上 下
58 / 60
2.王国編

第6話 兵士達の横暴

しおりを挟む
 兵士達の姿を見た僕の頭に浮かんだのは兵士達の暴走という言葉だった。
 王国兵はかなり練度が低い。
 だからこそ、勝手に村人達を襲うような行動を取ってもおかしくない、そう判断したのだ。

 「っ!」

 そして次の瞬間、僕とエイナは激情に促されるまま、それぞれの武器を抜き身の状態で握っていた。
 今見る限り、兵士の数は30人程度とかなり少ない。
 僕とエイナであっさりと殲滅できるだろう。
 けれども、いくら兵士達が暴走していようが王国兵に手を出せば王国に睨まれる可能性がある。
 そしてそれは無名の冒険者である僕たち個人ではなく、ギルドへと向かう。
 だから迂闊な行動は取れない。
 とにかく今は、話し合いで説得だけでも……

 「おい、そこの冒険者。お前ら、王国に刃向かう気か?」

 「………え?」

 ……と、僕が判断を決めようとしたその時だった。
 兵士達の頭だと思える人間が剣をぬきはなった僕たちを嘲笑し、一枚の紙を差し出したのだ。
 それはとてつもなく高級な紙で、けれども僕はそれだけしか分からず戸惑う。

 「勅命書!?」

 「なっ!?」

 けれども、次の瞬間エイナとパラスがあげた驚愕の声に、言葉を失うことになった。
 勅命書、それは国王直々の命令を伝える紙。

 ーーー そしてその勅命書は、目の前の男達は王国の命で村人達を襲うことは王命であることを証明していた。





 ◇◆◇





 「くっ!」

 ……勅命書が本物であることを確認した僕たちは、渋々武器を納めた。
 もしかしたら、勅令書を利用しているだけで村人を襲うのは勅令では無いかもしれない。
 けれども、相手が勅命書を持っている今、僕達には何の手出しもすることは出来なかった。
 ……今の僕達の行動で、ギルドと王国の全面戦争に陥りかねないのだから。

 「待ってください!何で村人達を連れて行こうとするんですか!そこには私の親族がいます!訳だけでも……」

 「はぁ?」

 けれども黙って引き下がることだけは僕にはできなかった。
 見た限り、この中にはシュライトさんらしき人間は見当たらなかった。
 けれども兵士達に捕らえられた村人達の多くは若い女性達で、だからこそ僕は土下座をして頼み込む。

 「あがっ!?」

 「翔!?」

ーーー けれども、兵士達は僕の頭を踏みつけただけで僕の問いに答えることはなかった。

 そしてその兵士の態度に、パラスが怒りの声を上げる。
 おそらく彼のことだ。
 魔術でも行使しようとしているのだろう。

 「くそっ!」

 「おい?戦争だぞ!戦争!そこの魔法使いは考えられないのか?」

「くっ!」

 ……けれども、兵士の言葉にパラスは何もできない。

 「あはは!そうだよ!それでいいんだよ!」

 そして悔しげなパラスの様子に、兵士は大声をあげて笑う。

 「何が冒険者だ!何が王国程の力がある組織だ!お前らは所詮屑なんだよ!俺たちエリートに頭を下げてれば良いんだよ!」

 その兵士の言葉には隠しきれない優越感が浮かんでいた。

 「ここまでにしていてやるよ。雑魚ども」

 「ぐっ!」

 そして一方的に捲し立てて、満足したのか兵士達は僕の頭から足を下ろして最後に僕を蹴りあげた。

 「次は森の中を探すぞ!それでも見つからなかったら、魔獣の中にこいつらを投げ込んで、拷問でもするか!」

 それから兵士達は下劣な笑いをあげながら森の中へと消えていく。

 「翔!」

 「大丈夫か!」

 その瞬間、傷つけられた僕へとパラスとエイナが駆け寄ってくる。

 「雑魚が!」

 そしてその光景に対して、最後に兵士は隠す気の無い嘲りとともにそう吐き捨てて森の中へと去っていった……
しおりを挟む
感想 103

あなたにおすすめの小説

2回目チート人生、まじですか

ゆめ
ファンタジー
☆☆☆☆☆ ある普通の田舎に住んでいる一之瀬 蒼涼はある日異世界に勇者として召喚された!!!しかもクラスで! わっは!!!テンプレ!!!! じゃない!!!!なんで〝また!?〟 実は蒼涼は前世にも1回勇者として全く同じ世界へと召喚されていたのだ。 その時はしっかり魔王退治? しましたよ!! でもね 辛かった!!チートあったけどいろんな意味で辛かった!大変だったんだぞ!! ということで2回目のチート人生。 勇者じゃなく自由に生きます?

スライムと異世界冒険〜追い出されたが実は強かった

Miiya
ファンタジー
学校に一人で残ってた時、突然光りだし、目を開けたら、王宮にいた。どうやら異世界召喚されたらしい。けど鑑定結果で俺は『成長』 『テイム』しかなく、弱いと追い出されたが、実はこれが神クラスだった。そんな彼、多田真司が森で出会ったスライムと旅するお話。 *ちょっとネタばれ 水が大好きなスライム、シンジの世話好きなスライム、建築もしてしまうスライム、小さいけど鉱石仕分けたり探索もするスライム、寝るのが大好きな白いスライム等多種多様で個性的なスライム達も登場!! *11月にHOTランキング一位獲得しました。 *なるべく毎日投稿ですが日によって変わってきますのでご了承ください。一話2000~2500で投稿しています。 *パソコンからの投稿をメインに切り替えました。ですので字体が違ったり点が変わったりしてますがご了承ください。

俺の召喚獣だけレベルアップする

摂政
ファンタジー
【第10章、始動!!】ダンジョンが現れた、現代社会のお話 主人公の冴島渉は、友人の誘いに乗って、冒険者登録を行った しかし、彼が神から与えられたのは、一生レベルアップしない召喚獣を用いて戦う【召喚士】という力だった それでも、渉は召喚獣を使って、見事、ダンジョンのボスを撃破する そして、彼が得たのは----召喚獣をレベルアップさせる能力だった この世界で唯一、召喚獣をレベルアップさせられる渉 神から与えられた制約で、人間とパーティーを組めない彼は、誰にも知られることがないまま、どんどん強くなっていく…… ※召喚獣や魔物などについて、『おーぷん2ちゃんねる:にゅー速VIP』にて『おーぷん民でまじめにファンタジー世界を作ろう』で作られた世界観……というか、モンスターを一部使用して書きました!! 内容を纏めたwikiもありますので、お暇な時に一読していただければ更に楽しめるかもしれません? https://www65.atwiki.jp/opfan/pages/1.html

パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。

荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品 あらすじ  勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。  しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。  道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。  そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。  追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。  成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。  ヒロインは6話から登場します。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

スキルを極めろ!

アルテミス
ファンタジー
第12回ファンタジー大賞 奨励賞受賞作 何処にでもいる大学生が異世界に召喚されて、スキルを極める! 神様からはスキルレベルの限界を調査して欲しいと言われ、思わず乗ってしまった。 不老で時間制限のないlv上げ。果たしてどこまでやれるのか。 異世界でジンとして生きていく。

異世界を【創造】【召喚】【付与】で無双します。

FREE
ファンタジー
ブラック企業へ就職して5年…今日も疲れ果て眠りにつく。 目が醒めるとそこは見慣れた部屋ではなかった。 ふと頭に直接聞こえる声。それに俺は火事で死んだことを伝えられ、異世界に転生できると言われる。 異世界、それは剣と魔法が存在するファンタジーな世界。 これは主人公、タイムが神様から選んだスキルで異世界を自由に生きる物語。 *リメイク作品です。

処理中です...