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 「お前なら、ここに来ると思っていたよ」

 怒気を隠さない俺を見て、アーザスはそう笑った。

 「幼馴染だったか?あんな化け物をそう呼んで、助けようとするとは底なしの馬鹿だなお前」

 「……黙れ」

 嘲りを顔に浮かべ、言葉を重ねるアーザスを俺は殺意を隠そうともしない目で睨む。
 だが、アーザスは口を閉じない。

 「なあ、知ってるか?俺、この戦争が終わったら、あの化け物と結婚させられるんだとさ。顔だけは良いから、抱く時ぐらいは案外楽しいかも知れねえけどな!」

 「っ!」

 その言葉に、もう俺が怒りを抑えることはできなかった。
 サーシャの人生を潰した王国は、それだけでは飽き足らず全てを利用しようとしている。
 それも、こんな男に与えることで。

 一体王国は、どれだけサーシャを絞りとれば気がすむのか。
 俺はその憤りを殺意へと変え、アーザスを睨みつける──突然、アーザスが笑いだしたのは、その時だった。

 「あは、あはは!そう、それだよ成り上がり!俺が見たかったのは、その顔だよ!」

 狂ったように哄笑を上げるアーザスに、俺は一瞬言葉を失う。
 そんな俺を無視し、アーザスは口を開く。

 「ようやくだよ。ようやくお前の澄ました顔を、歪めることが出来た。なあサイス、俺がどれだけお前を虐めても、お前はじっと耐えるだけだったよな。まるで、お前なんて眼中にないって言いたげに」

 そう語るほどに、どんどんとアーザスの言葉に怒りがこもるようになっていく。

 「俺が、お前という存在にどれだけ劣等感を抱かされているかも知らずに!天才と呼ばれた俺が、平民に、それも触媒系なんて無能に負けて、どれだけ恥をかいたのか、お前は知る気なんて一切なかっただろう!……それがどれだけ屈辱だったか、お前に理解できるか?」

 アーザスの言葉はあまりにも理不尽なものだった。
 全ては、アーザスの勝手な嫉妬でしかない。
 俺は別に戦争に出たかったわけでも、サーシャも勇者なんて名前など要らなかった。
 それを強引に押し付けてきた側の人間のくせに、いざ名を挙げた瞬間文句をつけ始めたようなものなのだから。
 しかし、それさえ頭から抜けてしまいそうになるだけの狂気が、アーザスの言葉に存在していた。

 「ようやくこの時が来た。サイス、根っこからお前の心を折ってやる!」

 「なっ!」

 次の瞬間、そのサイスの言葉に反応し、部屋のなかに十数人の騎士達が流れ込んでくる。

 「お前の目の前で、勇者を犯してやるよサイスぅ!」

 動揺を漏らした俺を嘲笑うアーザス。
 その目には、隠すきのない嫉妬の炎が燃えていた………
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