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1.ギルド編
第29話 目的
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「ふぅ、何とか前回の二の舞にならずに済んだ……」
元衛兵に絡まれ、気づけばかなり陽は落ちていた。
そのせいで最初に辺境街に行った日のように宿屋が取れなくなるのではないかと、そう心配した僕だったが、何とか無事に宿屋を取ることができた。
「まぁ、この街の宿屋は冒険者用の宿屋だから閉まることなんてないかもしれないんだけどね……」
そう言って少し前までの焦りきっていた自分を思い出して僕はくすりと笑う。
けれども、その笑みはすぐに消えた。
「これで中級の宿屋か……」
そう呟く僕が見ていたのは今日泊まることになった宿屋の中だった。
簡素なベッドに後は身体を洗う桶と食事付きの部屋。
それは正直、日本での生活に劣るどころかシュライトさんの家での生活に劣るものだった。
別に僕はそんな不衛生な環境では寝れないとか、慣れないとか言うつもりはない。
何せ修行中、僕はどろどろの沼地で野宿しなければならなかったこともあるのだから……
正直それに比べたらこの宿屋も天国なので、泊まれることに感謝こそすれ文句はない。
しかし、こんな宿屋で中級ならば、もっといい生活をさせてもらったシュライトさんに、僕はどれほどの家賃を払えば良いのだろうか?
シュライトさんはおそらく僕から家賃を貰おうなんて考えていないだろう。
けれども僕はここで稼いで何としてでもシュライトさんにそのお金を返すつもりだった。
何せ、それが僕がこの場所に来た目的なのだから……
◇◆◇
僕がこの世界に来た所の目的、それは様々なものがある。
この世界にせっかく来たのだから美味しいものは食べてみたいし、ある程度の強さを手に入れたのだからゆるゆると旅もしてみたい。
そして最終的には元の世界に戻ってもみたい。
決して元の世界に何か残して来たわけではない。
正直、元の世界に待っているのは無断欠勤で辞めさせられた会社ぐらいではないだろうか?
しかしそれでも僕は一度は元の世界に戻ってみたい。
その理由なんて自分でもよくわかっていない。
戻れない、そう断言されたらあっさりと諦めてしまったような、けれども少しでも希望があるなら……と諦めきれない郷愁のようなもの。
そして当初僕はその手がかりを探しながら旅をする予定だった。
それなのに僕がこんな場所に来た理由、それはシュライトさんに恩を返すためだった。
最初言った宿賃、それを除いても僕はシュライトさんに返しきれない程の借金がある。
沼地で僕が何百個も使った高級ポーションは一個地球円で十万以上するし、僕がこれだけの実力を身につけられるようになった授業料を含めればどれほどの金額になることか……
恐らくこんなにも僕によって散財していてもシュライトさんはお金を返すことなど求めていないだろう。
しかし、だからといってそれで終わらせるわけにはいかない。
当たり前だが、そんな大金を借りっぱなしで終わることなど許せるわけがないのだから。
もちろんそれで全ての恩がかえせるわけではない。
そのことは分かっている。
けれども、それはお金を返さなくて良い口実にはならず……
だから僕は一番手っ取り早くお金を稼げる冒険者になったのだ。
「……なのになあ」
けれども、今僕はあまり素直に喜ぶことができなかった。
今日の出来事で僕はいち早く稼げるようにはなった。
けれども、だからといってスムーズにお金を稼いでいけるそんな風にはいかないだろう。
悩ましげな顔をする僕の頭に浮かぶのは僕を睨みつけていたギルド職員達。
今日彼らは支部長に引きずられていっていたが、それでもまだ僕に好意的に接するなんて考えには至らないだろう。
いや、それどころか僕を妨害する方向に動き出す可能性が高い。
そしてギルドでギルド職員に敵視される状態になれば、どれほど動きに支障が出るか……
「はぁ……」
先のことを考え、僕は思わず溜息を漏らす。
原因であるエイナが僕に対する謎の敵意を収めてくれればギルド職員の敵視は無くなるのだろうが、理由がわからない今、そんなことが起きるとは考えにくい。
そして素直に頼み込んだところで教えてくれるかどうか……
「……何でこんなに厄介なことになってるんだろうか?」
次の瞬間僕の口から漏れた声、それには隠しきれない哀切が込められていた。
「いや、今は先のことはいい!無事に推薦が受けれたことを祝おう!」
けれども次の瞬間、僕は頭を振って頭を切り替えた。
たしかに厄介なことはあった。
けれども今の目的は達したのだ。
それを今は素直に喜んでもいいだろう。
確かに今祝ったところで現実逃避でしかない。
けれども祝う時間を考える時間に変えたところでいい案が出てくるわけではないのだ。
だとしたら切り替え、明日から考えればいい。
そう僕は判断して、財布を取り出す。
「あ、」
そしてその財布の持ち主を僕は思い出した。
よくは覚えていないが、親切にこの財布を与えてくれたそんな衛兵。
……だった気がする。
「あの人は今何してんだろうか?」
そしてそんな風に呟く僕は気づいていなかった……
……その思い出はただの勘違いでしかなく、その衛兵には既に出会っていることを。
元衛兵に絡まれ、気づけばかなり陽は落ちていた。
そのせいで最初に辺境街に行った日のように宿屋が取れなくなるのではないかと、そう心配した僕だったが、何とか無事に宿屋を取ることができた。
「まぁ、この街の宿屋は冒険者用の宿屋だから閉まることなんてないかもしれないんだけどね……」
そう言って少し前までの焦りきっていた自分を思い出して僕はくすりと笑う。
けれども、その笑みはすぐに消えた。
「これで中級の宿屋か……」
そう呟く僕が見ていたのは今日泊まることになった宿屋の中だった。
簡素なベッドに後は身体を洗う桶と食事付きの部屋。
それは正直、日本での生活に劣るどころかシュライトさんの家での生活に劣るものだった。
別に僕はそんな不衛生な環境では寝れないとか、慣れないとか言うつもりはない。
何せ修行中、僕はどろどろの沼地で野宿しなければならなかったこともあるのだから……
正直それに比べたらこの宿屋も天国なので、泊まれることに感謝こそすれ文句はない。
しかし、こんな宿屋で中級ならば、もっといい生活をさせてもらったシュライトさんに、僕はどれほどの家賃を払えば良いのだろうか?
