39 / 60
1.ギルド編
第38話 緊張感
しおりを挟む
「っ!」
魔力強化を解いた僕が、ポイズンウルフに敵うわけがなく僕はごろごろと辺りを転がりながら必死に逃げていた。
僕は幾ら短期間に強くなったとはいえ、素の能力では恐らく魔術師らしきギルド職員に勝てるか程度だ。
贔屓目に見ても確実にCランクには及ばないだろう。
そしてそれに対して相手はCランクでも手こずるダイウルフ達のリーダーだ。
実力的にはこうやって必死に逃げに徹してようやく勝負になる程度。
「はぁ、はぁ、」
さらにどうやら魔力強化には精神的に強くする効果があったのか、それとも毒の効果か、僕は緊張感と死への恐怖ででいつもよりも激しく疲労していた。
死にかける思いなら、湿地で何度もしてきたのにも関わらずだ。
「やっと、分かったぞ……」
けれども、そんな状態でも第六感は今まで以上に働いていた。
ポイズンウルフの魔石の位置は背骨の中心。
その場所はダイウルフの魔石がある場所とは大幅に違う上に、通常よりも丈夫な背骨で魔石は守られている。
「それは普通分からないな……」
そしてそのあり得ないほどの場所に隠された魔石に僕は思わずそう漏らす。
けれども、分かった今決してポイズンウルフは敵では無いはずだった。
何せ僕の神経強化は達人さえも超える技を放つことができる技術だ。
決して楽な技ではないが、使えればとても強力なものとなる。
「あと、数秒使える程度か……」
……だが、僕の身体は毒に蝕まれて限界を迎えていた。
ポイズンウルフの爪や牙から出される毒、それはポイズンウルフが中に溜め込んでいる毒と比べればまさに雲泥の差としか言いようのない効果しかない。
けれども毒を受けながらまるで何の対応もせず動き回り、その上何度か爪や牙がかすり僕の身体には新たな毒が回っていた。
そしてその毒によって蝕まれていく身体の悲鳴に、魔力強化と神経系の強化を使えるのはあと数秒持ったらいい所であるということを僕は悟った。
魔力強化や、神経系の強化、それは決して簡単な技術ではない。
というのも、一歩間違えれば自身の身体を傷つけかねないものなのだから。
魔力強化のコンセプト、それは魔術の具現化だ。
いや、正しくいえば魔術こそが魔力強化の劣化版というべきか。
というのも、魔術とは魔力という力の循環で頂上の現象を起こす技術で、魔術の際空中に描かれる魔法陣こそがその魔術を通すための回路となる。
そしてその魔法陣を作るための詠唱と魔力の込め方でその魔法陣という回路を作る。
ーーー それに対して、魔力操作とは回路など関係なく身体に魔術を循環させ、自身の望む事象を起こす技術だ。
魔術を使うときに現れる魔法陣、それは使える魔術を固定し、それを回路として公式化することによって威力は下がるものの、安全に魔力を事象化できる。
だが、魔力操作は殆ど事象の具現化を操れない。
できることとすれば、魔力を身体の特定部分に回すことにより活性化させ、強化することだけだ。
よって魔力操作は魔術とは比にならない威力を持つが……
だが、少しでもミスをすれば身体を大きく傷つける。
魔力が暴走して傷つくことも、また、一部だけ活性化し過ぎて傷つくなど魔力操作の難易度は魔術の比にならない。
僕もシュライトに概念だけ教えられて、湿地という最悪の環境で何度も死にかけて……という地獄のようなメニューでやっと覚えたのだから。
……そしてそんな難易度を誇る魔力操作の中でも神経系の強化はその中でも超難易度を誇る。
まずそもそも僕以外概念が理解できいないので使えず、僕だって細い神経に魔力を通すのには繊細な魔力調整が必要となる。
何せ少しでも間違えるわけにはいかないのだ。
神経は肉体など比にならない脆さなのだから当然だ。
そしてその神経系の強化と肉体強化の両方の発動はもちろんのことながら、さらなる難易度を誇っており、今の僕の身体では少しでも発動できれば良い程度の状況だった。
