爵家の対処だな」
「はい」
「アズリックには、セルリアの近況を儂に流せと伝えておけ。それが今回言いなりになってやる条件だと」
儂の言葉に、満足そうに一礼してセバスチャンは部屋を後にする。
後に残されたのは、暴発寸前の怒りを抱えた儂の姿だった。
「いいだろう。今はセルリアのことは頭の隅に置いておこう。──代わりに、この怒り全てをマイリアル伯爵家、ネパールにぶつけてやる」
◇◇◇
次回からネパール視点となります!
怒りで手紙を持つ手が震える。
その手紙はアズリック商会のもの。
「セルリアの婚約が破棄されただと?」
その中身を見て儂、公爵家当主カイザード・マインザリッドは叫ぶ。
「すぐに馬車を用意しろ、セルリアは儂が保護する!」
そう言いながら、儂は椅子から立ち上がる。
そして準備をしようとして、その声が響いたのはその時だった。
「おやめ下さい。それはあの方、セルリア様を不幸にするだけです」
声の方向へと顔を向けると、そこにいたのは執事服を身につけた初老の男、公爵家家宰セバスチャンだった。
セバスチャンは儂を冷ややかな目で見つめながら告げる。
「今公爵家内部にセルリア様を取り込む危険性についてカイザード様もよく理解しているでしょう? アズリック殿の手紙にもそのことは記されていたはずです」
そのセバスチャンの言葉に、儂は黙る。
確かにセバスチャンの言った通りだった。
手紙ではアズリックは何度もセルリアには手を出さないようにとかかれていた上、公爵家が手を出す危険性は言われなくても理解できている。
それでも感情が納得しなかった。
「だが、このマイリアル伯爵家とネパールの増長を許していいと思っているのか?」
感情を露わに、儂はセバスチャンを睨みつける。
公爵家当主、カイザード・マインザリッド。
その名前が世間でどう呼ばれているか、儂は理解していた。
偏屈な成金貴族。
けれど、貿易の才能は天下一。
気にいられれば、その恩恵は計り知れない。
その全てが儂の立場を見ただけのもの。
儂という本人を見る人間はいはしなかった。
そう、儂の家族のように。
けれど、セルリアだけは違った。
「……儂の貿易についての話を嬉々として聞いてくれたのはあの娘だけだったのだぞ」
儂がこれまでの人生をかけて打ち込んできた貿易に関する知識。
それは年若い娘にはおもしろくない話だったはずだろう。
けれど、セルリアは数時間にも及ぶその話を喜んで聞いてくれた。
他の貴族には成金として蔑まれ、息子にさえ理解してもらえなかった話を。
セルリアは儂にとって、孫のような存在だった。
「そんなセルリアがこんな目に遭っているというのに、儂に指をくわえて見ていろと言うのか!」
「……復讐より、セルリア様の保護優先ですか」
「当たり前だ。マイリアル伯爵家などの小物、後でどうにでもできるし、報いは受けさせる。しかし、その前の話だ」
その私の言葉に、セバスチャンは笑みを浮かべた。
「その姿勢には我が主ながら敬服いたします。──ただ、だからこそ優先順位を間違えるべきではないかと」
「優先順位……」
「はい。セルリア様なら何があっても自力で対処される方です。それより、他の貴族がそれを邪魔しようとすることが一番の懸念です」
そのセバスチャンの言葉に、儂はとっさに怒鳴りかける。
それでセルリアが酷い目に遭っていたら、どうするのだと。
しかし、儂は目を閉じて深々と息を吐いた。
そのうちに、その感情的になっていたのが落ち着いてくるのがわかる。
「……分かった儂がやるべき事はマイリアル伯爵家の対処だな」
「はい」
「アズリックには、セルリアの近況を儂に流せと伝えておけ。それが今回言いなりになってやる条件だと」
儂の言葉に、満足そうに一礼してセバスチャンは部屋を後にする。
後に残されたのは、暴発寸前の怒りを抱えた儂の姿だった。
「いいだろう。今はセルリアのことは頭の隅に置いておこう。──代わりに、この怒り全てをマイリアル伯爵家、ネパールにぶつけてやる」
◇◇◇
次回からネパール視点となります!
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