シュライトさんはおそらく僕から家賃を貰おうなんて考えていないだろう。
けれども僕はここで稼いで何としてでもシュライトさんにそのお金を返すつもりだった。
何せ、それが僕がこの場所に来た目的なのだから……
◇◆◇
僕がこの世界に来た所の目的、それは様々なものがある。
この世界にせっかく来たのだから美味しいものは食べてみたいし、ある程度の強さを手に入れたのだからゆるゆると旅もしてみたい。
そして最終的には元の世界に戻ってもみたい。
決して元の世界に何か残して来たわけではない。
正直、元の世界に待っているのは無断欠勤で辞めさせられた会社ぐらいではないだろうか?
しかしそれでも僕は一度は元の世界に戻ってみたい。
その理由なんて自分でもよくわかっていない。
戻れない、そう断言されたらあっさりと諦めてしまったような、けれども少しでも希望があるなら……と諦めきれない郷愁のようなもの。
そして当初僕はその手がかりを探しながら旅をする予定だった。
それなのに僕がこんな場所に来た理由、それはシュライトさんに恩を返すためだった。
最初言った宿賃、それを除いても僕はシュライトさんに返しきれない程の借金がある。
沼地で僕が何百個も使った高級ポーションは一個地球円で十万以上するし、僕がこれだけの実力を身につけられるようになった授業料を含めればどれほどの金額になることか……
恐らくこんなにも僕によって散財していてもシュライトさんはお金を返すことなど求めていないだろう。
しかし、だからといってそれで終わらせるわけにはいかない。
当たり前だが、そんな大金を借りっぱなしで終わることなど許せるわけがないのだから。
もちろんそれで全ての恩がかえせるわけではない。
そのことは分かっている。
けれども、それはお金を返さなくて良い口実にはならず……
だから僕は一番手っ取り早くお金を稼げる冒険者になったのだ。
「……なのになあ」
けれども、今僕はあまり素直に喜ぶことができなかった。
今日の出来事で僕はいち早く稼げるようにはなった。
けれども、だからといってスムーズにお金を稼いでいけるそんな風にはいかないだろう。
悩ましげな顔をする僕の頭に浮かぶのは僕を睨みつけていたギルド職員達。
今日彼らは支部長に引きずられていっていたが、それでもまだ僕に好意的に接するなんて考えには至らないだろう。
いや、それどころか僕を妨害する方向に動き出す可能性が高い。
そしてギルドでギルド職員に敵視される状態になれば、どれほど動きに支障が出るか……
「はぁ……」
先のことを考え、僕は思わず溜息を漏らす。
原因であるエイナが僕に対する謎の敵意を収めてくれればギルド職員の敵視は無くなるのだろうが、理由がわからない今、そんなことが起きるとは考えにくい。
そして素直に頼み込んだところで教えてくれるかどうか……
「……何でこんなに厄介なことになってるんだろうか?」
次の瞬間僕の口から漏れた声、それには隠しきれない哀切が込められていた。
「いや、今は先のことはいい!無事に推薦が受けれたことを祝おう!」
けれども次の瞬間、僕は頭を振って頭を切り替えた。
たしかに厄介なことはあった。
けれども今の目的は達したのだ。
それを今は素直に喜んでもいいだろう。
確かに今祝ったところで現実逃避でしかない。
けれども祝う時間を考える時間に変えたところでいい案が出てくるわけではないのだ。
だとしたら切り替え、明日から考えればいい。
そう僕は判断して、財布を取り出す。
「あ、」
そしてその財布の持ち主を僕は思い出した。
よくは覚えていないが、親切にこの財布を与えてくれたそんな衛兵。
……だった気がする。
「あの人は今何してんだろうか?」
そしてそんな風に呟く僕は気づいていなかった……
……その思い出はただの勘違いでしかなく、その衛兵には既に出会っていることを。
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