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1.ギルド編

第37話 賭け

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 ポイズンウルフの爪が僕を切り裂こうと振り下ろされ、僕はその爪をギリギリで躱す。
 普段ならともかく、今の興奮した状態のポイズンウルフの爪には剣さえも溶かす毒が込められているかもしれず、出来る限り避けなければならない。
 そしてそんな毒ならば、身体に当たるとどんな効果があるかなど火を見るより明らかだ。
 だから本来ならば多少大げさな動きになっても回避を優先すべきなのだが、今の僕にそんな余裕はなかった。

 「くそ!」

 魔力を感知する第六感、それは酷くあやふやなものだ。
 何故わかるようになったのか、そしてどうすれば発動するのかというそんなことさえ僕は正確には分かっていない。
 ただ、ある程度意図的に発動できる、というその程度だ。
 そしてそんな程度の能力で、ポイズンウルフの攻撃を避けながら、魔石を探すのは酷い困難だった。

 「ガルルッ!」

 「っ!」

 ポイズンウルフの異常な速さの爪を、ぎりぎりで躱すことで何とか魔石を見つけるための余裕を持とうと僕は必死に動く。
 けれどもその動きは逆に僕を窮地に追い込んで行くことになる。

 爪と牙、その二つの武器を使い果敢に僕を攻めてきていたポイズンウルフ。
 けれどもその動きが突然変わった。

 「なっ!」

 突然、ポイズンウルフの尻尾がまるで鞭のように僕へと襲いかかったのだ。
 それは決して爪や牙と比べると、脅威など感じないほどの武器だったが……

 だがぎりぎりの攻防を続けていた僕はその新たに付け加えられた鞭にあっさりとバランスを崩す。
 その時僕の頭に大音量の警音が響き、僕は反射的にバランスを立て直すことを諦め、地面へと倒れこんだ。
 次の瞬間、僕の頭すれすれをポイズンウルフの牙が通り過ぎる。
 一瞬でも遅れていたら危なかったという事実に対して危機感を覚え、冷や汗を流しながら僕は転がりその場を離脱しようとする。

 「ガルッ!」

 「なっ!」

 だが、その僕の行動を先読みしていたかのようにポイズンウルフは僕へと爪を振り下ろしてきた。
 何とか僕は跳ね上がり、その爪の直撃を避ける。
 けれども、その爪がかすり小さな切り傷が僕に刻まれた。
 それは本来対して気にすることのない傷のはずだった。
 確かに放置していたら菌が入り大ごとになるかもしれない。
 けれどもこんな非常時には気を止めることのない傷のはずで、だから僕は戦闘を継続しようとする。

 「あがっ!」

 ……だが、その僕の考えは突然身体に走った激痛に否定された。
 まるで自分という存在自体を消し去ろうとするかのような異様な激痛。
 それに僕は今更になって悟る。
 どれほどポイズンウルフが危険かを。

 「……なんだよ、こいつ僕よりいい能力持ってるじゃないか」

 そう僕は茶化してみせるが、内心は全く余裕がなかった。
 恐らくこの毒は早く治療しなくてはならないだろう。
 どうやら、魔力の操作によって少し毒の周りを抑えることが出来るみたいだが、それは気休め程度にしかならない。
 つまりこの毒を受けた時点で僕にはもう短期決戦しか残されていないのだ。
 そしてすぐに治療を受けないと僕は死ぬ。
 まぁ、治療が受けられるかどうかさえもわからないのだが、どちらにしても動ける状態でいるうちに勝負を決めなければならないだろう。

 「わ、我は……」

 時間稼ぎをしてくれているギルド職員の限界も感じ取って僕はそう考える。

 「さぁ、最終ラウンドだ」

 だから僕は賭けに出ることにした。
 今まで身体に賭けていた魔力強化、そして神経系の強化を解く。
 その瞬間、急激に身体への毒の周りが早くなり、僕の身体能力は通常の冒険者以下程度に収まる。
 恐らく今の状態の僕はではポイズンウルフどころか、ダイウルフさえ勝てないだろう。

 「つまり、時間との勝負か」

 ーーー だが、身体に回す魔力を解いたことにより、より鋭敏に魔力が感じられるようになったことを確かめ、僕は笑った。

 「ガルルルッ!」

 ポイズンウルフが僕を切り裂くのが先か、それとも僕がポイズンウルフの魔石を見つけるのが先か。
 その場の空気が限界まで緊迫し、そして僕の最後の賭けが始まった。
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