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第十一話 (ネパール視点)
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「くそ、どうしてこんなことに……!」
そんな叫びが私、ネパールの口から漏れたのは呆然としたセルリアが帰って数時間した頃だった。
徐々に落ち着いてくるに至り、私も自分のしたことを理解しつつあった。
すなわち、どれだけ自分が致命的なことをしたかと。
「セルリアさえ、余計なことを言わなければ!」
そう言いながら、私は唇をかみしめる。
それさえなければ、私も感情的になって叫ぶこともなかった。
とはいえ、その理由があってもなお現状がどれだけまずい状況か、私は理解していた。
……何せ、実際のところセルリアが婚約者であるというのは、交易を行う上で必要不可欠な要素なのだから。
本来なら、それを強引に破談させようとするのは伯爵家側のはずだった。
そう説得されたから、私はエミリーというあの女と婚約することを了承した。
そうすれば、あくまで自分は味方だとそういうそぶりでセルリアの側に戻れるから。
そこで側室にでもすれば、多少ごたごたはするだろうが、交易自体に影響があることはない。
そう私は考えていた。
しかし、その全ての想定は伯爵家の安易な暴走により、崩れ去ることになった。
「……どうして、話の筋道も守れない!」
そう言いながら、私は自分の金髪をかきむしる。
その筋道は、絶対条件として伯爵家に出したものだった。
それも守れない伯爵家という存在に、私はただ怒りを露わにすることしかできない。
「どうして何もうまく行かない……!」
気づけば、そんな叫びが私の口から漏れていた。
はじめはちょっとした出来心だった。
両親も、交易相手も全員セルリアのことを評価している。
私のことなど、一切見ずに。
……エミリーの誘いに乗ったのは、その現状へのちょっとした反抗のつもりでしかなかった。
こんな状況になるなど、私は一切考えてもいなかったのだ。
「セルリアがいなければ」
そうつぶやき、私の顔から血の気が引く。
今の私の立場はセルリアの存在が大きかった。
言ってしまえば次期当主という立場さえ、その存在は大きいだろう。
その状況下で、セルリアを手放すことだけは絶対に避けたい。
……それを考慮すると、今の現状は最悪のものだったといえる。
だが、全てが手遅れではなかった。
私の脳裏に浮かぶのは、一つの光景だった。
それは私の方を呆然と見るセルリアの姿。
まだ鮮明に残っている表情を頭に浮かべながら、私はつぶやく。
「そうだ。……間違いなくセルリアは私に未練がある」
そう言いながら、私の胸に浮かぶのは征服感に似た感情だった。
誰もが、私などセルリアのおまけにすぎないと言う。
実際、セルリアは圧倒的な能力を持った人間なのだろう。
しかし、そんなセルリアが私の拒絶にこんな反応を示す。
なぜかは分からない。
けれど、その事実が私にとってはたまらなく快感だった。
「……今セルリアに側室の話を持って行けば、必ず了承するはずだ」
そう言いながら、私は自室の椅子からゆっくりと立ち上がる。
向かう先にあるのは、伯爵家。
今ちょうど、傷心のセルリアがいるはずの場所。
「すぐに馬車を用意しろ」
そう部下に言いながら、私はセルリアに出会ったときのことを思い描く。
会えば、まず謝罪をしよう。
そうすれば、セルリアは安心するはずだ。
そこで、今までの劣等感を伝え、それが暴走しただけだと訴えるのだ。
セルリアなら、絶対にそれを聞いてほだされるはずだ。
そうなれば、側室だけの話じゃない。
全てを私の言うとおりに証言してくれるはずだ。
そう考える私の口元には、いびつな笑みが浮かんでいた。
そんな叫びが私、ネパールの口から漏れたのは呆然としたセルリアが帰って数時間した頃だった。
徐々に落ち着いてくるに至り、私も自分のしたことを理解しつつあった。
すなわち、どれだけ自分が致命的なことをしたかと。
「セルリアさえ、余計なことを言わなければ!」
そう言いながら、私は唇をかみしめる。
それさえなければ、私も感情的になって叫ぶこともなかった。
とはいえ、その理由があってもなお現状がどれだけまずい状況か、私は理解していた。
……何せ、実際のところセルリアが婚約者であるというのは、交易を行う上で必要不可欠な要素なのだから。
本来なら、それを強引に破談させようとするのは伯爵家側のはずだった。
そう説得されたから、私はエミリーというあの女と婚約することを了承した。
そうすれば、あくまで自分は味方だとそういうそぶりでセルリアの側に戻れるから。
そこで側室にでもすれば、多少ごたごたはするだろうが、交易自体に影響があることはない。
そう私は考えていた。
しかし、その全ての想定は伯爵家の安易な暴走により、崩れ去ることになった。
「……どうして、話の筋道も守れない!」
そう言いながら、私は自分の金髪をかきむしる。
その筋道は、絶対条件として伯爵家に出したものだった。
それも守れない伯爵家という存在に、私はただ怒りを露わにすることしかできない。
「どうして何もうまく行かない……!」
気づけば、そんな叫びが私の口から漏れていた。
はじめはちょっとした出来心だった。
両親も、交易相手も全員セルリアのことを評価している。
私のことなど、一切見ずに。
……エミリーの誘いに乗ったのは、その現状へのちょっとした反抗のつもりでしかなかった。
こんな状況になるなど、私は一切考えてもいなかったのだ。
「セルリアがいなければ」
そうつぶやき、私の顔から血の気が引く。
今の私の立場はセルリアの存在が大きかった。
言ってしまえば次期当主という立場さえ、その存在は大きいだろう。
その状況下で、セルリアを手放すことだけは絶対に避けたい。
……それを考慮すると、今の現状は最悪のものだったといえる。
だが、全てが手遅れではなかった。
私の脳裏に浮かぶのは、一つの光景だった。
それは私の方を呆然と見るセルリアの姿。
まだ鮮明に残っている表情を頭に浮かべながら、私はつぶやく。
「そうだ。……間違いなくセルリアは私に未練がある」
そう言いながら、私の胸に浮かぶのは征服感に似た感情だった。
誰もが、私などセルリアのおまけにすぎないと言う。
実際、セルリアは圧倒的な能力を持った人間なのだろう。
しかし、そんなセルリアが私の拒絶にこんな反応を示す。
なぜかは分からない。
けれど、その事実が私にとってはたまらなく快感だった。
「……今セルリアに側室の話を持って行けば、必ず了承するはずだ」
そう言いながら、私は自室の椅子からゆっくりと立ち上がる。
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「すぐに馬車を用意しろ」
そう部下に言いながら、私はセルリアに出会ったときのことを思い描く。
会えば、まず謝罪をしよう。
そうすれば、セルリアは安心するはずだ。
そこで、今までの劣等感を伝え、それが暴走しただけだと訴えるのだ。
セルリアなら、絶対にそれを聞いてほだされるはずだ。
そうなれば、側室だけの話じゃない。
全てを私の言うとおりに証言してくれるはずだ。
そう考える私の口元には、いびつな笑みが浮かんでいた。
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