つまり、現状は最悪だった。
「ガルッ!」
逃げ回る僕に対して、焦れたのか確実に息の根を止めようと構えるポイズンウルフ。
その姿には隙はない。
そしてそんな相手に対して僕は僅かな時間しか魔力強化を使えない。
さらに狙わなければならないのは硬い骨に隠された魔石だ。
普通に考えれば状況は最悪以外の何者でもない。
「こいよ」
ーーー けれども、何故かそのことがわかった瞬間僕の心から不安が消えた。
先程まで僕の心を支配していた緊張感、それは先程まで僕の手を震わしていたはずなのに、何故か最も緊張しているはずの今、僕の心は酷く落ち着いていた。
「ガルルッ!」
そしてその僕の様子、それを虚勢だと判断したのか、今まで動かなかったポイズンウルフが僕へと飛びかかってくる。
「うぉぉぉおおお!」
その瞬間、僕もポイズンウルフに応えるように魔力強化を行って飛び出していた。
それはまさに一歩までも間違えれば死に直結する、そんな場面。
そしてそのことを知る僕の心臓はばくばくと音を立てて鳴っていた。
けれど何故か僕の心はひどく冷静で。
……そして、そのちぐはぐさに何故か懐かしさを感じながら僕は剣を強く握りしめた。
魔力強化を解いた僕が、ポイズンウルフに敵うわけがなく僕はごろごろと辺りを転がりながら必死に逃げていた。
僕は幾ら短期間に強くなったとはいえ、素の能力では恐らく魔術師らしきギルド職員に勝てるか程度だ。
贔屓目に見ても確実にCランクには及ばないだろう。
そしてそれに対して相手はCランクでも手こずるダイウルフ達のリーダーだ。
実力的にはこうやって必死に逃げに徹してようやく勝負になる程度。
「はぁ、はぁ、」
さらにどうやら魔力強化には精神的に強くする効果があったのか、それとも毒の効果か、僕は緊張感と死への恐怖ででいつもよりも激しく疲労していた。
死にかける思いなら、湿地で何度もしてきたのにも関わらずだ。
「やっと、分かったぞ……」
けれども、そんな状態でも第六感は今まで以上に働いていた。
ポイズンウルフの魔石の位置は背骨の中心。
その場所はダイウルフの魔石がある場所とは大幅に違う上に、通常よりも丈夫な背骨で魔石は守られている。
「それは普通分からないな……」
そしてそのあり得ないほどの場所に隠された魔石に僕は思わずそう漏らす。
けれども、分かった今決してポイズンウルフは敵では無いはずだった。
何せ僕の神経強化は達人さえも超える技を放つことができる技術だ。
決して楽な技ではないが、使えればとても強力なものとなる。
「あと、数秒使える程度か……」
……だが、僕の身体は毒に蝕まれて限界を迎えていた。
ポイズンウルフの爪や牙から出される毒、それはポイズンウルフが中に溜め込んでいる毒と比べればまさに雲泥の差としか言いようのない効果しかない。
けれども毒を受けながらまるで何の対応もせず動き回り、その上何度か爪や牙がかすり僕の身体には新たな毒が回っていた。
そしてその毒によって蝕まれていく身体の悲鳴に、魔力強化と神経系の強化を使えるのはあと数秒持ったらいい所であるということを僕は悟った。
魔力強化や、神経系の強化、それは決して簡単な技術ではない。
というのも、一歩間違えれば自身の身体を傷つけかねないものなのだから。
魔力強化のコンセプト、それは魔術の具現化だ。
いや、正しくいえば魔術こそが魔力強化の劣化版というべきか。
というのも、魔術とは魔力という力の循環で頂上の現象を起こす技術で、魔術の際空中に描かれる魔法陣こそがその魔術を通すための回路となる。
そしてその魔法陣を作るための詠唱と魔力の込め方でその魔法陣という回路を作る。
ーーー それに対して、魔力操作とは回路など関係なく身体に魔術を循環させ、自身の望む事象を起こす技術だ。
