15 / 72
第十五話 (エミリー視点)
しおりを挟む
「な、なんで? 私がいるじゃない? セルリアなんていらないじゃない?」
そう言いながらも、その実私は必死に祈っていた。
私の言葉を二人が肯定してくれることを。
けれど、その私の願いが届くことはなかった。
お父様も、ネパール様もまるで私の言葉が聞こえなかったように私から目をそらす。
その光景を、私はただ呆然と見つめることしかできなかった。
二人が出て行くその時まで。
「……うそつき」
私の口からそんな言葉が出たのは、誰もいなくなってからのことだった。
──何が優秀な存在だ。私や君の方が価値があると思わないか?
──お前は可愛いな、エミリー! お前さえいれば、セルリアなどいらないものを。
「うそつき、うそつき……!」
かつて、私に向けてネパールとお父様が告げた言葉。
それを思い出しながら、私は呆然とつぶやく。
しかし、それを聞く人間さえここにはいなかった。
その事実が、より私の中の記憶を刺激する。
──ありがたいお言葉です。でも俺は。
「……っ」
その記憶に、気づけば私は唇をかみしめていた。
それは一番思い出したくなかった最悪の記憶。
それさえなければ、私は純粋に自分はセルリアより優れていると思い続けていただろう。
けれどその人、元男爵令息マシュタルは私を否定したのだ。
──俺はセルリア様の側にいることが何より望みなので。
「どうして、あの女ばかり……!」
私の告白を一切の躊躇さえなく否定したその時。
それは、私の頭の中まだはっきりと残っている。
初めて何かがうまく行かなかったのこそ、その時で。
それから私は、徐々に気づき始めることになった。
……よく見れば、誰もが私よりセルリアのことが有用だと判断していることに。
「そんなことない!」
そこまで考えて、すぐに私は自分の頭にふと浮かんだその考えを降り払う。
そう、そんなことありえはしないのだ。
すぐに皆思い直す。
本当に必要なのはセルリアではない。
私だということを。
「だから、これは知らせるまでもないものよ」
そう言って私はある手紙。
……商会にいる手の者から送られたものを握りつぶした。
「私さえいれば、それでいいのだから!」
誰もそのことを知る由もなく。
◇◇◇
次回から、セルリア視点に戻ります。
そう言いながらも、その実私は必死に祈っていた。
私の言葉を二人が肯定してくれることを。
けれど、その私の願いが届くことはなかった。
お父様も、ネパール様もまるで私の言葉が聞こえなかったように私から目をそらす。
その光景を、私はただ呆然と見つめることしかできなかった。
二人が出て行くその時まで。
「……うそつき」
私の口からそんな言葉が出たのは、誰もいなくなってからのことだった。
──何が優秀な存在だ。私や君の方が価値があると思わないか?
──お前は可愛いな、エミリー! お前さえいれば、セルリアなどいらないものを。
「うそつき、うそつき……!」
かつて、私に向けてネパールとお父様が告げた言葉。
それを思い出しながら、私は呆然とつぶやく。
しかし、それを聞く人間さえここにはいなかった。
その事実が、より私の中の記憶を刺激する。
──ありがたいお言葉です。でも俺は。
「……っ」
その記憶に、気づけば私は唇をかみしめていた。
それは一番思い出したくなかった最悪の記憶。
それさえなければ、私は純粋に自分はセルリアより優れていると思い続けていただろう。
けれどその人、元男爵令息マシュタルは私を否定したのだ。
──俺はセルリア様の側にいることが何より望みなので。
「どうして、あの女ばかり……!」
私の告白を一切の躊躇さえなく否定したその時。
それは、私の頭の中まだはっきりと残っている。
初めて何かがうまく行かなかったのこそ、その時で。
それから私は、徐々に気づき始めることになった。
……よく見れば、誰もが私よりセルリアのことが有用だと判断していることに。
「そんなことない!」
そこまで考えて、すぐに私は自分の頭にふと浮かんだその考えを降り払う。
そう、そんなことありえはしないのだ。
すぐに皆思い直す。
本当に必要なのはセルリアではない。
私だということを。
「だから、これは知らせるまでもないものよ」
そう言って私はある手紙。
……商会にいる手の者から送られたものを握りつぶした。
「私さえいれば、それでいいのだから!」
誰もそのことを知る由もなく。
◇◇◇
次回から、セルリア視点に戻ります。
37
お気に入りに追加
3,608
あなたにおすすめの小説
令嬢に転生してよかった!〜婚約者を取られても強く生きます。〜
三月べに
ファンタジー
令嬢に転生してよかった〜!!!
