上 下
33 / 60
1.ギルド編

第32話 遭遇

しおりを挟む
 先程の痕跡を見つけて、そしてその直ぐ後に僕はダイウルフが先程までいたと思われる痕跡を見つけていた。

 「明らかにおかしい……」

 けれども、その時の僕にはダイウルフをもうすぐで見つけられるという喜びはなかった。
 進むにつれて分かってきたのだ。
 そう、明らかにその痕跡がおかしいことに。

 変色した草、そして変死した小さな魔獣達。

 それらは普通ならば出来ることのない明らかな異常の印だった。

 「怯えてるに違いない」

 「ああ、所詮仮だ仮」

 しかし、僕の後ろでそう話し合うギルド職員は全くその痕跡に気づいていなかった。
 その時にはもう僕は悟っていた。
 ギルド職員達はもうほとんど役に立たないことを。
 今の彼らは僕を嘲笑うということだけに始終徹していて、今どれ程の自体が起きているのか、理解できていない。
 ……それも、僕が何度も警戒の声をあげてもなお、だ。
 そしてそんな状況が続けば僕も分かり始めていた。
 この状況を乗り越えるためには自分を信じて行動するしかないことを。
 だからダイウルフの存在を確認し、そしてポイズンウルフがいた時には急いでギルドに情報を持ち帰る。
 そう僕は決心する。

 ……しかし、この時僕は気づけていなかった。
 ここまで明らかな痕跡を見たのならば、確かめることなくギルドに情報を伝えるべきだったことを。
 だがその時、未だ僕の心に巣食っていた自信のなさが僕の行動を蝕んだのだ。
 ……そしてもう一つ、決して僕が犯してはならなかった失敗を犯していた。
 今からの状況は一つの失敗で全てが終わりかねない。
 そしてそんな状況に、状況を分かっていないギルド職員達を同行させてはいけなかったのだ。

 ……それが最悪の事態に繋がることを知らないまま、僕は進んで行く。






 ◇◆◇






 それから僕は迷うことなくダイウルフのいると思われる方向へと進んで行った。
 今まで見つけた痕跡で、ダイウルフの群れは決して遠く離れた場所にいないことを悟ったのだ。
 けれども、そこからダイウルフの群れを見つけるまで、長い時間がかかった。 
 相手にポイズンウルフがいた場合のことを考え、慎重に進んで行ったのだ。
 そしてその僕の只ならぬ様子に流石に気圧されたのか、ギルド職員達も騒ぎ立てることはなかった。

 「いた……」

 それからとうとうダイウルフの群れを見つけたのはそこから十数分は経った時だった。
 今まで慎重に動く僕に付き合わされ、ほとほとうんざりした様子だったギルド職員達の顔に緊張が浮かぶ。

 「待って」

 「っ!」

 けれども、僕は手を目の前に出し、飛び出そうとした彼らを制止した。
 ここでもし相手がポイズンウルフであった場合、僕はその相手をせず逃げるべきなのだから。

 「おい、なんだ?」

 僕は自分の行動に対して、不服げにギルド職員達が文句を言うのを無視してダイウルフの群れを覗き込んだ。
 絶対にバレることのないように慎重に。
 そして5匹のダイウルフを僕は眺める。

 「……僕の気にしすぎなのか?」

 そしてそれから僕はそうぽつりと呟いた。
 ポイズンウルフの特徴は、その片目が毒々しい紫に染まっていることだ。
 そして確かめて見たが、このにいるダイウルフの中には目が変色している個体は存在しなかった。
 それに、ポイズンウルフが被害を与えるのは人間や森だけではない。 
 同種族の魔獣にさえ、その毒は効果を及ぼす。
 つまり、ポイズンウルフがこのにいるのならばあのダイウルフ達は少なくとも調子が悪そうに見えなければおかしいのだ。
 けれども、そんな様子は一切見られない。
 そしてここはDランク相当の魔獣しかおらず、こんな場所にダイウルフが他にもいるとは思えない。
 そのことを確認した僕は、ポイズンウルフは自分の思い込みだったのだと、そう安堵の息を漏らしかけて……

 「っ!」

 ーーー その時、片目を真紫に染めた6匹目のダイウルフが他のダイウルフの後ろにいたことに気づいた。

 それはダイウルフの中でも大柄な、歴戦の雰囲気をかもし出している個体だった。
 ポイズンウルフであるとかを除いたとしても、注意すべきな、そんな個体。
 そしてその個体の目は明らかにポイズンウルフの中でも滅多に見ない綺麗な紫で……

 「嘘だろ……」

 ……そしてそれはその個体の持つ毒が酷く強力なことを示していた。
 ポイズンウルフの毒は、突然変異をした後、過ごす年月の長さによって強くなり、その強さは目の紫色の鮮やかさとなって現れる。
 つまり、そのポイズンウルフは明らかに強大な毒を持っていることをしめしている。
 そして、問題はそれだけではなかった。

 「……くそったれ!」

 あれだけ強力な毒を有するポイズンウルフの側であんなにも元気な他のダイウルフ達。
 その異様な光景はある最悪の事態を示していた。

 ーーー そう、ポイズンウルフ以外の他のダイウルフもポイズンウルフになりかけているという最悪の事態を。

 「っ!急いでギルドに連絡をしない……」

 そしてそのことを悟った僕はこのことをギルドに伝えるためにこの場を後にしようとする。

 「っぁ?」

 しかし、その時何かが僕の背を押した。

 一瞬思考が止まり、僕は押された勢いのままダイウルフ達の方向へと崩れ落ちて行く。

 「今更怖気付いて逃げるとか、こいつほんとなんだよ」

 その時その耳に蔑みのこもったギルド職員達の声が入った。
 そしてその声に今更ながら、僕は自分の失態を悟る。

 「ガァァァァア」

 しかし、それはもう手遅れで……
 次の瞬間、僕達の存在に気づいたポイズンウルフの雄叫びがその場に響いた……
しおりを挟む
感想 103

あなたにおすすめの小説

2回目チート人生、まじですか

ゆめ
ファンタジー
☆☆☆☆☆ ある普通の田舎に住んでいる一之瀬 蒼涼はある日異世界に勇者として召喚された!!!しかもクラスで! わっは!!!テンプレ!!!! じゃない!!!!なんで〝また!?〟 実は蒼涼は前世にも1回勇者として全く同じ世界へと召喚されていたのだ。 その時はしっかり魔王退治? しましたよ!! でもね 辛かった!!チートあったけどいろんな意味で辛かった!大変だったんだぞ!! ということで2回目のチート人生。 勇者じゃなく自由に生きます?

スライムと異世界冒険〜追い出されたが実は強かった

Miiya
ファンタジー
学校に一人で残ってた時、突然光りだし、目を開けたら、王宮にいた。どうやら異世界召喚されたらしい。けど鑑定結果で俺は『成長』 『テイム』しかなく、弱いと追い出されたが、実はこれが神クラスだった。そんな彼、多田真司が森で出会ったスライムと旅するお話。 *ちょっとネタばれ 水が大好きなスライム、シンジの世話好きなスライム、建築もしてしまうスライム、小さいけど鉱石仕分けたり探索もするスライム、寝るのが大好きな白いスライム等多種多様で個性的なスライム達も登場!! *11月にHOTランキング一位獲得しました。 *なるべく毎日投稿ですが日によって変わってきますのでご了承ください。一話2000~2500で投稿しています。 *パソコンからの投稿をメインに切り替えました。ですので字体が違ったり点が変わったりしてますがご了承ください。

俺の召喚獣だけレベルアップする

摂政
ファンタジー
【第10章、始動!!】ダンジョンが現れた、現代社会のお話 主人公の冴島渉は、友人の誘いに乗って、冒険者登録を行った しかし、彼が神から与えられたのは、一生レベルアップしない召喚獣を用いて戦う【召喚士】という力だった それでも、渉は召喚獣を使って、見事、ダンジョンのボスを撃破する そして、彼が得たのは----召喚獣をレベルアップさせる能力だった この世界で唯一、召喚獣をレベルアップさせられる渉 神から与えられた制約で、人間とパーティーを組めない彼は、誰にも知られることがないまま、どんどん強くなっていく…… ※召喚獣や魔物などについて、『おーぷん2ちゃんねる:にゅー速VIP』にて『おーぷん民でまじめにファンタジー世界を作ろう』で作られた世界観……というか、モンスターを一部使用して書きました!! 内容を纏めたwikiもありますので、お暇な時に一読していただければ更に楽しめるかもしれません? https://www65.atwiki.jp/opfan/pages/1.html

パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。

荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品 あらすじ  勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。  しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。  道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。  そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。  追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。  成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。  ヒロインは6話から登場します。

スキルを極めろ!

アルテミス
ファンタジー
第12回ファンタジー大賞 奨励賞受賞作 何処にでもいる大学生が異世界に召喚されて、スキルを極める! 神様からはスキルレベルの限界を調査して欲しいと言われ、思わず乗ってしまった。 不老で時間制限のないlv上げ。果たしてどこまでやれるのか。 異世界でジンとして生きていく。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界を【創造】【召喚】【付与】で無双します。

FREE
ファンタジー
ブラック企業へ就職して5年…今日も疲れ果て眠りにつく。 目が醒めるとそこは見慣れた部屋ではなかった。 ふと頭に直接聞こえる声。それに俺は火事で死んだことを伝えられ、異世界に転生できると言われる。 異世界、それは剣と魔法が存在するファンタジーな世界。 これは主人公、タイムが神様から選んだスキルで異世界を自由に生きる物語。 *リメイク作品です。

処理中です...