魔術を使うときに現れる魔法陣、それは使える魔術を固定し、それを回路として公式化することによって威力は下がるものの、安全に魔力を事象化できる。
だが、魔力操作は殆ど事象の具現化を操れない。
できることとすれば、魔力を身体の特定部分に回すことにより活性化させ、強化することだけだ。
よって魔力操作は魔術とは比にならない威力を持つが……
だが、少しでもミスをすれば身体を大きく傷つける。
魔力が暴走して傷つくことも、また、一部だけ活性化し過ぎて傷つくなど魔力操作の難易度は魔術の比にならない。
僕もシュライトに概念だけ教えられて、湿地という最悪の環境で何度も死にかけて……という地獄のようなメニューでやっと覚えたのだから。
……そしてそんな難易度を誇る魔力操作の中でも神経系の強化はその中でも超難易度を誇る。
まずそもそも僕以外概念が理解できいないので使えず、僕だって細い神経に魔力を通すのには繊細な魔力調整が必要となる。
何せ少しでも間違えるわけにはいかないのだ。
神経は肉体など比にならない脆さなのだから当然だ。
そしてその神経系の強化と肉体強化の両方の発動はもちろんのことながら、さらなる難易度を誇っており、今の僕の身体では少しでも発動できれば良い程度の状況だった。
つまり、現状は最悪だった。
「ガルッ!」
逃げ回る僕に対して、焦れたのか確実に息の根を止めようと構えるポイズンウルフ。
その姿には隙はない。
そしてそんな相手に対して僕は僅かな時間しか魔力強化を使えない。
さらに狙わなければならないのは硬い骨に隠された魔石だ。
普通に考えれば状況は最悪以外の何者でもない。
「こいよ」
ーーー けれども、何故かそのことがわかった瞬間僕の心から不安が消えた。
先程まで僕の心を支配していた緊張感、それは先程まで僕の手を震わしていたはずなのに、何故か最も緊張しているはずの今、僕の心は酷く落ち着いていた。
「ガルルッ!」
そしてその僕の様子、それを虚勢だと判断したのか、今まで動かなかったポイズンウルフが僕へと飛びかかってくる。
「うぉぉぉおおお!」
その瞬間、僕もポイズンウルフに応えるように魔力強化を行って飛び出していた。
それはまさに一歩までも間違えれば死に直結する、そんな場面。
そしてそのことを知る僕の心臓はばくばくと音を立てて鳴っていた。
けれど何故か僕の心はひどく冷静で。
……そして、そのちぐはぐさに何故か懐かしさを感じながら僕は剣を強く握りしめた。
2
お気に入りに追加
3,239
あなたにおすすめの小説

2回目チート人生、まじですか
ゆめ
ファンタジー
☆☆☆☆☆
ある普通の田舎に住んでいる一之瀬 蒼涼はある日異世界に勇者として召喚された!!!しかもクラスで!
わっは!!!テンプレ!!!!
じゃない!!!!なんで〝また!?〟
実は蒼涼は前世にも1回勇者として全く同じ世界へと召喚されていたのだ。
その時はしっかり魔王退治?
しましたよ!!
でもね
辛かった!!チートあったけどいろんな意味で辛かった!大変だったんだぞ!!
ということで2回目のチート人生。
勇者じゃなく自由に生きます?

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

スライムと異世界冒険〜追い出されたが実は強かった
Miiya
ファンタジー
学校に一人で残ってた時、突然光りだし、目を開けたら、王宮にいた。どうやら異世界召喚されたらしい。けど鑑定結果で俺は『成長』 『テイム』しかなく、弱いと追い出されたが、実はこれが神クラスだった。そんな彼、多田真司が森で出会ったスライムと旅するお話。
*ちょっとネタばれ
水が大好きなスライム、シンジの世話好きなスライム、建築もしてしまうスライム、小さいけど鉱石仕分けたり探索もするスライム、寝るのが大好きな白いスライム等多種多様で個性的なスライム達も登場!!
