ヒビキとクロードの365日

あてきち

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12月

12月13日『正月事始め』

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 ヒビキ「俺は、山にやって来たー!」

クロード「先日来たばかりですけどね」

 ヒビキ「それは言わない約束でしょ、おとっつぁん」

クロード「誰がおとっつぁんですか!? それで、背負子なでかついで何しに山に来たのですか? このあたりにあるのは枯れ木ばかりですが……」

 ヒビキ「もちろん薪拾いさ。なんたって今日12月13日は『正月事始め』の日だからね! ジャンジャンバリバリ拾っちゃうよ!」

クロード「ジャンジャンバリバリの使い方が間違っている気がします。しかし、薪拾いですか。その『正月事始め』というものと何の関係があるのです?」

 ヒビキ「『正月事始め』はその名の通り、正月を迎える準備を始めることだよ。っかつて旧暦12月13日、今は新暦12月13日に行う慣わしなんだ」

クロード「ふむ、正月の準備のために薪拾いですか?」

 ヒビキ「あれ? そういうのはクロードの世界の方が理解できると思うけど?」

クロード「???」

 ヒビキ「昔はこの日に正月の門松の材料や、お雑煮を炊くための薪なんかをこの日に取りに行く習慣があったんだよ。こっちの世界で火を起こすには薪がいるから、理解しやすいかと思ったんだけど……?」

クロード「言われてみれば……私、思ったよりヒビキ様の世界の文明に毒されていたんですね。くっ、こたつは使っていないのに」

 ヒビキ「まあ、こたつがなくても年中エアコンは使っているからね。クロードの場合はそれ以前にネットの住人になっている方が問題だけど」

クロード「あはは、私なんてまだまだライトユーザーですよ」

 ヒビキ「……ホントに本編には持ち込まないでね?」

クロード「ともかく、何のために山に来たのかは理解できました。要するに今日から年越し準備が始まったということですね」

 ヒビキ「冬を越す準備はもっと早く始めておかないとダメだけどね」

クロード「確かに、冬用の薪拾いなんて今から始めたのでは遅いくらいです。しかし、あえて今日が『正月事始め』なのには何か意味があるのですか?」

 ヒビキ「江戸時代中期まで使われていた暦法『宣明暦』では、12月13日の二十七宿(※)は必ず『鬼』で、鬼の日は婚礼以外全てのことに吉とされていたんだって。それが正月の年神様を迎えるのにはよいってことでそうなったみたい」

(※)二十七宿:月の見かけの通り道(白道)を27のエリアに等分割する方法)

クロード「つまり縁起が良かったと」

 ヒビキ「改暦で日付と二十七宿が同期しなくなったけど、旧暦にしろ新暦にしろ、『正月事始め』は12月13日に行うっていう風習はそのまま続いたみたいだね」

クロード「こうやって過去の風習は少しずつその時代に合わせたものへと変遷していくのですね。勉強になります。しかし……」

 ヒビキ「さ、『正月事始め』を理解できたなら早速行動開始だよ」

クロード「それなのですが、ヒビキ様……」

 ヒビキ「何?」

クロード「『正月事始め』は理解しましたが、わざわざ薪を拾う必要があるのでしょうか? 現在、我が家にそんなものを必要とする設備はないような気が……」

 ヒビキ「……」

クロード「……」

 ヒビキ「……か、門松を作るために松と竹を取りに行くよ!」

クロード「完全に勢いだけで山に来ちゃったんですね。さて、竹林などこの山にあったでしょうか……?」





★★★★★
その他の記念日『美容室の日』
※とある美容師さんが2003年に制定。
※12月は美容室を訪れる客が多いことから。
※13日は『13』の数字が『Beauty』の頭文字『B』に見えることから。

クロード「なかなか斬新なこじつけですね。むしろ感心してしまいました」
 ヒビキ「というわけでクロードの予約しておいたよ」
クロード「え? 私は毛が生え変わるので別段美容室など……」
 ヒビキ「いや? ペットトリマーに」
クロード「絶対に行きませんからね!」
 ヒビキ「トリマーさんに『はーいクロードくん、お腹みせてねー』とか言わ――」
クロード「ぜったいに、行きませんからねえええええええ!」

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