ヒビキとクロードの365日

あてきち

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1月

1月16日『禁酒の日』

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 バルス「クロード、助けてくれー! ジュエルが、ジュエルがー!」

クロード「いらっしゃい、バルス殿。ジュエル殿なら今いらっしゃっておりますが」

 バルス「ここに来てたのかよ! ジュエルー!」

ジュエル「あら、バルス様。お任せしていた仕事は終わりましたの?」

 ヒビキ「あ、いらっしゃい、バルス兄貴」

 バルス「邪魔するぜヒビキ。ジュエル、俺の『アレ』をどこにやりやがった!」

クロード「……一体全体何なのですか、これは?」

 ヒビキ「うーん、一種の痴話喧嘩?」

ジュエル&バルス「「全然違ーう!」」

クロード「きちんと説明していただけませんか?」

 バルス「ジュエルの奴が俺のとっておきの高級ワインを持ち逃げしたんだ!」

ジュエル「持ち逃げしただなんて人聞きの悪い。私はバルス様が仕事中にもかかわらずワインをグビグビ飲み散らかしていたので一時的に没収しただけです!」

 バルス「休憩時間に飲むくらいいいじゃねえか! 仕事はちゃんとやってるぞ!」

ジュエル「その後も仕事があるのに飲酒をするなんて非常識です。ギルドマスターとしての自覚がなさすぎます!」

 バルス「なあっ! ジュエルの奴酷いだろうっ!?」

クロード「いや、酷いのはバルス殿でしょう。せめて仕事終わりに飲みましょうよ」

 バルス「なんでだっ!? ヒ、ヒビキいいいい!」

 ヒビキ「ごめんね、バルス兄貴。俺もジュエルさんの意見に賛成かな」

 バルス「そ、そんな~」

 ヒビキ「今日1月16日は『禁酒の日』でもあるし、しばらくお酒は控えた方がいいんじゃないかな」

ジュエル「まあ、そのような記念日があるのですか?」

 ヒビキ「アメリカのだけどね。1920年1月16日にアメリカで『禁酒法』が施行されたことにちなんで制定された記念日だよ」

クロード「法で飲酒を禁止したのですか?」

 ヒビキ「当時のアメリカはキリスト教のプロテスタントのグループのひとつ『ピューリタン』の影響を強く受けていて、彼らがアルコールに対してとても否定的だったんだ。それに加えて、男性が不健全な酒場に入り浸ることで家庭生活に支障をきたすことが多くなり、女性からの禁酒運動が大きくなったことが原因だね」

ジュエル「……不健全な酒場……禁止されても仕方がありませんわね」

 ヒビキ「現代では悪法と言われているけどね」

クロード「悪法なのですか?」

ジュエル「なぜそのような評価に? バルス様のような駄目人間を更生させる素敵な法律だと思いますが」

 ヒビキ「『禁酒法』は飲料用アルコールの製造・販売・運搬等を禁止する法律なんだけど、自宅で飲む分には禁止されなかったんだ」

クロード「??? では、自宅で飲めるのでは?」

 ヒビキ「だから多くの富裕層が施行前にお酒を大量に買い溜めしたらしいよ」

ジュエル「なんというか、ザルな法律ですわね」

 ヒビキ「まさにザル法といわれているね。たとえば国内でのアルコール販売等は禁じられていたけど、隣国カナダからの輸送は取り締まられなかったから……」

クロード「うわー、向こうで購入して運搬すれば解決ですね」

 ヒビキ「あと、禁酒法の執行官の待遇もあまりよくなかったみたい」

ジュエル「それは……簡単に買収されそうですわ。密売・密造も楽でしょうね」

 ヒビキ「実質的にはうまく機能しなかったというのが実情みたいだね。むしろ飲酒禁止にされたことで、逆に酒関係の犯罪が増加したって話だよ」

 バルス「ほーらな! むやみやたらに酒を禁止するのは逆によくねえんだよ!」

ジュエル「むむぅ……」

クロード「さっきまで意気消沈としていたのに、急に息を吹き返しましたね」

 バルス「というわけで、ほら、俺のワインを返せよ、ジュエル」

 ヒビキ「バルス兄貴のワインなら俺が預かってるよ」

 バルス「おお、そうか! ヒビキ、俺の酒を返してくれ」

 ヒビキ「ダメ」

 バルス「へ?」

 ヒビキ「ダメ」

 バルス「……え、いや、だって……『禁酒法』は悪法だって……」

 ヒビキ「それとこれとは話が別でしょ。仕事中にお酒を飲むなんて、俺、バルス兄貴の常識を疑っちゃうんだけど?」

 バルス「な、なんでだあああああああああああああああああああああ!?」

クロード「当時はこういう人が多かったんでしょうね……」





★★★★★
その他の記念日『藪入り』
※商家などの住み込み奉公していた丁稚や女中などが帰郷することができた休日。
※旧暦1月16日と旧暦7月16日の2回あった。

 ヒビキ「奉公人とかがあった江戸時代の記念日、というか祝日的な?」
クロード「年に二回しか帰郷できないとは、なかなかシビアな世界ですね……」
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