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第61話 (ライルハート目線)

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 バールセルトが敢えてアレスルージュを泳がしていた理由、それは貴族の力を削ぐ理由とするためだった。
 覇王と呼ばれるバールセルトが現れてから、貴族達は大きく力を削がれていたが、以前強い権限を握っている。
 それを王家のものとするために、バールセルトは手を回していた。

 その計画全てを、俺が潰したことになるのだ。

 「お前が色々と嗅ぎ回っていたのは知っている。言い訳を聞くつもりはない」

 そう言い切ったバールセルトに、俺は誤魔化すことは不可能だと理解する。
 俺がバールセルトの狙いを知っていると同じように、バールセルトも同様の情報網で俺の狙いに気づいていたのだろう。
 そして、それでも手を出さなかったのは、自分の目的に沿って俺が動いていたから。

 俺が全てを壊した時点で、バールセルトが俺を泳がせる理由がなくなったのだ。

 自分を射竦める鋭い眼光、それを感じながら、俺は本能的に察する。
 ここでの返答次第では、バールセルトはなんの躊躇いもなく息子である俺を殺そうとするだろう。

 かつて俺が、神童として貴族に持ち上げられそうになった時、バールセルトは何も手出ししなかった。
 より強い王が生まれるならば、バールセルトは俺と兄貴が殺し合いをしても無視する。
 そして、今回のように、王家の力を強めるためには手段を選ばない。

 国のために全てを犠牲にする王、それがバールセルトだ。

 この場での答えで、全てが決まる。
 それを理解した兄貴が、緊張のこもった視線を向けてくるのがわかる。

 その空気の中、俺はまるで何も気にしないとでも言いたげな表情で顔を上げ、口を開いた。

「そう、ですね。今回は俺が悪かった。なので、公爵家に貸し一つ。これで手を打ちませんか」

 その瞬間、部屋の中の空気が凍りつくこととなった。
 バールセルトでさえ、俺の言葉が予想できなかったように、その顔に僅かな驚きを浮かべている。

 「ほう。俺に貸し一つだと言いたいのか?まさか、こんな状況でそんなことを言うとは考えていなかった」

 そう告げたバールセルトは表面上では、和やかだった。
 まるで、俺の言葉を気にしてもいないかのような態度で、笑っている。

 だが、それが表面上の擬態でしかないことを俺は理解していた。

 その俺の想像を肯定するかのように、バールセルトの雰囲気が激変した。

 「ライルハート。これがお前の答えだな?──俺に敵対するつもりか」


 次の瞬間、そう告げたバールセルトの言葉に、部屋の中を極度の緊張が支配することとなった。
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