23 / 75
第22話
しおりを挟む
それから、ホールの中央へと移動した私達は、ちょうど始まった曲に合わせて踊り出す。
そんな私達へと、さらに多くの視線が集まってくる。
「……ねぇ、あの素敵な人誰かしら」
「分からないわ。見たことないもの」
「一体どこの高位貴族の令息なんだ?」
「待てよ、アイリス様が踊っているてことはまさか……!」
混乱の隠せない複数の声、それを聞きながら私は必死に顔が緩むのを堪えていた。
なぜなら、ライルハート様が認められることは、私にとって一番の希望だったのだから。
もちろん、ライルハート様が意図的に目立つことを避けていることを私は分かっている。
ライルハート様は自分が望んで、昼行灯と蔑まれる立場に甘んじていることを。
それでも私は、一人でも多くの人にライルハート様の凄さを認めてもらいたいと思っていて。
だから、例え外見だけだとしても、少しでもライルハート様の評価が上がったことに、私は喜びを抑えられなかった。
「……アイリス、どうかしたのか?」
さすがに私の様子を不審に感じたのか、ライルハート様が心配そうな視線を向けている。
その目に映っているのは私だけで、そのことに幸福感を感じながら私は首を振った。
「いえ、大丈夫です。今日が楽しいなと思っていただけですから」
そうして踊りながら、私は胸の中で密かに思う。
願うならば、ライルハート様がこうして悪評を被らなければならないようになればいいのにと。
◇◆◇
「少し、飲み物を飲んできますね」
それから何曲か踊った後、私はそう断りを入れて使用人の待つ端へと歩き出した。
連続して踊ったこともあり、身体はすっかり上気している。
……久々の夜会で、はしゃぎすぎてしまったかもしれない。
「でも、楽しかったわね」
そう思いながらも、私は楽しさの余韻を噛み締めるよう笑う。
実の所、夜会にあまり出ないとはいえ、ライルハート様はダンスができないわけじゃない。
それどころか、他の令息よりも一段上の実力を持っている。
幼い頃は、頻繁に踊っていたからこそ、私はそのことを知っている。
けれど、今はもう滅多に踊ることができない。
それ故に、こうして踊れる夜会を私は楽しみにしていた。
特に今回は、正装をしてくれているからか、いつもよりも長く私と踊ってくれた。
それはとても楽しい時間で、それ故に名残惜しさを感じながら、私は小さく呟く。
「次踊れるのはいつかしら」
「残念ながら、もうないのではないのでしょうか?」
……突然背後からの声が響いたのは、その時だった。
想像もしていなかったことに驚き、振り返った私の目に入ってきのは、貴族令息の男性だった。
警戒を顔にうかべる私に対し、その中の一人が告げた。
「アイリス様、ですね。少しお付き合いしていただけないでしょうか」
そんな私達へと、さらに多くの視線が集まってくる。
「……ねぇ、あの素敵な人誰かしら」
「分からないわ。見たことないもの」
「一体どこの高位貴族の令息なんだ?」
「待てよ、アイリス様が踊っているてことはまさか……!」
混乱の隠せない複数の声、それを聞きながら私は必死に顔が緩むのを堪えていた。
なぜなら、ライルハート様が認められることは、私にとって一番の希望だったのだから。
もちろん、ライルハート様が意図的に目立つことを避けていることを私は分かっている。
ライルハート様は自分が望んで、昼行灯と蔑まれる立場に甘んじていることを。
それでも私は、一人でも多くの人にライルハート様の凄さを認めてもらいたいと思っていて。
だから、例え外見だけだとしても、少しでもライルハート様の評価が上がったことに、私は喜びを抑えられなかった。
「……アイリス、どうかしたのか?」
さすがに私の様子を不審に感じたのか、ライルハート様が心配そうな視線を向けている。
その目に映っているのは私だけで、そのことに幸福感を感じながら私は首を振った。
「いえ、大丈夫です。今日が楽しいなと思っていただけですから」
そうして踊りながら、私は胸の中で密かに思う。
願うならば、ライルハート様がこうして悪評を被らなければならないようになればいいのにと。
◇◆◇
「少し、飲み物を飲んできますね」
それから何曲か踊った後、私はそう断りを入れて使用人の待つ端へと歩き出した。
連続して踊ったこともあり、身体はすっかり上気している。
……久々の夜会で、はしゃぎすぎてしまったかもしれない。
「でも、楽しかったわね」
そう思いながらも、私は楽しさの余韻を噛み締めるよう笑う。
実の所、夜会にあまり出ないとはいえ、ライルハート様はダンスができないわけじゃない。
それどころか、他の令息よりも一段上の実力を持っている。
幼い頃は、頻繁に踊っていたからこそ、私はそのことを知っている。
けれど、今はもう滅多に踊ることができない。
それ故に、こうして踊れる夜会を私は楽しみにしていた。
特に今回は、正装をしてくれているからか、いつもよりも長く私と踊ってくれた。
それはとても楽しい時間で、それ故に名残惜しさを感じながら、私は小さく呟く。
「次踊れるのはいつかしら」
「残念ながら、もうないのではないのでしょうか?」
……突然背後からの声が響いたのは、その時だった。
想像もしていなかったことに驚き、振り返った私の目に入ってきのは、貴族令息の男性だった。
警戒を顔にうかべる私に対し、その中の一人が告げた。
「アイリス様、ですね。少しお付き合いしていただけないでしょうか」
10
お気に入りに追加
6,522
あなたにおすすめの小説
別に要りませんけど?
ユウキ
恋愛
「お前を愛することは無い!」
そう言ったのは、今日結婚して私の夫となったネイサンだ。夫婦の寝室、これから初夜をという時に投げつけられた言葉に、私は素直に返事をした。
「……別に要りませんけど?」
※Rに触れる様な部分は有りませんが、情事を指す言葉が出ますので念のため。
※なろうでも掲載中
【完結】え、別れましょう?
須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」
「は?え?別れましょう?」
何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。
ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?
だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。
※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。
ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。
ある王国の王室の物語
朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。
顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。
それから
「承知しました」とだけ言った。
ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。
それからバウンドケーキに手を伸ばした。
カクヨムで公開したものに手を入れたものです。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~
胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。
時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。
王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。
処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。
これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。
夫のかつての婚約者が現れて、離縁を求めて来ました──。
Nao*
恋愛
結婚し一年が経った頃……私、エリザベスの元を一人の女性が訪ねて来る。
彼女は夫ダミアンの元婚約者で、ミラージュと名乗った。
そして彼女は戸惑う私に対し、夫と別れるよう要求する。
この事を夫に話せば、彼女とはもう終わって居る……俺の妻はこの先もお前だけだと言ってくれるが、私の心は大きく乱れたままだった。
その後、この件で自身の身を案じた私は護衛を付ける事にするが……これによって夫と彼女、それぞれの思いを知る事となり──?
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる