ヒビキとクロードの365日

あてきち

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12月

12月16日『紙の記念日』

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クロード「ヒビキ様、あの――」

 ヒビキ「あ、クロードいいところに。ちょっと紙取ってくれる?」

クロード「はいどうぞ」

 ヒビキ「ありがと……て、これ羊皮紙じゃない?」

クロード「そうですが?」

 ヒビキ「いや、うん、こっちの世界で『紙』といえば確かに羊皮紙のことだけども……俺が取ってほしかったのは、クロードの足元にあるティッシュペーパーだよ」

クロード「ああ、こちらでしたか。どうぞ、ヒビキ様」

 ヒビキ「むしろその羊皮紙どこから出したのさ。ありがと。ちーん! すっきり」

クロード「しかし、たかだか鼻をかむのに紙を使うだなんて、ヒビキ様の世界は本当に豊かですよね。こちらの世界ではとてもとても」

 ヒビキ「大量生産技術が確立されたおかげだね。現代日本人としては、ティッシュペーパーもトイレットペーパーも欠かすことのできない文明の利器ってやつ? 今日12月16日は『紙の記念日』だけに、その有難みもひとしおって感じだよ」

クロード「……またそんなマイナーな記念日を掘り起こしてきましたね」

 ヒビキ「1875年の今日、のちの国内大手製紙会社『王子製紙』の起源となる『抄紙会社』の工場で営業運転が開始されたことにちなんだ記念日だよ」

クロード「『王子製紙』? ……どこかの王族が設立した会社か何かですか?」

 ヒビキ「全然違うよ。『抄紙会社』が設立した地名が東京と『王子』だからだよ」

クロード「なんというか、ちょっとサギっぽい社名ですね」

 ヒビキ「そこまで言う? あ、これはクロード一人の個人的な意見であり、俺はもちろんのこと作者も一切関係ありま――」

クロード「何に対する予防線を張っているのですか」

 ヒビキ「クロードが変なことを言うからでしょ。『王子製紙』は『抄紙会社』から考えれば140年以上続いている製紙会社の老舗中の老舗だよ。サギでもなければマイナーでもないと思うんだけどな」

クロード「では、その記念日の認知度はいかほどで?」

 ヒビキ「……知る人ぞ知る?」

クロード「つまり知らない人は全く知らない、と」

 ヒビキ「この記念日に『王子製紙』が何かイベントを企画しているわけでもないからね。そこはもう仕方ないというか何というか」

クロード「まあ、一年は365日もあるわけですから、こういう歯切れの良くない記念日の日もありますか。確かに仕方ないですね、うんうん」

 ヒビキ「いや、そういう意味で言ったんじゃないんだけど……そういえば、冒頭で俺のこと呼んでたけど何か用だったの?」

クロード「え? ああ、そういえばそうでした。トイレの紙がなくなったのでお知らせしておこうかと思いまして」

 ヒビキ「え? 予備は?」

クロード「一つも残っていませんでしたね」

 ヒビキ「つ、つまり今トイレには……」

クロード「使える紙はゼロ枚です」

 ヒビキ「もー! 早く言ってよー! こんな話してる場合じゃないじゃない!」

クロード「私の呼びかけを遮ったのはヒビキ様なのですが」

 ヒビキ「こうしちゃいられない! マジ速攻で買いに行ってこなくちゃ! 紙なしでトイレなんて、現代日本人には無理だから! んじゃ、行ってきまーす!」

クロード「あ、ちょ、ヒビキ様! ……行ってしまった。なんというか、今日のヒビキ様とは全然上手く『かみ』合いませんね……カミだけに。ぶくくっ」

 ヒビキ「へーっくしょん! 何? 今、物凄い悪寒がしたんだけど……?」




★★★★★
その他の記念日『電話創業の日』
※1890年12月16日。
※東京市内と横浜市内の間で日本初の電話が開通したことに由来。

クロード「東京―横浜間って……また随分とニッチな記念日ですね」
 ヒビキ「クロードから『ニッチ』なんて言葉を聞く日がこようとは……」
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