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「なあ、サイス。貴様の働きを認めていないわけではないさ。だから、罰を与えるのだけは辞めてやる。──そのかわり、お前をこの勇者パーティーから追放させてもらう」
まるで覚えがない窃盗の罪。
それを元に、俺は勇者パーティーから追放されることとなった。
「っ!」
怒りで目の前が染まる。
ああ、やはりこういう手を取ってきたか。
自分達以外の何者かが称えられるのは、そんなにも許せないか。
そう、目の前の金色の全身鎧を見にまとった同じ勇者パーティーの貴族、アーザス・マルセーユに怒鳴りつけたい衝動に駆られる。
ここであの男を殴りつけ、こちらを見下すようなあの顔を滅茶苦茶にしてやれば、どれ程爽快か。
「……待って、下さい」
だが、実際に俺にできたのは、俯き地面を眺めた状態から、怒りを押さえ込んだ声を上げることだけだった。
この数年間、必死に戦い続けたお陰で、俺はそれなりの名誉を手にすることになった。
いくつもの二つ名を手にし、数々の魔族を倒し名をあげ、そして今は勇者パーティーの中で唯一の平民だ。
……しかし、どこまでいっても俺は平民でしか無かった。
頭を足で踏みつけられ、顔面を殴打する。
「くっ!」
僕が呻くのを無視し、さらにアーザスはまくし立てる。
「うるさいんだよ!許可なんて出してないのに、何口開いてんだよ、平民如きが!」
それは、理不尽すぎる仕打ちだった。
そのことを咎める人間なんかいない。
何故なら僕は平民だから。
それだけで、全ての暴力は正当化される。
「っ!」
しかし、そんな状況の中でも、僕は必死に堪えてきた。
どれだけ暴力を振るわれようとも。
全ては、勇者として祭り上げられたせいで、感情を失った幼馴染のとなりにいるために。
「お願い、です。どうか、追放だけは……。私は魔族に対して有効な駒です。いかように罰を与えて下さっても構いません!だから……」
頭を踏まれた屈辱的な格好のまま、俺は必死に懇願する。
自分はまだ使えると、売り込む。
「ああそう、言い忘れていたけどもうそろそろ魔族との決着着くらしいんだと」
「───っ!」
……次の瞬間、それが全て無駄であったことを俺は理解した。
戦況はもう、俺という存在を抜いても勝利が確定出来る状況まで来ていたのだ。
つまり、どれだけ俺が頼み込んでも、アーザスが決断を変えることはあり得ない。
「勇者様は流石だな。あれだけ強力な魔族を、ばったばったと殺していくのは、相当の化け物だ。──まあ、色々と身体を弄られているらしいし、確実に人間では無いだろうがな!」
こちらを煽るようにそう告げたアーザス。
彼を殴り飛ばしたい衝動に駆られながらも、俺は必死に抑え込む。
ここで、手を出してしまえば本当にどうしようもなくなる。
何とか、追放をやめさせる手が無いかと、必死に頭を働かせる。
……だが、それは全て無駄でしか無かった。
「数日中にここから去れ。じゃあな、成り上がり」
唇を噛みしめる俺に嘲笑を投げかけ、アーザスがこの場を後にする。
こうして俺は、勇者パーティーを追放されることとなった……
まるで覚えがない窃盗の罪。
それを元に、俺は勇者パーティーから追放されることとなった。
「っ!」
怒りで目の前が染まる。
ああ、やはりこういう手を取ってきたか。
自分達以外の何者かが称えられるのは、そんなにも許せないか。
そう、目の前の金色の全身鎧を見にまとった同じ勇者パーティーの貴族、アーザス・マルセーユに怒鳴りつけたい衝動に駆られる。
ここであの男を殴りつけ、こちらを見下すようなあの顔を滅茶苦茶にしてやれば、どれ程爽快か。
「……待って、下さい」
だが、実際に俺にできたのは、俯き地面を眺めた状態から、怒りを押さえ込んだ声を上げることだけだった。
この数年間、必死に戦い続けたお陰で、俺はそれなりの名誉を手にすることになった。
いくつもの二つ名を手にし、数々の魔族を倒し名をあげ、そして今は勇者パーティーの中で唯一の平民だ。
……しかし、どこまでいっても俺は平民でしか無かった。
頭を足で踏みつけられ、顔面を殴打する。
「くっ!」
僕が呻くのを無視し、さらにアーザスはまくし立てる。
「うるさいんだよ!許可なんて出してないのに、何口開いてんだよ、平民如きが!」
それは、理不尽すぎる仕打ちだった。
そのことを咎める人間なんかいない。
何故なら僕は平民だから。
それだけで、全ての暴力は正当化される。
「っ!」
しかし、そんな状況の中でも、僕は必死に堪えてきた。
どれだけ暴力を振るわれようとも。
全ては、勇者として祭り上げられたせいで、感情を失った幼馴染のとなりにいるために。
「お願い、です。どうか、追放だけは……。私は魔族に対して有効な駒です。いかように罰を与えて下さっても構いません!だから……」
頭を踏まれた屈辱的な格好のまま、俺は必死に懇願する。
自分はまだ使えると、売り込む。
「ああそう、言い忘れていたけどもうそろそろ魔族との決着着くらしいんだと」
「───っ!」
……次の瞬間、それが全て無駄であったことを俺は理解した。
戦況はもう、俺という存在を抜いても勝利が確定出来る状況まで来ていたのだ。
つまり、どれだけ俺が頼み込んでも、アーザスが決断を変えることはあり得ない。
「勇者様は流石だな。あれだけ強力な魔族を、ばったばったと殺していくのは、相当の化け物だ。──まあ、色々と身体を弄られているらしいし、確実に人間では無いだろうがな!」
こちらを煽るようにそう告げたアーザス。
彼を殴り飛ばしたい衝動に駆られながらも、俺は必死に抑え込む。
ここで、手を出してしまえば本当にどうしようもなくなる。
何とか、追放をやめさせる手が無いかと、必死に頭を働かせる。
……だが、それは全て無駄でしか無かった。
「数日中にここから去れ。じゃあな、成り上がり」
唇を噛みしめる俺に嘲笑を投げかけ、アーザスがこの場を後にする。
こうして俺は、勇者パーティーを追放されることとなった……
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