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1.ギルド編

第24話 重なる面倒ごと

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 「ふぅ……」

 意識を失い崩れ落ちるエイナ。
 その様子に僕は安堵の息をついた。
 恐らく戦闘開始から今まで掛かった時間はごく僅かで、あっさりと勝利を得ることはできた。
 けれども決して僕の圧勝というわけではなかった。
 実は神経などを魔力強化で強化することはかなり難易度が高い。
 ただ単純に魔力強化で身体能力をあげるとは訳が違い、細かく複雑なイメージが必要になる。
 そう、日本の知識がなければイメージ出来ないほどに。
 そしてその知識を持つ僕でさえ、一瞬でできる身体強化に比べてある程度の時間を有する。

 つまり僕がエイナの攻撃に対して魔力強化を成功したのは本当にギリギリの時間だった。

 想像以上のエイナの実力、それに気を取られ一瞬魔力強化に遅れたのだ。
 そこからエイナの攻撃に対処できるタイミングで魔力強化が成功したのはただ偶然と、そういうしか出来ないことだった。

 「何とか、勝った……」

 だから僕は手にした勝利に、危うい橋を渡りきったと引き攣った笑みを浮かべる。

 「あいつ、やりやがったぞ……」

 「あの、豪腕のエイナをああもあっさりと……」

 「鞘から剣を抜くことさえ無かったぞ!」

 ……しかし、そんなことは外野の人間にはわかるはずがなかった。
 今まで僕がエイナに負けると、確信して面白半分で見ていた冒険者達の驚愕の声。
 それに今更ながら自分が何をしたかを悟り、頬を引きつらせた。
 ……そうか、二つなということはエイナはBランクの冒険者だったのか。ドウリデツヨカッタナー。
 なんて現実逃避気味に考えてみるが、だが周りで騒ぐ冒険者達の興奮は冷めることはなかった。
 当たり前だろう。
 何せBランク冒険者とは、冒険者にとって一つの目標だ。
 その能力から二つ名を与えられ、明らかに人間とは一線を画した実力を有する超一流の冒険者。
 そしてその実力は決して偽りでは無かった。
 あの細身の身体で、自分の身体よりも大きい大剣を使っていたエイナ、彼女は間違いなく魔力強化を使っていた。
 精度の面で考えれば、僕やシュライトさんには及ばないだろうが、それでもちゃんとした魔力強化を。
 そして魔力強化はシュライトさん曰く、殆どこの世界には流出していない技術らしかった。
 何せ使うためには幼少の頃から鍛えなければならない上、殆どその存在を知る者はいないのだ。
 だがその身体強化は魔術の身体強化など比にならない効果を持つ。
 そんな技術を持っていたエイナは恐らくBランクの中でも中々の実力を持っていたのだろう。

 「凄いな、お前!俺のパーティーに来ないか!」

 「いや、俺のところに来いよ!こいつのところなんて本当の雑魚だぜ!」

 ……そしてそんなエイナをあっさりと倒した僕に冒険者達が興味を持たないわけがなかった。
 次から次へと僕を自身のパーティーに加入させようとする冒険者に僕は思わず頬を引きつらせてしまう。 
 決してエイナに対して怒ったことに関してはなんの後悔もない。

 シュライトさんは幾らあの光の剣の能力を持っていても、このままでは野垂れ死ぬ可能性の方が高かった僕を助けてくれた恩人だった。
 たしかに鍛錬は厳しくて、何度逃げようと思ったか数え切れないほどある。
 けれども、そのおかげで僕は冒険者都市とこの世界で生きて行けるだけの実力を身に付けることができた。
 本当に僕はシュライトさんに心から感謝している。

 そしてだからこそ、シュライトさんから貰った認定証を握りつぶされたそのことだけは許すことができなかった。

 それは僕の中で絶対に譲ってはいけないことだった。
 それくらい僕にとってあの認定書は大切なもので……

 「おい!お前らじゃ力不足だって言ってんだろうが!」

 「はっ?お前程度が俺にどの口叩いていやがる!」

 ……けれどももう少しやりようがあったのではないかと今は反省していた。
 決してエイナに怒ったことに対してはなんの反省もしていない。
 けれどもあの場でまるで僕がレイナを圧倒したような倒し方はする必要なかった。
 いや、してはならなかった…… 
 そのことを僕は目の前でBランクのギルド職員を圧倒した人間を自身のチームに入れようと修羅場る冒険者達の姿に今更ながら悟る。
 けれども今そんなことに気づいたところで、目の前の騒ぎが治るわけでもなく僕はこの場から逃げようかと、投げやりに考える。

 「何事だ!」

 そしてその時だった。
 エイナと同じ制服に身を包んだ、ギルド職員の男がこの場の騒ぎを聞きつけ、やって来たのだ。
 その男の姿に冒険者達がばつが悪そうな顔をして騒ぐのをやめる。
 その光景に一瞬、僕は男がまるで救世主であるかのような錯覚に陥り……

 「エイナ!一体何が……これはお前がしたのか!」

 ……だが次の瞬間、気を失ったエイナの姿に僕を射殺さんとでもいうような目で睨んでくる男の姿に、その考えは早計であったことを悟った。
 ……うん、新しい面倒ごとの匂いがする。
 なんでこんなことになったのだろうか……

 「少し話を聞かせてもらおうか」

 そんなことを考えながら僕は激怒した様子の男に連れて、ギルドの広場を後にすることになった……
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