*11月にHOTランキング一位獲得しました。
*なるべく毎日投稿ですが日によって変わってきますのでご了承ください。一話2000~2500で投稿しています。
*パソコンからの投稿をメインに切り替えました。ですので字体が違ったり点が変わったりしてますがご了承ください。

俺のスキルが無だった件
しょうわな人
ファンタジー
会社から帰宅中に若者に親父狩りされていた俺、神城闘史(かみしろとうじ)。
攻撃してきたのを捌いて、逃れようとしていた時に眩しい光に包まれた。
気がつけば、見知らぬ部屋にいた俺と俺を狩ろうとしていた若者五人。
偉そうな爺さんにステータスオープンと言えと言われて素直に従った。
若者五人はどうやら爺さんを満足させたらしい。が、俺のステータスは爺さんからすればゴミカスと同じだったようだ。
いきなり金貨二枚を持たされて放り出された俺。しかし、スキルの真価を知り人助け(何でも屋)をしながら異世界で生活する事になった。
【お知らせ】
カクヨムで掲載、完結済の当作品を、微修正してこちらで再掲載させて貰います。よろしくお願いします。

ダンジョンで同棲生活始めました ひと回り年下の彼女と優雅に大豪邸でイチャイチャしてたら、勇者だの魔王だのと五月蝿い奴らが邪魔するんです
もぐすけ
ファンタジー
勇者に嵌められ、社会的に抹殺されてしまった元大魔法使いのライルは、普通には暮らしていけなくなり、ダンジョンのセーフティゾーンでホームレス生活を続けていた。
ある日、冒険者に襲われた少女ルシアがセーフティゾーンに逃げ込んできた。ライルは少女に頼まれ、冒険者を撃退したのだが、少女もダンジョン外で貧困生活を送っていたため、そのままセーフティゾーンで暮らすと言い出した。
ライルとルシアの奇妙な共同生活が始まった。
祖母の家の倉庫が異世界に通じているので異世界間貿易を行うことにしました。
rijisei
ファンタジー
偶然祖母の倉庫の奥に異世界へと通じるドアを見つけてしまった、祖母は他界しており、詳しい事情を教えてくれる人は居ない、自分の目と足で調べていくしかない、中々信じられない機会を無駄にしない為に異世界と現代を行き来奔走しながら、お互いの世界で必要なものを融通し合い、貿易生活をしていく、ご都合主義は当たり前、後付け設定も当たり前、よくある設定ではありますが、軽いです、更新はなるべく頑張ります。1話短めです、2000文字程度にしております、誤字は多めで初投稿で読みにくい部分も多々あるかと思いますがご容赦ください、更新は1日1話はします、多ければ5話ぐらいさくさくとしていきます、そんな興味をそそるようなタイトルを付けてはいないので期待せずに読んでいただけたらと思います、暗い話はないです、時間の無駄になってしまったらご勘弁を
努力しても平均的だった俺が異世界召喚された結果
ひむよ
ファンタジー
全てが平均的な少年、山田 涼太。
その少年は努力してもしなくても、何をしても平均的だった。そして少年は中学2年生の時に努力することをやめた。
そのまま成長していき、高校2年生になったとき、あることが起こり少年は全てが異常へと変わった。
それは───異世界召喚だ。
異世界に召喚されたことによって少年は、自分のステータスを確認できるようになった。すぐに確認してみるとその他の欄に平均的1と平均的2というものがあり、それは0歳の時に入手していた!
少年は名前からして自分が平均的なのはこれのせいだと確信した。
だが全てが平均的と言うのは、異世界ではチートだったのだ。
これは平均的で異常な少年が自由に異世界を楽しみ、無双する話である。
hotランキング1位にのりました!
ファンタジーランキングの24hポイントで1位にのりました!
人気ランキングの24hポイントで 3位にのりました!

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる