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1.ギルド編

第34話 捨て身

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 「っ、うわぁぁぁぁぁ!」

 一瞬、ギルド職員達に走った緊張。
 そして次の瞬間、一人がギルド職員が逃げ出した。
 それは特に僕へと敵意を向けていた、戦士と思わしき屈強な男で僕は思わずふざけるな、と叫びそうになる。

 「な、何で!何でだよ!」

 けれども、もう一人のギルド職員は逆に前へと突っ込んで来た。
 そのギルド職員は決して近接戦闘に優れているようには思えなかった。
 何せ彼はローブを身に纏った魔術師なのだから。
 けれども彼は決して下がろうとせず、僕の周りを囲んでいるダイウルフ達に飛びかかった。

 「畜生!何でこんなことに!」

 「キャン!」

 突然の乱入者、それは僕を囲んでいたダイウルフ達の度肝を抜いた。
 けれどもそれだけだった。
 何せ幾ら突然の攻撃であれ、相手は魔術師だ。
 目の前のダイウルフ達に攻撃が通用するわけがない。

 「隙だらけだ」

 けれども、そのギルド職員の介入はダイウルフ達に致命的な隙を作った。
 ポイズンウルフがそのことに気づき、動き始める。
 けれども彼もまた、ギルド職員の乱入に気を取られていて行動が少し遅れる。

 そして僕はポイズンウルフが駆けつけるその前に二体のダイウルフを切り裂いていた。

 「ガァァァァア!」

 ポイズンウルフが苛立たしげに唸り声を上げる。

 その目にはまるでポイズンウルフがダイウルフの死に怒りを感じるかのように苛烈な光を宿していた。
 まぁ、決して本当にそんなことに魔獣が怒りを覚えることはないのだが。
 実際、ポイズンウルフはまるで躊躇することなく自身の仲間の死体を踏んでいる。
 つまり、どちらかと言えば仲間の死に自分達が不利になったことに気づいて警戒し始めたということか。

 「ふぅ……」

 そしてその一方で僕は思わぬ幸運にため息を漏らしていた。
 先程のギルド職員達、彼らに僕が加勢を頼まなかった理由は簡単だ。
 声をかける余裕が無かったのと、そして殆ど役に立たないからだ。
 ここにいるダイウルフ達は正直別格だ。
 彼らが加勢してくれた所で、ダイウルフ達四体に囲まれ瞬殺だろう。
 そしてそんな僅かな間では僕でもポイズンウルフに対処はできない。
 そうなれば加勢なんて求める意味はない。
 それならばギルドに報告してくれた方がまだ役に立つ。
 だから僕は隙を見て、ギルドに戻ることを頼もうとは思っていたものの、決して彼らに加勢を頼むつもりはなかった。
 
 そしてその僕の狙いを悟り、ダイウルフ達が僕だけに集中した、その時に魔術師が加勢してくれたからこそ、僕がダイウルフ達を一気に殲滅することができたのだ。

 それはただの偶然にしか過ぎず、けれども僕にとってようやく見えた勝機だった。

 「少し、頼みたいことがある」

 「えっ?」

 そしてそのことを悟って、僕は魔術師に声をかけた……






 ◇◆◇







 苛烈な光を宿すポイズンウルフ。
 その身体からは隠しきれない毒気が立ち昇っていた。
 それはこのポイズンウルフが興奮している証。

 ーーー そして、これ以上ポイズンウルフを刺激すれば毒を撒き散らしかねない危険があった。

 つまりここまでくればもうあとは一撃に賭けるしかない。
 けれども僕はこのポイズンウルフには僕の最大威力の技が通用しないことを悟っていた。
 何せ相手はスピード特化のダイウルフの特異版だ。
 この距離ではシュライトさんから学んだ技を繰り出すその前に攻撃される可能性がある。

 だからポイズンウルフに毒を撒き散らせることなく即死させられる一番難易度の高い方法を選んだ。

 「僕はそこのポイズンウルフを相手にする。だから、君はそこのダイウルフを相手にして欲しい」

 ……そしてその為にはギルド職員にダイウルフ達を相手取ってもらう必要があった。
 それも、魔術師タイプの冒険者だったその職員に。

 「っ!」

 僕の言葉にギルド職員は言葉を失った。
 当たり前だろう。
 Cランクでは例え戦士タイプであったとしても目の前の二体のダイウルフの猛攻を防ぐのは難しい。
 僕はそれを魔術師であるそんな人間にやれと言っているのだ。

 それは死ねというのに等しい言葉だった。

 「畜生!」

 ……けれども、その僕の言葉をギルド職員は否定しようとはしなかった。
 その顔には隠しきれない罪悪感が浮かんでいて、僕はギルド職員が今までのことを酷く悔やんでいることを悟る。
 実際、今回のことに関しては決してギルド職員はギルドのことを憎く思って行ったことではなかった。
 それどころか仲間であるエイナを大切に思い、だからこそ僕に辛く当たった。
 もちろんその関係を仕事に持ち込んだというそのことは決して許せることではない。
 けれども、ポイズンウルフが現れたのはただの偶然でしかなかった。
 普段ならばこんな大事件に発展するわけがなかったのだ。

 ……けれども、どう言い訳しようが己の所為でこの一大事を引き起こしたことを魔術師は分かっていたのだ。

 そのことをようやく彼はこの状況になったことによって悟ったのだ。

 「今まで本当にすまなかった……許せとは言わない。

 ーーー その代わりに絶対に俺は役目を果たす」

 だから彼は決意を決め、その言葉を最後に何か集中し始め……

 「我は願う」

 「っ!」

 そして次の瞬間、ギルド職員は詠唱を始めた。
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