54 / 60
2.王国編
第2話 解決方法
しおりを挟む
「はぁ、はぁ、」
ボロボロになって、隣で死にそうな声を出すパラス。
……そしてそのパラスからの視線に何も言えずに俯きながら、僕はギルドへと帰っていた。
その理由は簡単、あれだけ酷い目にあって何度もパラスは死にかけたの関わらず、かけらも魔力操作を彼が身につけられることはなかったのだ。
……僕は湿地に入った1日で身につけたから行けると、そうパラスに保証して地獄に落としたのにもかかわらず。
「……なぁ、死にかければなんとかなるじゃなかったのか?」
「あ、あはは……」
そして僕へとそう声をかけるパラスは明らかに激怒していた。
……当たり前だろう。何せあの地獄は最悪だ。
何せ最初シュライトさんにあの地獄に落とされた僕は、その後二、三日ただのナメクジやミミズにも悲鳴をあげていたほどなのだから。
……それでもシュライトさんに僕はあの地獄に落とされ続けたが。
しかし、そんな目にあってもきちんと魔力操作を確実に身につけていったならともかく、パラスの場合彼はただ死にかけただけなのだ。
彼の反応は決して不当なものではない。
……けれども、決して僕はパラスを虐めようとして湿地に行った訳ではなかった。
何せパラスは仮にも僕の仲間になるのだ。
力はあればある方がいいに決まっている。
だからこそ、自分から新たに自分が得た能力を使いこなしたいという彼を邪魔するようなことをするわけがない。
例えば、湿地に行くに関しては彼が魔法職、それも上級魔法以外が使えない状態であるのを考慮して、前日湿地の魔獣達は間引いておいり。
敢えて憎まれ役を演じたのだって、パラスが僕を見下したい、と考えていた方が精神的なものが大きく関係する魔力操作を習得しやすいだろうという考えからなのだ。
……そして、僕の思い通りに行けばもうパラスは魔力操作を習得しているはずだった。
何せ彼は僕と違って魔力の扱い方というものを知っている。
それに対して僕は全く何も知らない状態からのスタートで、それでも1日で魔力操作の初歩を覚えたのだ。
……代わりに三途の川の中流くらいまで渡り掛けた気がするが。
「そもそも死にかけなくちゃ覚えられない、ておかしすぎるだろうが!」
けれども、今僕に向かって怒鳴るパラスは一切魔力操作を覚えていなかった。
苛立ちを隠しきれず僕へと怒鳴るパラス。
その心の奥には、湿地で死にかけたことよりも、魔力操作を覚えられなかったことに対する失望が見えて、だからこそ僕は何も言えなくなる。
「……すまん。言い過ぎた」
……そしてその僕の態度にまたパラスも自己嫌悪に陥りながら俯く。
「いや、気にしていない」
その僕の返答を最後に、僕とパラスの間での言葉のやり取りは無くなった。
パラスがここまで焦っているわけ、それを僕は分かっていた。
新しい能力を身につけたパラス。
けれどもその代わり彼は従来の魔術を扱うことができなくなっていた。
そう、魔法陣が彼の魔力にもたなくなっているのだ。
つまり、今の彼は上級魔法しか打てないということで……
……それは冒険者の魔術師としてあまりにも致命的な欠陥だった。
決してその能力は弱くはない、いや、それどころかかつてないほど強力だろう。
何せ時間さえ稼げれば、地形をかける魔法が放てる。
しかもそれは戦時に使われる最大の魔術さえ凌駕する威力なのだ。
それはギルド職員であれば十分有用な力で……
……けれども、突発的な魔術が求められる冒険者にはあまりにも無用な力だった。
しかし、そのことをわかりながらもパラスは僕のためにその力を使いこなそうとしていた。
そう、冒険者として通用できるものにするため。
けれども今はその僕に迷惑をかけている状態で、だからこそ彼は焦っているのだ。
「……なぁ、今回もやるか」
「ああ。やるか」
どれだけ疲れていようといつものように、僕との木剣での訓練に誘ってくるパラスに、彼の焦燥が浮かんできて……
……そして僕の胸に罪悪感が走った。
確かに今の僕の知識ではパラスに魔力操作を教えられないだろう。
ーーー けれども、決して僕は魔力操作を彼に教えられるかもしれない方法を全く知らないわけではなかった。
「はぁぁぁぁ!」
……しかし今の僕はそのことをパラスに教える気にはなれなくて。
「……すまない」
僕は小さくそう言葉を漏らすことしかできなかった……
ボロボロになって、隣で死にそうな声を出すパラス。
……そしてそのパラスからの視線に何も言えずに俯きながら、僕はギルドへと帰っていた。
その理由は簡単、あれだけ酷い目にあって何度もパラスは死にかけたの関わらず、かけらも魔力操作を彼が身につけられることはなかったのだ。
……僕は湿地に入った1日で身につけたから行けると、そうパラスに保証して地獄に落としたのにもかかわらず。
「……なぁ、死にかければなんとかなるじゃなかったのか?」
「あ、あはは……」
そして僕へとそう声をかけるパラスは明らかに激怒していた。
……当たり前だろう。何せあの地獄は最悪だ。
何せ最初シュライトさんにあの地獄に落とされた僕は、その後二、三日ただのナメクジやミミズにも悲鳴をあげていたほどなのだから。
……それでもシュライトさんに僕はあの地獄に落とされ続けたが。
しかし、そんな目にあってもきちんと魔力操作を確実に身につけていったならともかく、パラスの場合彼はただ死にかけただけなのだ。
彼の反応は決して不当なものではない。
……けれども、決して僕はパラスを虐めようとして湿地に行った訳ではなかった。
何せパラスは仮にも僕の仲間になるのだ。
力はあればある方がいいに決まっている。
だからこそ、自分から新たに自分が得た能力を使いこなしたいという彼を邪魔するようなことをするわけがない。
例えば、湿地に行くに関しては彼が魔法職、それも上級魔法以外が使えない状態であるのを考慮して、前日湿地の魔獣達は間引いておいり。
敢えて憎まれ役を演じたのだって、パラスが僕を見下したい、と考えていた方が精神的なものが大きく関係する魔力操作を習得しやすいだろうという考えからなのだ。
……そして、僕の思い通りに行けばもうパラスは魔力操作を習得しているはずだった。
何せ彼は僕と違って魔力の扱い方というものを知っている。
それに対して僕は全く何も知らない状態からのスタートで、それでも1日で魔力操作の初歩を覚えたのだ。
……代わりに三途の川の中流くらいまで渡り掛けた気がするが。
「そもそも死にかけなくちゃ覚えられない、ておかしすぎるだろうが!」
けれども、今僕に向かって怒鳴るパラスは一切魔力操作を覚えていなかった。
苛立ちを隠しきれず僕へと怒鳴るパラス。
その心の奥には、湿地で死にかけたことよりも、魔力操作を覚えられなかったことに対する失望が見えて、だからこそ僕は何も言えなくなる。
「……すまん。言い過ぎた」
……そしてその僕の態度にまたパラスも自己嫌悪に陥りながら俯く。
「いや、気にしていない」
その僕の返答を最後に、僕とパラスの間での言葉のやり取りは無くなった。
パラスがここまで焦っているわけ、それを僕は分かっていた。
新しい能力を身につけたパラス。
けれどもその代わり彼は従来の魔術を扱うことができなくなっていた。
そう、魔法陣が彼の魔力にもたなくなっているのだ。
つまり、今の彼は上級魔法しか打てないということで……
……それは冒険者の魔術師としてあまりにも致命的な欠陥だった。
決してその能力は弱くはない、いや、それどころかかつてないほど強力だろう。
何せ時間さえ稼げれば、地形をかける魔法が放てる。
しかもそれは戦時に使われる最大の魔術さえ凌駕する威力なのだ。
それはギルド職員であれば十分有用な力で……
……けれども、突発的な魔術が求められる冒険者にはあまりにも無用な力だった。
しかし、そのことをわかりながらもパラスは僕のためにその力を使いこなそうとしていた。
そう、冒険者として通用できるものにするため。
けれども今はその僕に迷惑をかけている状態で、だからこそ彼は焦っているのだ。
「……なぁ、今回もやるか」
「ああ。やるか」
どれだけ疲れていようといつものように、僕との木剣での訓練に誘ってくるパラスに、彼の焦燥が浮かんできて……
……そして僕の胸に罪悪感が走った。
確かに今の僕の知識ではパラスに魔力操作を教えられないだろう。
ーーー けれども、決して僕は魔力操作を彼に教えられるかもしれない方法を全く知らないわけではなかった。
「はぁぁぁぁ!」
……しかし今の僕はそのことをパラスに教える気にはなれなくて。
「……すまない」
僕は小さくそう言葉を漏らすことしかできなかった……
2
お気に入りに追加
3,239
あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

2回目チート人生、まじですか
ゆめ
ファンタジー
☆☆☆☆☆
ある普通の田舎に住んでいる一之瀬 蒼涼はある日異世界に勇者として召喚された!!!しかもクラスで!