素朴な令嬢に婚約者である王子を取られたショックで学園を飛び出したが、前世の記憶を思い出す。
少女漫画や小説大好き人間だった前世。
転生先は、魔法溢れるファンタジーな世界だった。リディーは十分すぎるほど愛されて育ったことに喜ぶも、婚約破棄の事実を知った家族の反応と、貴族内の自分の立場の危うさを恐れる。
そして家出を決意。そのまま旅をしながら、冒険者になるリディーだったのだが?
【連載再開しました! 二章 冒険編。】
酷い扱いを受けていたと気付いたので黙って家を出たら、家族が大変なことになったみたいです
柚木ゆず
恋愛
――わたしは、家族に尽くすために生まれてきた存在――。
子爵家の次女ベネディクトは幼い頃から家族にそう思い込まされていて、父と母と姉の幸せのために身を削る日々を送っていました。
ですがひょんなことからベネディクトは『思い込まれている』と気付き、こんな場所に居てはいけないとコッソリお屋敷を去りました。
それによって、ベネディクトは幸せな人生を歩み始めることになり――反対に3人は、不幸に満ちた人生を歩み始めることとなるのでした。
【本編完結】捨ててくれて、大変助かりました。
ぽんぽこ狸
恋愛
アイリスは、突然、婚約破棄を言い渡され混乱していた。
父と母を同時に失い、葬儀も終えてまだほんの数日しかたっていないというのに、双子の妹ナタリアと、婚約者のアルフィーは婚約破棄をしてこの屋敷から出ていくことを要求してきた。
そしてナタリアはアルフィーと婚約をしてこのクランプトン伯爵家を継ぐらしい。
だからその代わりにナタリアの婚約者であった血濡れの公爵のところへアイリスが嫁に行けと迫ってくる。
しかし、アイリスの気持ちはひどく複雑だった。なんせ、ナタリアは知らないがクランプトン伯爵家はアルフィーに逆らえないとんでもない理由があるからだった。
本編完結、いいね、お気に入りありがとうございます。ちょっとだけその後を更新しました。
放置された公爵令嬢が幸せになるまで
こうじ
ファンタジー
アイネス・カンラダは物心ついた時から家族に放置されていた。両親の顔も知らないし兄や妹がいる事は知っているが顔も話した事もない。ずっと離れで暮らし自分の事は自分でやっている。そんな日々を過ごしていた彼女が幸せになる話。
酒の席での戯言ですのよ。
ぽんぽこ狸
恋愛
成人前の令嬢であるリディアは、婚約者であるオーウェンの部屋から聞こえてくる自分の悪口にただ耳を澄ませていた。
何度もやめてほしいと言っていて、両親にも訴えているのに彼らは総じて酒の席での戯言だから流せばいいと口にする。
そんな彼らに、リディアは成人を迎えた日の晩餐会で、仕返しをするのだった。
公爵家の家族ができました。〜記憶を失くした少女は新たな場所で幸せに過ごす〜
月
ファンタジー
記憶を失くしたフィーは、怪我をして国境沿いの森で倒れていたところをウィスタリア公爵に助けてもらい保護される。
けれど、公爵家の次女フィーリアの大切なワンピースを意図せず着てしまい、双子のアルヴァートとリティシアを傷付けてしまう。
ウィスタリア公爵夫妻には五人の子どもがいたが、次女のフィーリアは病気で亡くなってしまっていたのだ。
大切なワンピースを着てしまったこと、フィーリアの愛称フィーと公爵夫妻から呼ばれたことなどから双子との確執ができてしまった。
子どもたちに受け入れられないまま王都にある本邸へと戻ることになってしまったフィーに、そのこじれた関係のせいでとある出来事が起きてしまう。
素性もわからないフィーに優しくしてくれるウィスタリア公爵夫妻と、心を開き始めた子どもたちにどこか後ろめたい気持ちを抱いてしまう。
それは夢の中で見た、フィーと同じ輝くような金色の髪をした男の子のことが気になっていたからだった。
夢の中で見た、金色の花びらが舞う花畑。
ペンダントの金に彫刻された花と水色の魔石。
自分のことをフィーと呼んだ、夢の中の男の子。
フィーにとって、それらは記憶を取り戻す唯一の手がかりだった。
夢で会った、金色の髪をした男の子との関係。
新たに出会う、友人たち。
再会した、大切な人。
そして成長するにつれ周りで起き始めた不可解なこと。
フィーはどのように公爵家で過ごしていくのか。
★記憶を失くした代わりに前世を思い出した、ちょっとだけ感情豊かな少女が新たな家族の優しさに触れ、信頼できる友人に出会い、助け合い、そして忘れていた大切なものを取り戻そうとするお話です。
※前世の記憶がありますが、転生のお話ではありません。
※一話あたり二千文字前後となります。
成人したのであなたから卒業させていただきます。
ぽんぽこ狸
恋愛
フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。
すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。
メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。
しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。
それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。
そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。
変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる