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第28話

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 テラスを後にし、踊り場にやってきてもライルハート様は足を止めることはなかった。
 それどころか、入り口に留まっていた従者達にさえ、ついてこないように言いつけ会場の外へと足を進めていく。

 私が不安を覚え始めたのは、会場から漏れる明かりで僅かに照らされた中庭が見えてきた時だった。

 明らかに今のライルハート様の様子はおかしかった。
 私はライルハート様が怒っているのではないか、そう思い至る。

 そして、その心当たりに私は気づいていた。

 それはもちろん、不用意に令息達について行ったこと。
 飲みものを取りに行くと告げ、その足で令息達について行くなど普通に考えればありえないことだ。

 ……今さらながら、そのことに気づいた私の内心は、焦燥の嵐だった。

 これは、ライルハート様が怒るのも当たり前の話だと。
 むしろ、令息達への罪悪感のため、そのことに対する考えが抜け落ちていた過去の自分の方がおかしい。

 「……その、お手数をかけてしまって、申し訳ありませんでした」

 とりあえず、先に謝罪するしかないと判断した私は、何かを言われる前に頭を下げた。

「さすがに自覚はあったか?自分が何をしたのか」

 そんな私に対し、ライルハート様は重々しい口調で口を開く。
 それは滅多に聞くことのない声だった。
 珍しくライルハート様が怒っていることに気づき、私は内心冷や汗をかく。

 「はぁ。そう言ってさすがに怒りたい気分ではあったんだが、アイリスだからな……」

 しかし、そんな私を見てライルハート様が起こることはなかった。
 深々と、疲れたような溜息を漏らすが、それ以上怒ることなく、続ける。

「これだけ長く付き合って来てるんだ。アイリスのお節介は知っている。どれだけ怒っても、治らないことは分かっている。だけど、一つだけお願いしたいことがある」

「……え?」

 そのライルハート様の言葉に、私は戸惑いの声を漏らしていた。

 ライルハート様は私に何かよくしてくれるが、その反面頼みごとをしてくれたことはほとんどない。
 それも、どれだけ自分が追い詰められていてもだ。

 ……それに、ライルハート様のまとう雰囲気はいつもとまるで違った。

 どこか強ばった表情に、緊張したように握りしめられた拳。
 私がそんなライルハート様を見たのは数回程度で、それ故に何か起きたのかと、自然に私も身構えてしまう。

 けれど、どれだけ難題でも、私が到底解決できないことであったとしても、私の答えは既に決まっている。

「わかりました。何でも言ってください」

 だから私は、そう身構えながらも、迷うことなくライルハート様の言葉に頷いた。
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