わっは!!!テンプレ!!!!
じゃない!!!!なんで〝また!?〟
実は蒼涼は前世にも1回勇者として全く同じ世界へと召喚されていたのだ。
その時はしっかり魔王退治?
しましたよ!!
でもね
辛かった!!チートあったけどいろんな意味で辛かった!大変だったんだぞ!!
ということで2回目のチート人生。
勇者じゃなく自由に生きます?

スライムと異世界冒険〜追い出されたが実は強かった
Miiya
ファンタジー
学校に一人で残ってた時、突然光りだし、目を開けたら、王宮にいた。どうやら異世界召喚されたらしい。けど鑑定結果で俺は『成長』 『テイム』しかなく、弱いと追い出されたが、実はこれが神クラスだった。そんな彼、多田真司が森で出会ったスライムと旅するお話。
*ちょっとネタばれ
水が大好きなスライム、シンジの世話好きなスライム、建築もしてしまうスライム、小さいけど鉱石仕分けたり探索もするスライム、寝るのが大好きな白いスライム等多種多様で個性的なスライム達も登場!!
*11月にHOTランキング一位獲得しました。
*なるべく毎日投稿ですが日によって変わってきますのでご了承ください。一話2000~2500で投稿しています。
*パソコンからの投稿をメインに切り替えました。ですので字体が違ったり点が変わったりしてますがご了承ください。

俺のスキルが無だった件
しょうわな人
ファンタジー
会社から帰宅中に若者に親父狩りされていた俺、神城闘史(かみしろとうじ)。
攻撃してきたのを捌いて、逃れようとしていた時に眩しい光に包まれた。
気がつけば、見知らぬ部屋にいた俺と俺を狩ろうとしていた若者五人。
偉そうな爺さんにステータスオープンと言えと言われて素直に従った。
若者五人はどうやら爺さんを満足させたらしい。が、俺のステータスは爺さんからすればゴミカスと同じだったようだ。
いきなり金貨二枚を持たされて放り出された俺。しかし、スキルの真価を知り人助け(何でも屋)をしながら異世界で生活する事になった。
【お知らせ】
カクヨムで掲載、完結済の当作品を、微修正してこちらで再掲載させて貰います。よろしくお願いします。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】
一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。
追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。
無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。
そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード!
異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。
【諸注意】
以前投稿した同名の短編の連載版になります。
連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。
なんでも大丈夫な方向けです。
小説の形をしていないので、読む人を選びます。
以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。
disりに見えてしまう表現があります。
以上の点から気分を害されても責任は負えません。
閲覧は自己責任でお願いします。
小説家になろう、pixivでも投稿しています。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています
祖母の家の倉庫が異世界に通じているので異世界間貿易を行うことにしました。
rijisei
ファンタジー
偶然祖母の倉庫の奥に異世界へと通じるドアを見つけてしまった、祖母は他界しており、詳しい事情を教えてくれる人は居ない、自分の目と足で調べていくしかない、中々信じられない機会を無駄にしない為に異世界と現代を行き来奔走しながら、お互いの世界で必要なものを融通し合い、貿易生活をしていく、ご都合主義は当たり前、後付け設定も当たり前、よくある設定ではありますが、軽いです、更新はなるべく頑張ります。1話短めです、2000文字程度にしております、誤字は多めで初投稿で読みにくい部分も多々あるかと思いますがご容赦ください、更新は1日1話はします、多ければ5話ぐらいさくさくとしていきます、そんな興味をそそるようなタイトルを付けてはいないので期待せずに読んでいただけたらと思います、暗い話はないです、時間の無駄になってしまったらご勘弁を

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅
聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる